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小説(2~3分)

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小説
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2分50秒小説『母乳カフェ☆ミ』

2分50秒小説『母乳カフェ☆ミ』

 繁華街を歩いている。息切れがして立ち止まる。前屈み両膝に掌を当て、肩を上下させながら首を曲げると寂れた横丁がある。いや寂れているとかそんなレベルではない。いわゆる横町としては明らかに機能していない。かつて飲食店が軒を連ねていたが今はただの通路、といったところか。如何にも猫が好みそうな空間だ。建物の裏側と裏側が向かい合わせになっているだけ。ふと目に飛び込んだ文字。

 母乳カフェ☆ミ

 見間違え

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2分30秒小説『ポニーテールに恋したインコ』

2分30秒小説『ポニーテールに恋したインコ』

 私は棚の上から見ている。
 インコが彼女の肩に止まり、ポニーテールに求愛しているのを。
 彼女はそれを楽しんでいる。彼氏も笑っている。私は一抹の怒りを覚える。インコの気持ちを軽視している二人に対して。

 インコは真剣だ。必死に歌っている。恋の歌を歌っている。自分の想いを歌っている。でもその歌にはごくごく僅かな歪がある。それはインコの持つ負の感情からくる歪で、焦燥であったり、絶望であったり、いや

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2分30秒小説『主題歌』

「おいお前!ルフランを見なかったか?」
「ルフラン?何の?」
「魂のに決まってるだろ!こっちに来なかったか?」
「ああ、魂のルフランならその角を曲がって行ったよ」
 礼も言わずに男が駆け出す。角を曲がり消える。暫くして。
「もういいぞ」
 ビルの隙間に話しかける。女が出て来た。辺りを伺い。
「有難う。助けてくれて」
「礼には及ばないその代わり、な、分かるだろ?」
 男の口元が歪む。
「俺の魂を震わ

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3分0秒小説『VTuberになって恩返しをするヒトデ』

3分0秒小説『VTuberになって恩返しをするヒトデ』

 コンサートホール喫煙所、煙が二筋男が二人、広告代理店の上司と部下、硝子の壁が一枚スライドし、痩せた男が入って来た。会釈をし――「お疲れ様です」。
「お疲れ様です。吉田君、この人が例の佐藤さんだよ。櫻木サクラちゃんのマネージャーの」
「初めまして、吉田と申します」
 煙中名刺交換。
「佐藤さんのお噂は色々と伺っております」
「噂?どんな噂です?」
「非常にやり手だという噂です」
「はは、それはデマ

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2分40秒小説『嘴と唇』

2分40秒小説『嘴と唇』

 今から私の掌の中で一つの命が終焉を迎える。それは紛れもない事実である。明け方、陽の気配を察してレースカーテンが光を透かす準備をしている。

 私の体温はどこに行ったのだろうか。掌で包み込んだタラコにすべて与えてしまいたいのに、肌は夏のフローリングのように冷たい。
 タラコはセキセイインコ♂、元彼がそう名付けた。いや、名付けたというか、私の厚い唇を揶揄して、彼が「タラコ」を連呼するから――タラコが

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3分0秒小説『イチジク』または『光源』

3分0秒小説『イチジク』または『光源』

「ちょっと早くしてくんなーい?」
「え?俺?」
「アンタに決まってるでしょ?早くしなさいよ」
「いや、げほっげほっ、『早くしろ』って言われても俺、店員じゃないから」
「はぁ?分かってるわよそんなの」
 40前後のおばさんだ。スナックのママかホステス?酒臭い。眼が充血してイチジクのようだ。
「私より前にアンタが並んでるんだからアンタが呼びなさいよ店員を」
 深夜4:00のコンビニ。俺は風邪をひいてい

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2分40秒小説『パッチノート6.2457バランス調整について』

2分40秒小説『パッチノート6.2457バランス調整について』

パッチノート6.2457バランス調整について いつも世界に生きて頂いて有難うございます。この度、私達天使は世界の均衡をより公平なものとする為、ユーザー様から頂戴した数多くのお声を反映したパッチノート6.2457を適用しました。
 この度のパッチノートによる変更点は、以下の通りです。

