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茜
2019年3月27日 01:42
登場人物の渾名がよい。雲雀、マア坊、竹さん、つくし、越後獅子、固パン、かっぽれ。お決まりのやり取りが楽しい。「ひばり。」「なんだい。」「やっとるか。」「やっとるぞ。」「がんばれよ。」「ようし来た。」それは結核療養所という過酷な空間を、なんだか不思議に明るく彩る。私がなによりこの小説で重要あると感じたのは、文章がすべて「手紙」であるというところだ。手紙とはすなわち「書
2018年4月23日 23:58
「辰さん」の妙にはしゃいだ声は、じっとり湿気を含んだ足下のコンクリートに吸い込まれていった。柴崎友香さん「春の庭」より この一節を読んで、ああ、こういう文章に出会いたくて、私は本を読んでいるのだなあと思った。映像ではなく、文字でしかできない表現。私が活字が好きなのは、「言葉にして文字で表現する」ということ、そしてそれを「読める」ということに、とても人間らしさを感じるからなのかもし
2018年4月3日 17:39
いつでもそうなのだ。今度こそ何かがはっきりすると期待して、結果的には混迷がいっそう深まることになってしまう。なんだか言えなかったり、言い間違えたり、言ったら本当になってしまったり。みんながそうかはわからないけれど、少なくとも井上さんもきっとそんな風に日々を感じていて、私がモヤモヤ眉間辺りに溜め込んでいることを、じょうずに言葉にしてくれて、それにすごく救われている。(ただ、文庫に関しては
2018年3月21日 00:59
「最後の息子」の未来の話と聞いて、さっそく読んでみた。正直、読まなければよかったと思った。未来の「僕」は、どうしようもなく悲しかった。ままならない日々を、きっとみんな矛盾を抱えながら、何となくバランスをとって生きていて、一見グラグラでも崩れずいける人もいれば、しっかりと立っていたのにある日突然それが砂になってサラサラと流れてしまう人もいる。作中に村上春樹の「羊をめぐる冒険」出てくる。私
2018年3月11日 01:08
「閻魔ちゃん」という渾名がすごくいい。ぼくの恋人、閻魔ちゃん。「ぼく」は閻魔ちゃんに、ようは飼われている。ぼくは閻魔ちゃんの愛人でいるべく、努力をしている。ウェットに飛んだ知識の収集、それをひけらかさない忍耐、そしてダメンズウォーカーの欲を満たすためのあえての暴力。愛されている関係というのはらくだ。求められている事に、上手に応えていればよいのだから。相手が求めている自分を演じる。そ
2018年2月9日 12:54
子どもの落書きのような絶妙な絵を描く人が往々に素晴らしいデッサン力を持っているように、阿保な物語を書ける人は往々にもの凄く頭がよいものである。「女の子のことばかり考えていたら、一年が経っていた。」圧巻である。タイトルがもうすでに阿呆この上ない。主人公は有象くんと無象くん二人の大学生。彼らを取り巻く登場人物は、イケメンくん本命ちゃん八年さん温厚教授ビッチちゃんと続き、極め付けは抜け目なっち
2018年1月5日 19:45
人生にも映画のように音楽が流れればいいのにと思う事がある。そうしたら救われるのに。井上さんの作品はそういう意味で、音楽のない文章だ。頑張っても報われないし、期待通りにはならないし。困っていても誰も助けてなんてくれない。すれ違った気持ちは伝わらないまま。怒っても喧嘩になることもなく、なんとなく過ぎていく。悲しみや憎しみはドラマチックなものなんかじゃなくて、もっと日常的なものなのだ。井上さんは