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英語からの翻訳です。誤訳などがありましたらお知らせください。
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記事一覧

“Woman at 1,000 Degrees” Hallgrímur Helgason (translated from the Icelandic by Brain FitzGibbon) (Algonquin)



『1000度の女』 ハルグリムル・ヘルガソン
(アイスランド語からの翻訳、ブライアン・フィッツギボン)
(アルゴンキン・ブックス)

 ブラックユーモアたっぷりの本作の冒頭、レイキャビク【訳注:アイスランドの首都】のガレージで暮らす80歳の寝たきりの女性は、自身を荼毘に付す予定を立て、自伝を書き始める。
 彼女は熱心なナチスの協力者の娘だった。10歳のときに第二次大戦が勃発し、両親から引き離さ

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"First Person" Richard Flanagan (Knopf)



『ファースト・パーソン』 リチャード・フラナガン(クノップフ社)

 この小説の語り手である小説家志望の悩めるティーンエイジャーは、代筆の仕事のためにタスマニアからメルボルンに呼び出される。
 ジギーという悪名高いペテン師について書くことになるのだが、その話は腹立たしいほどはっきりしない。「産まれたときからおれは行方不明なんだ」ジギーは出自を打ち明ける。裏社会で危ない橋を渡り、出版業界のばかげ

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"Go Tell the Crocodiles" Rowan Moore Gerety (New Press)



『クロコダイルに言ってくれ』
ローワン・ムーア・ジェレティー(ニュープレス社)

「大事なことは、ここじゃみんな端っこで起きてんのさ」あるラッパーが著者にそう言った。この本で描かれたモザンビークの姿を垣間見始めたころだった。
 国際機関が経済成長をご機嫌に報告するのと、ここでの実際の日常生活は食い違っていることが多い。
 僕らが出会ったのはこんな人たちだ。
 六年生で学校を中退し、地方から首都

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"Unsheltered" Barbara Kingsolver (Harper Collins)



『無防備な私たち』 バーバラ・キングソルヴァー(ハーパー・コリンズ)

 二つの家族は、時間軸が一世紀以上離れたニュージャージーの同じ土地の一画で暮らしているが、この小説では混乱した感覚によって結びつけられている。
 1870年代、不幸せな結婚生活をおくる科学の教師はダーウィンの説に関して確信をもっていたが、勤め先では反対されていた。彼はすばらしい隣人である、実在する自然主義者メアリー・トリー

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"A Girl Stands at the Door" Rachel Devlin (Basic)



 1936年、ロイド・ゲインズという一人の黒人が、人種を理由に、ミズーリ大学法科大学院への入学を拒否された。N.A.A.C.P.【訳注:全米黒人地位向上協会】の訴えは成功したものの、ゲインズは不可解にも行方不明になってしまった。
 それ以来、N.A.A.C.P.は人種差別廃止の裁判で期待の持てそうな原告を探す際、女性の志願者に焦点を合わせた。
 デブリンが語るのは、長期に渡る危険な裁判の過程を

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"The Prodigal Tongue" Lynne Murphy(Penguin Press)



 根っこでは友好関係にあるのに、イギリス英語とアメリカ英語の形式がいかなる経緯で敵対して見えるようになったのか、本書では皮肉たっぷりのユーモアと学術的な見識を交えて語られている。
 それには歴史が一役買っている。1776年以後、「純正英語(King's English)を拒絶することは、王を拒絶するべつの方法だった」。しかし、保守派の努力——イギリスの言語学者には古英語に戻すことを主張をする者

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“Warlight” Michael Ondaatje(Knopf)



『戦時の光』 マイケル・オンダーチェ(クノップフ社)

 この暗い影が落とされたような小説では、14歳の少年ナサニエルの体験と、第二次大戦後の英国の諜報活動とが絡まり合っている。
 ナサニエルの両親が父親の仕事のためにロンドンからシンガポールに引っ越すと、彼と姉はあとに残され、ほとんど知らない人の世話になる。空いた時間に悪事を働く人や風変わりな人のいる組織に二人は紹介される。次第にナサニエルは

