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第179回:独り占めしたい少年の秘密(堀辰雄:『鼠』*乙女の本棚シリーズ)

こんにちは、あみのです!
今回の本は「乙女の本棚」シリーズより、堀辰雄の『鼠』という作品です。

今作では誰にも言えない家族の悩みを抱える少年が登場します。友達と遊ぶ時間も好きだけど、時には家族のこととか恋愛のこととかひとりでじっくり向き合いたいこともある…。そんな気持ちに共感してしまう人もいるかもしれない物語です。

感想

彼等は鼠のように遊んだ。

P4 

少年たちは空き家の物置小屋を秘密基地のようにし、自宅から様々な物を持ち込んでは日々楽しく遊んでいました。興味本位で父親の煙草を吸うなど、少年たちの純粋な心にはどこか危うさを感じるところもありました。

そんな中、遊び道具として物置小屋に石膏の女の人形が持ち込まれます。少年たちの興味の対象として持ち込まれた人形は、遊んでいるうちに壊れてしまいます。更にはこのことによって物置小屋にはお化けが出るという噂まで流れてしまい、少年たちは新しい遊び場所を探し出します。

しかし噂の背景には、仲間のひとりの少年が周りに隠していた「秘密」が関わっていました。噂を流した少年は最近母親を亡くしており、その悲しみを何らかの方法で埋めたいと考えていました。

母の死で悲しんでいる気持ちを誰にも知られたくなかった少年。自分の気持ちと向き合うために噂を流してまでみんなの居場所を奪った少年の行動からは、母との死別が彼にとってどれほどショッキングな出来事だったのかが強く感じ取れました。

悲しみを埋めるため、物置小屋でひとりで過ごす少年は夢を見ます。それは例の人形がだんだんに亡き母の姿へと近づいていく不思議な夢でした。

――次の瞬間、彼は愛憎と恐怖とのへんな工合に混り合った、世にもふしぎな恍惚エクスタシーを感じだしていた。

p43

このような最後の一文にもどこか不穏さが漂っていました。
夢の中で大好きなお母さんに再会できた少年は幸せだったのか?でも少年がお母さんのところに旅立っていったようにも見えなくない…。この夢は単に眠っている時に見る夢なのか?それとも…?少年の夢からは、生と死の間にいるような不気味な感覚がしました。

切ない結末ではありながらも、誰かに話しにくい気持ちと向き合いたい時間って私にもあるなぁ…と共感できた箇所もあった作品でした。
また、ねこ助さんが描く今作のイラストも作者の思いや表現を上手く汲み取っていて、より作品が持つ儚い世界観に浸ることができました。

イラストレーターさんの美しいイラストと共に名作の良さに出会える「乙女の本棚」シリーズ。次はどのような名作に出会えるのか楽しみです。

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