見出し画像

こたつから抜け出し、いざ。冬の雨の中を散歩したら、"生きている"と感じた。

今日も雨である。朝から晩まで、しとしと。止む気配はない。
こんな日は、こたつにもぐってYouTube三昧!なんて楽しめていたのは30分ほどで、すぐに飽きてしまった。じっと横たわって動画を見続けるのもなかなか根気がいるらしい。
昨年5月に休職してからというもの、YouTubeだけにとどまらずAmazon PrimeやNetflixなど、散々動画サービスにお世話になってきたのだが、ここ最近はじっと映像を見続けるよりも体を動かしている方が楽しいと感じるようになった。
少なくとも数千時間は映像を見ることに費やしてきたから、見飽きてしまったということもあるが、「とにかく横になって休む」という時期から少しずつ脱し始めているのだろう。体が、脳が、動くことを求めるようになった。ようやく人間らしさを取り戻しつつある。

寒いけど、散歩でもするか。

こたつからよいしょ、と抜け出す。思わず、さっむ!と身を縮ませる。築35年の木造建築は、床下から冷気が迫り上がってくる。容赦無く体温を奪っていくが、こたつに戻ってしまうと負けた気がするので、勢いのまま準備をした。

ジーンズの下にレギンスを履き、ふくらはぎの下まである長い靴下を重ねる。厚手のセーターにコートを羽織り、はたと気づく。これじゃ寒い。
クリーニングから戻ってきて以来、ずっとビニール袋に入れっぱなしだったマフラーを引っ張り出す。今季初のマフラーだ。ホチキス留めされたタグをぶちっと破き、ゴミ箱に投げ入れる。クリーニングのタグ、ホチキス留めはやめてくれとたびたび思う。私のような面倒くさがりな人間にとっては、非常にやっかいな相手である。必要なものだから仕方ない、と頭ではわかっているのだが、緑色のそいつに出会うとつい眉間に皺がよる。クリーニングのタグにイラつかない、心にゆとりのある優雅な大人になりたいものだが、まぁ、到底無理そうだ。

手袋もはめて防寒はバッチリだ。ドアを開けて、いざ。覚悟はしていたがやはり寒い。はぁ〜っと息を吐き出すと、白いもやとなってしばらく空中を漂う。「白い息、どれだけ長く漂わせられるか選手権」を一人で始めて、はぁ〜っ、ほぉ〜っといろんな口の形で息を吐く。玄関先でなにやってんだ、とふと冷静になる。
これまでずっと続いていた晴天日はすっかり気配を消し、薄い灰色の空がどこまでも続いている。3日間振り続けた雨によって地面はぬかるみ、アスファルトの上にも水溜りができている。
雨によって洗われた、冷たく澄んだ空気を肺いっぱいに吸い込む。木々の香りも微かにして、気持ちがいい。と、風情を感じていたのは最初の5分だけで、鼻の頭が冷たい。冷気に刺激されて鼻の粘膜も痛い。とにかく寒い。コートのポケットにしまっていたマスクを取り出し、そそくさと顔を覆った。マスク生活にはうんざりしていたが、顔が温かいのはありがたい。おかげで、鼻の穴の痛みもだいぶマシになった。マスク、あっぱれ。

10分ほど歩いて、近くの公園まで来た。人がいない。というか、人の気配が全くない。それもそうか、平日の昼下がりでしかも雨だ。それにしても、こんなにいないもんかね。
市内でも大きい方に入るこの公園は、普段は結構人が多い。晴れている日は、犬の散歩をしている人やランニングをしている人、ベンチに腰掛けて休んでいるご老人や、遊具で遊ぶ子どもたち、芝生の上にレジャーシートを敷いてくつろぐ家族などで賑わっている。それが、人っこ一人おらず、誰ともすれ違わず、不気味なくらい静かなのだ。人が多すぎる場所は苦手だが、人が少なすぎるとそれはそれで不安になるものだ。
目を覚ますと街から人が消えていて、「誰か!」と叫んでも返事もなく何が起きているのかわからないまま、ただたださまよい歩く──ゾンビ映画の冒頭シーンによくあるシーンを思い出し、そっと後ろを振り返る。さすがにゾンビはいなくて安心した。いや、待てよ。これは前を振り向いた時にいるパターンか…?(ドラマや映画の見過ぎである)。

