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【ショートストーリー】天国に着いたらおばあちゃん

「いつ結婚するつもりなの?」
「いい人はいないの?」
そんなことばかり聞いて娘に疎まれていた私は、
その後、娘に結婚のことは
何も言わないように努めていた。

言わないようにしていたら、
娘はひょっこり結婚した。
電撃結婚というのだろうか。
それまで付き合っている人の話もなかったのに、
突然「この人と結婚します」と
男の人を連れて来たのだ。
まあ、いい青年だったので
文句も言わなかったけれど。

そんなこんなで3年前に突然結婚した娘だが、
今度は一向に子どもを産まない。
「あなた、ちひろは子どもを
  持たないつもりなのかしら」
夫に聞いてみても、
「さあ、本人たちに任せればいいじゃないか。
  子どもはつくらないのってしつこく聞く気か?
  またちひろにうるさがられるぞ」
としか言わない。
確かに結婚の時にうるさくして
嫌な思いをさせたから、
今回は何も言わずに、娘に任せておこう。
結婚の時のように、何も言わなければ、
突然子どもを授かるかもしれない。

…なんて思っていたが、
私は突然天国に来てしまった。
事故に遭ったのだ。
生きているうちに孫を抱きたかった…。
そう思いながら、自分の身体を抜け、
天国まで上って来た。

すると入り口で迎えてくれたのは小さな天使。
…ではない、2歳くらいの女の子だった。
「おばあたん!」
なんて言って私に両手を伸ばしてくる。
まぁ、いやね、
もうおばあちゃんに見えるのかしら、私…。
まだ52歳で、ちょっと若い気でいたのだけど。
少しショックを受けながらも、
かわいい女の子が手を伸ばしてくるのを
拒むことはできない。
私は満面の笑みで女の子を抱き上げた。

「まあ、かわいいわねぇ」
本当にかわいい子なのだが、なんというか、
それ以上の親しみを感じた。
「おばあたん! やっと会えたね」
その子はそう言いながら私に抱きついてきた。
「やっと…会えたわね」
ちょっと意味が分からなかったけれど、
小さい子の言うことだから、合わせておいた。
すると女の子はすらすら話し始めた。
「ママのおなかの中で、
  私、死んじゃってごめんね。
 ママ、泣いてた。
  私、おばあちゃんにも会いたかった」
え…? この子、ちひろの子なの?
ちひろは流産をしていたの?

私は女の子を胸から離し、顔をよく見た。
どことなく、ちひろに似ている。
「あなた、私の孫なのね?」
私は女の子に聞いた。
「だから、さっきからおばあたんって
  言ってるじゃない」
女の子は笑いながら、また私に抱きついてきた。

あぁ、私はやっとおばあちゃんになれた。
天国に来たら夢が叶うなんて。
ちひろ、流産したなら
言ってくれればよかったのに…。
つらかったでしょうね。
なのに「子どもはまだ?」とばかり
思っていたこと、口には出さなくても
きっと伝わっていたわよね。
ごめんなさい。

私は娘に詫びながら、
孫を力いっぱい抱きしめた。
「おばあたん、痛いよ」
孫が悲鳴に似た声を上げた。
私の目から涙が流れた。

©2023 alice hanasaki

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