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第40回:「正義」と「悪」は紙一重かもしれない

こんにちは、あみのです。今回の本は達間涼さんのライトノベル作品『PAY DAY』(MF文庫J)です。

ラノベでも普段はラブコメが多いので、今作のような少年漫画っぽい雰囲気の作品は読んでいて少し新鮮な気分になりました。コミカライズしても魅力が引き出せそうな作品でしたね。

今作は世間で「悪役」と呼ばれている存在たちの物語です。悪役は何のために「正義」と戦うのかがよくわかる作品でした。ちょっと違う角度から「正義の味方」の活躍を見てみたい人に楽しんで頂きたいです。

あらすじ(カバーからの引用)

少年よ、生き延びろ。
「命を稼ぎなさい」と魔女は言った――。ヒトの”命”を奪う異形の犯罪者、『カツアゲ仮面』の都市伝説が旭日市で囁かれるようになって二ヵ月。埠頭高校に通う不良少年、鳥羽春樹は、魔女に命を支払う下働きとしてヒトの”命”をカツアゲする日々を過ごしていた。魔女に脅され、警察には追われ、完全無敗のヒーロー『ブレイズマン』までもが立ちはだかる。刻一刻と”命”の支払い期限が迫る中、春樹は仲間達と共に現状打破の秘策に打って出る。魔女に奪われてしまった「俺達」の青春を、いつかこの手に取り戻すことを夢に見て―――
命を賭けて、命を稼ぐ。怪物に貶められてしまった日陰者たちの新たなるダークヒーロー譚、開幕。

感想

「魔女」によって「怪物」の姿にされた高校生たちが手に入れたかったのは、ありきたりな「青春」でした。

「魔女」アポトーシスの欲望に付き合わされ、それぞれの能力を活用しながら街中の人々の「命」を奪っていく「フォールド」と呼ばれる怪物たち。

フォールドとなった春樹たちが他人の命を奪うことは、単にアポトーシスの指示に従っていただけでなく、人間における「食事」と同等の行為でもあると感じました。

今作にはフォールドと敵対する存在として、「ブレイズマン」という正義の味方が登場します。彼は、フォールドから街の人々の命を奪わせないために戦うみんなから愛される存在でした。

普通だったらブレイズマンが主人公の物語として、フォールドという悪とただただ戦う物語になると思います。

しかし、今作は悪役にあたるフォールドの視点で描かれる物語なので、読んでいくうちに「ブレイズマンって本当に正義の味方なのか?」と疑問を感じてしまいました。

実際、作中にもいくら「正義の味方」を名乗っていてもすべての命を救うことはできないとブレイズマンの妻が指摘するシーンがありました。ちなみにブレイズマンは妻子持ちです。この妻の指摘が物語の後半、大きなカギとなります。

生きるための活動を邪魔するブレイズマンを倒すため、春樹と仲間たちはそれぞれが持つフォールドの能力を駆使した作戦を立てます。

4人の個性を活かし、ブレイズマンに立ち向かうまでの過程はまるでスポーツ小説で味わうような高校生同士の絆の強さ、そして青春を感じました。

一方で「完全無敗のヒーロー」といわれてきたブレイズマンは、フォールドたちと戦っていく中で命の終わりが近づいていきます。

死が迫る中でブレイズマンが選んだ究極の「正義」の選択。そこからは、彼自身の本来の優しさと同時に、どうしようもなく切ない感情が襲い掛かってきました…。優しすぎる性格が生んだ悲劇が私の心をぎゅっと締め付けました。

この結末を経て、春樹たちが「フォールド」として戦う理由は完全になくなったのでしょうか?

一応、今作はひとつの物語としてまとまった結末を迎えていますが、タイトルには「1」と入っています。続編があることを考えてみると、春樹たちが「本物の青春」を手に入れるのはまだまだ先のことかもしれません。

春樹たちの物語はまだまだ続くのか、それともまた別の物語となるのか続編のことはよくわかりませんが(シビアな方面だと売上のこともありそうですし)、私の中にあった「正義」という存在の見方を歪ませた物語なのは確かでした!

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