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第44回:「画面の中で頑張る人」を応援する人にこの「花束」のような物語を

汐見夏衛さんの『ないものねだりの君に光の花束を』という小説を読みました。汐見さんの作品ではこれまでに、人とのつながりや命の大切さ、戦争の恐怖を描いた物語と出会い、何度も感動や学びを得ました。

今回のお話には、クラスの「モブ」としてひっそりと生きる主人公と「アイドル」として芸能界で活躍する男子生徒の交流が描かれます。

設定だけでは非現実的な話と思うかもしれません。だけど、この物語に登場する問題はとても現実的です。また、少女漫画でもありそうな設定ですが、これは主人公と男子生徒のラブストーリーではないと私は思います。

男子生徒を自分の好きな芸能人に当てはめて読んで頂きたいです。もし、好きな芸能人が彼のようなことを起こしてしまったら、自分ならまず何を思いますか?

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主人公・影子(えいこ)のクラスには、アイドルグループのメンバーとして活躍する真昼という男子生徒がいます。欠点がない真昼は、学校でもみんなからの人気者で、多くの生徒から慕われていました。

これまで真昼との接点がなかった影子ですが、図書委員の仕事をきっかけにテレビや教室では見たことがなかった彼の一面を知ります。人気アイドルとの意外な共通点が、影子と真昼の絆を更に深めていきます。

「みんなから愛される自分」を演じていることもあり、どこか居心地の悪さを感じていそうな真昼。中盤、彼の芸能活動に大きく関わるひとつの報道が物語を大きく動かします。

人気アイドルの「罪」から連鎖していく、真昼の思わぬ過去。世間から厳しい言葉を浴びせられる真昼を影子は救うことができるのか?…と大体のあらすじはこんな感じ。

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以下、私が今作を読んだ感想です。

影子が真昼を連れて、遠くへ逃げようとする様子から始まる今作からは、どこか不安な予感がしました。

少女漫画のような2人の微笑ましい関係が、どのようにして冒頭の選択へとつながっていくのか、要注意して読み進めました。

影子のことを揶揄うなどして楽しい学校生活を過ごす真昼ですが、一方で「人気者の自分」を偽っていることもあり、どこか現状に対する生きづらさを抱えているようにも見えました。

自分に無理をして生きてきた真昼は、あるとき芸能人生に大きく関わる罪を犯し、問題になってしまいます。それは「万引き」という充分に「犯罪」といえるものでした。

これまで真昼を応援していた人たちが、ひとつの報道によって一気に敵に。教室やネット上で飛び交う真昼の悪口には、影子だけでなく私もとても悲しい気持ちになりました。「ファン」って一体なんだろう?

これが物語の世界の話だけでなく、現実世界でも起きていることだと思うと余計にも許せなくなります。「言葉」だって充分に人を殺せる「凶器」になってしまうことをもっと知ってほしいです。

また、なぜ真昼は万引きなんてしてしまったのか?この事件の背景には、彼の家庭環境に関する残酷な真実がありました。

作中にはよく「特別」「普通」という言葉が出てきました。何も取り柄のない影子からすれば、アイドルという輝かしい姿がある真昼は「特別」な人間だと思っていました。

だけど、これまで家族からの「愛」を受けたことがなかった真昼としては、この「特別」という言葉を嫌っていました。そして、影子のような「普通」の家族に憧れていました。

「普通」という言葉の解釈は人によって違うと私は思います。でも今作における「普通」とは、「家族からの愛を受けているかどうか」なんじゃないのかなと最終的には思いました。

家族との時間、家族の言葉を日々大切に、家族がいることへのありがたみを忘れずに生きていきたいと思った物語でもありました。

例の報道によって人生最大のピンチが訪れてしまった真昼ですが、世の中には彼を批判する人だけでなく、しっかり応援している人、真昼に勇気を貰っている人だってたくさんいることを影子に教えてもらいます。

芸能人だって、私たちと同じ人間。嫌なことを言われたら傷つくし、励ましの声があれば「もっと頑張ろう」という気持ちになれる。

好きな芸能人にネガティブな噂ができても気にせずに、温かい気持ちで応援できる人に私もなりたいと思いました。

不安な雰囲気から始まり、希望を感じて読み終わることができた物語。この青春小説にはきっと多くの人が共感し、勇気づけられるのではないかと思いました。



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