スタイリッシュな豚肉料理に舌鼓を打つ同僚の横でオタオタする私
宗教のダイエタリー リクワイアメント、つまり「お食事の要件」のお話を、ご紹介しています。
前回は、イスラム教のお食事のお作法とラマダン(断食)についてお話しました。(苦行!ラマダン明けのパーティはこちら↓)
ところで。
あなたは、こんな疑問を持ったことはありませんか?
イスラム教の人が豚肉を食べたら
どうなるんだろ?
私は、ずっと疑問でした。
グローバルビジネスの世界に足を踏み入れてから、中東や北アフリカ、西アフリカ、東南アジア、オーストラリアなど、さまざまな国のイスラム教の人たちとお仕事をしたり、お食事をしたりする機会に恵まれました。
今回は、そんな素朴な疑問を持つあなたにぴったりのエピソードを、ご紹介します。
もちろん、すべてのイスラム教の人たちに当てはまる訳ではありませんが、ここからの学びを、ご参考いただければ、嬉しく思います。
新年のキックオフパーティ
新年には、その年のビジネスの方向についてプレゼンテーションし、全員で目標を達成しましょう!という、日本でいう「決起集会(?)」的な、キックオフパーティというものが開催されます。
このキックオフパーティ、ホテルの会場を貸し切り、ディナーを楽しみながら行うので、半分仕事、半分楽しいイベントのようなものです。
そのホテルでは確実にクロス コンタミネーション(交差汚染)に配慮してくれることから、この会場はよく使っていました。
(交差汚染の説明はこちら↓)
会場での座席は指定されており、円卓に約10名ほど。
私の円卓は、国際色豊かで、私が着席した左隣は、オフィスの席でもお隣さんの、ユースフ(イエメン人)でした。
なかなか始まらないお食事タイム
この日の豪華なお食事のために、ランチを我慢して出席した私たちは、プレゼンテーションの時間が思った以上に長くなり、おなかペコペコ。
プレゼテンーション中に、お料理も並びはじめ、美味しそうな香りが会場に漂うことも手伝って、もはや、ご飯のことしか頭にない状況です。
ビュッフェ形式ですが、ホテルのビュッフェなので、どれもこれもとても美味しそうな、たくさんの種類の料理が、所狭しと並びます。
それを横目に見ながら、ユースフが私にヒソヒソ声でつぶやきます。
「めっちゃプレゼン長いよね?
ボク、空腹で限界なんだけど・・。」
空腹感はラマダンで慣れているはずのユースフが、そう言って、ため息をつくくらいなので、よほど空腹だったのでしょう。
待ちに待ったお食事タイム⭐︎
ようやくプレゼンテーションが終わり、お食事タイムとなりました。
出遅れると、お腹が空いたまま、なが~い時間、ビュッフェの列に並ぶ・・という拷問を避けるべく、ユースフはダッシュでお料理のところに飛んでいき、あれもこれも、たくさんの料理をお皿に取っています。
私も、好きな食べものをチョイスして、円卓に戻り、食事を始めようとしましたが、円卓の向こうからの、熱い視線を感じます。
ふと顔を上げると、目の前(円卓なので距離は遠いですが)の、ナンシー(香港人)が、私を見ながら、こんな風(↓)に、様子がおかしくなっています。
「ん?なに?」
ナンシーに聞こうとしましたが、会場がにぎわっているので、声が届きません。
今度は、こんな風に真剣な顔(↓)をして、何か言っています。
私は、スマホを取り出し、ナンシーにメッセージを送りました。
「ナンシーどうかしたの?」
スマホの画面をナンシーに向かって掲げ
メッセージ見て!
