【短編エッセイ】「思いもうけて……」
向田邦子のエッセイに、「思いもうけて……」というものがある(「女の人差し指」収録)。晩餐会に招ばれてゆくときは、料理を味わっている瞬間よりも、ドレスを選び、香水を控えめに纏い、身支度をしているひとときが一番愉しい。彼女はそう綴っている。
何と正鵠を射た指摘だろう。我知らず、私はページを繰りながら頷いた。「思いもうけて」は期待して、といった意味の古語だというが、なるほど期待ほど人の心を駆り立ててくれるものはない。思うに、愉しみというものは、そのときを待ち焦がれている間がいちば