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“Sleep of Memory” Patrick Modiano(translated from French by Mark Polizzotti)(Yale)



『眠っている記憶』 パトリック・モディアノ(マーク・ポリゾッティ訳)(イエール出版)

 2014年のノーベル賞受賞後、初となるモディアノの小説の語り手には、モディアノが言う「パリの謎」を膨らませる狙いがある。
 語り手が古いノートを見直していると、過去50年の記憶の断片がよみがえり、実在、幻想、虚構の境界がぼやけていく。
 とあるオカルト信仰者に会ったり、カフェで殴り合いをしたり、アパートで

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“The Caregiver” Samuel Park(Simon & Scuster)



『世話人』 サミュエル・パーク(サイモン&シュスター社)

 今作のタイトルは、主人公マラのことだ。彼女は1990年代にロサンジェルスに不法滞在していたブラジル人で、胃癌を患っている四十代女性の介護を生業としている——まるで今作を書き終えたすぐ後で亡くなった作者のようだ。
 また、1970年代にブラジルの軍事独裁政権とのゲリラ戦に巻きこまれ、悲惨な選択を迫られることとなったカリスマ的なマラの母

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She Would Be King〟 Wayétu Moore(Graywolf)



 ウェアトゥ・ムーア 〝リベリアの風〟(グレイウルフ社)

 この大胆な処女作では、超自然的な能力を生まれもった3人の人生を通じて、19世紀初頭のリベリア建国を新たに描くのにマジックリアリズムの手法が用いられている。
 奴隷としてジャマイカの主人の家に生まれたノーマン・アラゴンは、母親から消える力を受け継いだ。アメリカのプランテーションで育ったジューン・デイは、人並み外れた強さと鋼鉄の皮膚をも

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"The Distance Home" Paula Saunders(Random House)



 ポーラ・ソーンダース 〝遠いわが家〟(ランダムハウス社)

 このシリアスな小説は、20世紀中頃のサウス・ダコタに暮らす機能不全に陥った三兄妹の幼少期を中心にして進む。
 長男のレオンは母親の寵愛を受けているものの、男らしさを重視する父親からはほとんど無視されている。父親はレオンにダンスの才能があると知って怖気を振るうほどだ。次第にレオンは内にこもるようになり、衝動的に髪の毛を引き抜き始めて

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"In the House in the dark of the Woods" Laird Hunt(Little, Brown)



 レアード・ハント 『森の闇の家』
(リトル・ブラウン・アンド・カンパニー)

 このおとぎ話をごちゃ混ぜにした作品は読者を夢中にさせる。
 一人の女性がベリーを摘みに森に入ったところ、絡み合う闇の原型の中に迷い込んでしまう。帰り道を探していると、魔女のような姿をした列に出くわし、身の毛もよだつ冒険に引き入れられる――巨大な虫の群れを避けたり、骨でできた船に乗って空を飛んだりする。
 ハントの

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"Scribe" Alyson Hagy(Graywolf)



アリソン・ヘイギー 『したためる』(グレイウルフ社)

 このディストピア小説において、世界とは〝暴動の福音書〟だ。
 子供たちの間で広まった伝染病と内戦によって、19世紀のアパラチア[訳注:アメリカ合衆国東部]を思わせるとある地域は荒廃してしまっている。暴力によって損なわれた社会ではもはや名ばかりとなった〝物書き〟は、人里離れた農場で暮らしており、その言語能力を活かして、日々の生活必需品を得

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"Desirable Body" Hubert Haddad , translated by Alyson Waters(Yale)



『すてきなからだ』 ユベール・アダッド
(仏語からの翻訳:アリソン・ウォーターズ)(イエール出版)

「問題を抱えた奇蹟の男」が主人公であるこのユーモラスな小説は、メアリー・シェリー(訳注:『フランケンシュタイン』の作者)の怪物を、現代のバイオテクノロジーの驚異を用いてアップデートしている。
 製薬会社の大物の息子であるセドリックは、ボート事故で四肢麻痺の状態になってしまう。セドリックの父親は

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