と、ジェスチャーで伝える私。
すると、すぐにナンシーから返信がありました。
「ポーク!ユースフの食べてるのは豚肉!!」
ホテルのお料理だからか、とてもスタイリッシュな見栄えのする豚肉料理は、一見して豚肉に見えません。
前回のラマダンの記事でご紹介した通り、ユースフは、イスラム教徒なので、豚肉を食べません。
そして、彼が豚肉を食べないことを、ナンシーを含めた私たちも知っています。
ほかのイスラム教の同僚たちは、魚は食べても肉は食べない派なのですが、ユースフは、肉を食べる派です。
普段オフィスで彼の隣の席に座っている私は、万が一のときに備えて、ユースフの「豚肉への見解」について、すでに確認していました。
☆☆☆
「ねぇ、ユースフ。
あなたは豚肉を食べないことは知ってるんだけど、日本には豚肉を使った料理や、調味料や添加物がとても多いんだよね。
ユースフが普段、豚肉やゼラチンやポークエキスを口にしないように気をつけていることは、私も知っているけど、それでも万が一、口にしてしまったらどうなるの?」
すると、ユースフは笑いながら
「どうにもなんないよ。特に罰則はないし。
だって、知らずに食べちゃったものは仕方ないもん。
だから、もし、ボクが間違って豚肉を食べたとしても、知らせないでね。
知らなければ、「仕方ないよね~」で済むからさ!」
なるほど。
知らなければ、「仕方ないよね~」で済むのね!
☆☆☆
このような会話を、ユースフとは交わしていたので、私は慌てることなく、
「ナンシー、大丈夫!
ポーク食べちゃっても、本人が知らずに食べた場合は「仕方ないよね~」で済むらしいから。
だから、ユースフには、知らせないでね!」
「へぇ~、知らなければ「仕方ないよね~」になるんだ・・。
了解!じゃ、黙っとく。」
ナンシーは、私のメッセージを、両隣の同僚たちにも見せ、またナンシーの両隣の同僚たちも、そのまた隣の同僚たちに知らせてくれ、私に「了解☆」の意味を込めて、ウィンクをしてきてくれました (^_-)-☆
こうして、ユースフのいる円卓のメンバーは、全員が一致団結して
豚肉を楽しむユースフを温かく見守る
ことになったのでした。
なぜ豚肉料理を・・?
そんな、私たちのやり取りにも気づかず、とても美味しそうにスタイリッシュな豚肉料理を堪能するユースフ。
ビュッフェのポーク料理の前に、
料理の説明が書いてなかったのだろうか?
気になった私は、ポーク料理のある場所に、偵察に行きました。
ビュッフェであれば、このように(↓)メニューがお皿の前に置かれているはず。
ですが、例のスタイリッシュな豚肉料理のメニューは、少し離れた床に落ちていました。
見ると、確かに「PORK」と書いてあります。
どうやら、大勢の人がビュッフェに押し寄せたせいで、メニューがテーブルから落ち、さらに蹴飛ばされたようです。
スタイリッシュな豚肉料理が置かれた周りのお肉料理は、鶏肉や羊肉、牛肉などなど。
それらのお肉の中でも、よりによって豚肉を選んだユースフ。
たしかに、このお料理は、ほかの肉料理に比べ、ダントツで人気がありましたし、豚肉を食べる私たちから見ても、豚肉だとはわからないものでした。
まあ、あれだけお腹が空いていて、
この見た目のお料理なら、
間違っても仕方ないかもな~
私は、メニューを拾ってポケットに入れ、席に戻り、食事を始めました。
温かく見守る私たち
豚肉を普段食べている私たちにとっても、このスタイリッシュな豚肉料理は、とてもとても美味!でした。
ビュッフェなので、おかわりも自由です。
このお料理は、見た目の美しさだけではなく、ユーセフの舌をも虜にし、「おかわりの場所」に、なんども彼の足を向かわせました。
私とナンシーは、食事の合間にも
「あんなに美味しそうに食べてたら、もう絶対に豚肉だって言えないよね~。
最後まで見守ろう!」
「うん。もし、おかわりを取りに行っても、メニューはポークだってわからないから、大丈夫!」
などと、チャットを交わしていました。
宴もたけなわ。
よしっ、
ユースフには料理の正体が
バレずにすみそう!
ホッとしていると、別の円卓から、身長210cmの巨体が、こちらにやってくるではありませんか!
そう。
面倒見の良さとおせっかいが表裏一体、(年下だけど)みんなの兄貴分、そして、これまでの私の記事では、たった1回しか登場していないのに、そのインパクトの強さで、すでにnoteの世界で固定ファンを獲得しているマット(アメリカ人)が、私たちの円卓に遊びに来たのです。
(そんなマットの魅力は、こちら↓)
嫌な予感がする・・
その予感は、見事に的中しました。
そして起こった悲劇(泣)
嫌な予感がする・・
そう思った私は、マットが豚肉料理を食べているユースフの方を見ないよう、彼の背がユースフに向くような角度で話しかける作戦に出ました。
「マット、今日は楽しんでる?