■猫の大幅な弱体化

 兼ねてより「猫が最強過ぎる」といった声が多数あった為、今回は大幅な弱体化となります。
 

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2分0秒小説『君を傷付けた光』

2分0秒小説『君を傷付けた光』

 直接伝えるべきだと思う。でもそんな勇気は無い。だから手紙にした。僕の本当の想いを、君に知って欲しい。

 指先に小さな結晶――紅茶の湯気に着色された午後の陽を受けて、微かに暖色に寄ってはいるんだろうけど、それでも毅然とした緑の色を保って――僕の指先で輝いている。

 瑪瑙の様だ……。

 腹話術師の口で思った。声には出していない。僕には不思議だった――どうしてこんな物が美しいんだろう。
 暗い地

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2分50秒小説『五反田鮫』

2分50秒小説『五反田鮫』

 若い男が拳を突きだす。袖から出た腕、刺青。
「どうだビビったか?詫びを入れるなら今のうちだぞ!怪我したくないだろう?」
 連続でパンチを繰り出す。空を切る音。
「怪我したくないです」
 中肉中背、一見普通のサラリーマン。
「今からてめぇは、ぼっこぼこに殴られるんだ。恐くねぇのか?」
「恐いです、でも吸い殻を拾ってください」
「てめぇ!死にてえのか?」
「死にたくないです」
「知ってる?ジークンド

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2分40秒小説『ゴッホに合うソース』

2分40秒小説『ゴッホに合うソース』

「エコテロリスト、絵画テロリスト、世間は色んな呼び方をしているが、俺たちはテロリストなんかじゃない!ソルジャーだ!俺たちはエコソルジャーだ!」
「その通りだ!人の手によって描かれた絵画なんかより、自然にこそ大衆は目を向けるべきだ!森、河、海、今この瞬間にも自然が破壊されている。国家や企業というテロリスト達の手によって!」
「まったく同感だ!芸術?絵画?そんなものクソ喰らえ!有名な絵画を汚すことで、

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2分50秒小説『僕が猫教徒(ネコリタン)になった経緯』

2分50秒小説『僕が猫教徒(ネコリタン)になった経緯』

「生きることは抗うことにゃん」
 ブロック塀の上から、猫が話しかけてきた。朝、バスの時間は――まだ大丈夫。
「抗う?何に対してですか?」
 僕は訊ねた。猫は顔を掻きながら答える。
「生の対義を為すのものに対してにゃん」
「生の対義?つまり死ですか?」
「そうにゃん。でもキミの認識している死とはきっと違うにゃんねぇ」
「認識?つまりあれでしょう。死は無ってゆうことでしょう?」」
「にゃあ、何が無にな

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2分30秒小説『プレステの上の豆腐と目薬』

 詩を書こうと思ったが冷蔵庫の中には、目薬と豆腐しか入っていない。目薬は、気の遠くなるほどの昔っから卵入れの窪みに閉じこもったままのフリーターであり、豆腐は2日前の深夜12時を以て賞味期限を終えて定年退職したオールドミスである。
 ここはロートレアモン著『聖マルドロールの歌』の一節、『手術台の上のミシンと蝙蝠傘の結婚』に倣い、かの二品をプレステの上に於いて引き合わせることにしよう。
 
 コントロ

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2分0秒小説『ホシコロガシ』

2分0秒小説『ホシコロガシ』

 夢を見た。

 遠く霞んだピラミッド潰れた夕陽にぶっ刺さって俺はフンコロガシ。

 後ろ脚が一本無い。まともにフンが転がせない。
 朝、巣穴から這い出し、放牧地にフンを探しに行く。歩みは太陽に負ける。餌場にたどりまでに、何匹もの仲間とすれ違う。着いた。殆ど真上にある太陽、俺を見下してやがる見渡すフン――無い。飛び散ってへばりついた滓をかき集め、小さなフンの球を作り、巣に持ち帰る頃にはまた潰れた夕

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2分10秒小説『田』

2分10秒小説『田』

「上のもんを出せ!」
「すいませんでした」
「お前の謝罪なんかどーでもいいんだよ。早く上のもん呼べよ」
「あのー、クリーニング代はこちらで負担させて頂きますので――」
「あー?、しつけーなテメェ!上のもんだせって言ってんだろ!」
「上の者と言われましても……ホールリーダーの田沼で宜しいでしょうか?」
「ば、ホールリーダー?舐めてんのか?」
「すいません、ではバイト長の飯田を――」
「おいおい、マジ

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