公園の真ん中あたりまでくると、川が見えてくる。結構大きい川で、流れもそこそこに早い。川沿いにずーっと砂利道が続いていて、川を眺めながら歩くのが気持ちいい。
砂利道の隣は急斜面の土手が広がっていて、一歩踏み外すとあっという間に転がり落ちてしまいそうだ。ギリギリ登ってこれそうな斜面ではあるが、雨でぬかるんでいるしスニーカーだと滑って登るのは厳しいだろう。川沿いに歩いていけば橋が見えてきて道路があるし、人も通っているから助けは呼べるか…と、妄想しながら歩く。いろいろと妄想が膨らむのは、子供の頃からの癖のようなもので日常茶飯事である。

すると、向こう岸に犬を連れたおじいさんの姿が目に入った。秋田犬とかそんな感じの大型犬に見える。久々(?)の人間の姿に思わず「おーい!」と声をかけたくなったがぐっと堪えた。おじいさんとわんこを見かけたのを皮切りに、ちらほらと歩いている人たちとすれ違うようになった。
もしや…とまた妄想が始まる。さっきまで本当に別の世界に迷い込んでいて、おじいさんとわんこが元の世界に戻るキーパーソンだった…?(ドラマや映画の見過ぎである)

しばらく歩いていると、シラサギが7羽、身を丸めて土手沿いに並んでいるのが見えた。全員(全羽)がそろいも揃って同じ格好をして留まっている姿がなんとも愛らしい。鳥も寒いと体を丸めるのだなぁ。

photo by あっこ
シラサギが7羽、寒さに耐えている。

気づくと隣駅まで歩いてきた。30分も歩くと体がぽかぽかを通り越して汗ばんでいる。マフラーとマスクを外すと、冷たい空気がすーっと肌を撫でて気持ちがいい。
先日、友人と会った。彼女は会社の元同僚で、私が会社を辞めてからも時々連絡を取り合っている。ランチを食べた後、以前も二人で訪れたお気に入りの書店へ向かうことにした。道中で夏と冬のどちらが好きか?という話になった。彼女は冬が好きだという。理由を訊ねると、「生きているなぁと感じる」と。
寒い雨の中、歩いて呼吸をして、体が熱して内側からじわじわと温まっている感覚に、その言葉を思い出したのだ。彼女が言っていた感覚も、こういうことなのだろうか。

空を見上げると、葉が落ちて枯れたサルスベリの枝と実が、薄暗い灰色の空に綺麗なシルエットを広げている。葉が落ちて枝や実だけになった植物の形はなかなかユニークだ。眩しいくらいの青空に映える、鮮やかな花を見るのも心が踊るが、寒い時期ならではの灰色の空はより一層、植物の美しさを際立たせる。骨格美、とでもいうか。人間と似ているな、と感じるのだ。

photo by あっこ

だんだんと空が暗くなってきて、慌てて来た道を戻る。いつも帰ることを考えずに気の向くままに歩いてしまうので、思った以上に時間が経っていることが多い。1時間ほど歩き回っていたら、体の内側は温かいが表面は汗が冷えてだんだん寒くなってきた。耳もキンキンに冷えて痛い。いかんいかん、これじゃ風邪を引くぞ。

帰宅してすぐにこたつの電源を入れる。温めている間に、手洗いとうがいをして部屋着に着替えて、ホットココアを作る。
こたつに入り、マグカップを傾ける。外からも内からもじわ〜っと温まっていく。

あぁ、生きているなぁと感じた。

この記事が参加している募集

#習慣にしていること

131,254件

#散歩日記

10,155件

よろしければサポートお願いいたします🌿いただいたサポートは、新しい学びの資金に使わせていただきます!