ところで、冬休みは、どこで何をして過ごしたの?」
などなど、マットにひたすら質問をして、注意を引く私。
オタオタする私の様子を見た、ナンシーも、席を立って私のところに移動し、応戦するように、マットがユースフの方を見ないよう、マットに話しかけてくれます。
もう少ししたら、お開きのスピーチの時間になるので、マットも自分の円卓に戻ります。
それまであと少し!
では、これからお開きのスピーチをします。
みなさん、席に戻ってくださ~い!
その声を聞いて安心した私とナンシーは、少し気が緩んだのかもしれません。
会話に「少しの間」ができた瞬間、マットが後ろを振り返り、ユースフに話しかけました。
「ヘイ、ユースフ、ハッピーニューイヤー!
・・って、おい、ヤバくね?
それ、豚肉だっちゅーの。
おい、ユースフが豚肉食べてるぞ!
akkie、隣に座ってるのに、教えてやらなかったのか?
彼はムスリムなんだぞ。豚肉はぜ~ったいに食べちゃいけないんだぞ!!」
私にお説教しながら、お馴染みの
オーマイゴッド
を連発する、アメリカンヒーローのマット。
そして、あまりにもあっさりと事実が明かされ、これまでの努力が水の泡となったおかげで、あどけない子猿たちのように(↓)言葉が出ずに固まる私とナンシー。
いっぽう、ユースフは
「WHAT!?まじで?」
と、こんな風に驚き(↓)
そして、目をまんまるにして
「やっちまった・・」
と、いう表情(↓)。
その場で事情説明をしたかった私ですが、閉会のスピーチが始まるので、ひとまずマットに、自分の席に戻るよう、促しました。
パーティがお開きになり、あらためてユーフに事情説明しようと、話しかけました。
「ユースフ、説明させてもらってもいい?
えっと・・」
すると、ユースフは
「ぜ~んぜん、大丈夫 (^_-)-☆
ボクが豚肉を食べるのを見ても知らせないでってお願いしてたから、そうしてくれてたんでしょ?
だから、逆にありがとうだよ。
あの料理、マジで美味しかった!
豚肉って知ってたら、あんなに美味しい料理を楽しめなかったから、黙っててくれて、感謝!」
と、お礼を言ってくれました。
そして、マットにも
「豚肉は食べないけど、知らずに食べちゃったものは仕方ないから、もしボクが間違って豚肉を食べたとしても、知らせなくていいよ。
知らなければ、「仕方ないよね~」で済むから。よろしく (^_-)-☆」
と、彼自身の「豚肉への見解」を説明してくれて、一件落着したのでした。
ユースフに限らず、私の周りのイスラム教の人たちは、「意図的でなく」豚肉を食べてしまった場合や、やむを得ない事情で豚肉を口にしてしまった場合は、「仕方ないよね~」と受け容れる人が多数でした。
ですが、「豚肉の見解」も、「アルコールの見解」も、個人の信仰の厚さや信条に、極めて依存します。
そのため
豚肉を口にすることは、
絶対にあってはならない
との見解を持つ、イスラム教の人たちも、いらっしゃるかと思います。
日本の場合、ハラル認証の食べものが増えてきているとはいえ、世界の中ではまだまだ十分とは言えないのも事実ですし、日本の食べものには豚肉または豚のエキスを使った食材が豊富なのも事実。
万が一、その人が間違って口にしてしまったことを、こちら側が知った場合、どう対処してほしいのか、「その人の見解」を聞いておいても良いかもしれませんね!
これまで仏教・キリスト教・ユダヤ教・イスラム教と、宗教ごとの「お食事の要件」を、ご紹介してきました。
このあとは、後半戦に突入!
次回は、ヒンドゥー教の「お食事の要件」をご紹介しますね。
もし、あなたのお時間が許すなら、「お食事の要件」シリーズを、こちらのマガジンにまとめましたので、読んでいただけたら嬉しいです (^_-)-☆
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