唯一無二の世界観「平清盛」 ~私のイチ押し大河ドラマ~ 京大歴女のまったり歴史講座⑦

年始といえば、新しい大河ドラマがはじまる季節。
大河ドラマは、わたしたちが「歴史に触れる」もっとも身近な素材のひとつです。
小学2年から大河ドラマを見続けている筆者が、これだけは!というオススメ大河について語ります。


私が今まで見た大河ドラマの中でダントツに推したい作品、それは「平清盛」。

というと、ちょっと驚く方もいらっしゃるかもしれません。

2012年大河ドラマ「平清盛」といえば、画面が汚いだの話がわかりにくいだのと叩かれ、歴史的低視聴率で話題になってしまった作品だからです。

伸び悩んだ視聴率ばかりがフォーカスされ、常に賛否両論の的となってしまう「平清盛」。

確かに、従来の「大河ドラマ」とは一線を画す作品であることは、間違いありません。

これは、お茶の間に寝っ転がって息抜きに見るような番組じゃない。

ものすごい緊張感と疾走感を持ったアートのような作品です。

従来の「大河ドラマ」の枠をぶち破った型破りな作品。ぶち破り過ぎて型なんてどこかに吹き飛ばしてしまったような作品。それがこの「平清盛」だと思うのです。

だからこそ、「大河ドラマなんて古臭い、つまらなそう、見ない」と思っている若い人にこそ見て欲しい。わたしには、そう感じられてなりません。

○等身大の主人公

そう、若い人にこそ見て欲しい。「平清盛」はそう思わせてくれる作品です。

特に前半部分。「自分は一体何者なのか」「自分の進むべき道は何か」と悩む主人公・清盛の青臭い姿は、若者の心にこそ響くと思うのです。

本作のひとつのポイントは、平清盛が「白河法皇のご落胤」という説を採用したこと。

白河法皇が遊び女の白拍子(しらびょうし)に手を出して出来てしまった子。その子を引き取って育てたのが、中井貴一さん演じる平氏の棟梁・平忠盛という設定です。

望まれなかった誕生。血のつながらない家族。厄介者のような感覚・・・。

若い頃、自分の本当の出自を知った清盛は、それを抱えきれずに不良となって都を暴れ回ります。

平氏の血を引いていない自分。家にいても、気を遣われても、居心地の悪さを感じる清盛。

「俺は一体誰なんだ!」と叫ぶ清盛。

それに対する、
「己が誰なのか、わからぬのが道理じゃ。人は誰も、生きるうちに、おのれが誰なのか見つける」
という藤原信西の台詞は、若い人にこそ噛みしめて欲しい言葉です。

○圧倒的な世界観

「平清盛」といえば、一度見たら絶対に忘れないような世界観。

脚本、衣装、汚し、アングル、音楽・・・。その1つひとつが独特の魅力を持って「平清盛」の世界観を構成しています。

不当なバッシングとも相まって、一般での評価はかんばしくありませんが、

実は、その年度の日本放送映画藝術大賞(放送部門)で

最優秀主演男優賞、最優秀美術賞など合わせて六冠の受賞を達成しています。

とりわけ「平清盛」の良さは、リアリティにこだわり抜いたこと。

そう、追い求めたのは、「美しさ」より「リアリティ」。

土煙や砂ぼこりの漂う汚い画面。決して清潔とは言えない都の街並み。顔におしろいを塗り、眉をつぶし、お歯黒をした貴族たち。

どれも、「見栄え」を重視するなら、決して採らない選択。制作者の本気が感じられます。

また、大河ドラマ「平清盛」の最大の魅力は、型にはまらない、あまりにも個性的な登場人物たちでしょう。

漫画風に言えば、一人一人の登場人物たちが、「キャラが立っている」。いや立ち過ぎていると言ってもいいくらいです。

中でも、松田翔太さん演じる後白河天皇のクレイジーさ(全力で褒めてます)は視聴者の度肝を抜いたこと、間違いありません。

わたしの思うMVPは、崇徳院を演じた井浦新さん。

「なにひとつ思い通りにならない」生涯を送った悲劇の帝を、全身全霊で演じていた井浦さん。彼が生霊となって狂うシーンは、視聴者が放心状態になるほどのインパクトがありますね。

○つながり合う物語、響き合う台詞

一つひとつのシーンに意味がある。

これもまた、「平清盛」の醍醐味だと言えるでしょう。

一例を挙げてみましょう。

第一話の終わり。自分の本当の出自を知った幼い清盛。

知ったうえで、平氏の人間として生きて行かねばならない宿命を背負った清盛に、育ての父・忠盛は言います。

「死にたくなければ、強くなれ」と。

地面にずしりと重い剣を突き刺して立ち去っていく忠盛。その剣は、幼い清盛が引っ張っても、なかなか抜けない・・・。

そして時を経て16話。息を引き取った忠盛は、亡霊となって清盛の前に現れ、最後に告げます。

「強うなったな、清盛」

亡霊が去った後に残されたのは、砂に刺さった剣。清盛が手に取ると、すぽり、と抜けます。

このふたつの場面が、意図的に対比されているのは明らかでしょう。

このような「仕掛け」がいたるところに施されているのが、大河ドラマ「平清盛」なのです。

過去とのつながり。源氏と平家の対比。繰り返される台詞や場面。

こうした技巧を、面白いと愉しめるか、そうでないかは、賛否両論のひとつの理由かもしれません。

でも、この繊細で周到な脚本こそが、「平清盛」の世界なのです。

ここまで突き抜けた、唯一無二の世界観を持つ大河ドラマが、他にあるでしょうか。


興味のある方はぜひレンタルしてみてください。
ただし、見るのなら一気に。間が空いてしまうと、張り巡らされた伏線を思い出せず、楽しみが半減してしまいますから。


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