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読書感想文

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「言葉は君を傷つけない」夏凪空著

「言葉は君を傷つけない」夏凪空著

「言葉の扱いは難しい」。
 言葉を発端とした炎上や喧嘩が(特にSNS上で)しょっちゅう勃発する昨今、そう感じてる人はとても多いのではないかと思われます。今回読書感想を書く著作は、上記のような現状をひもとき、ライトなエンタメに昇華していると捉えられる作品です。

 言葉にまつわるとある能力に苦悩する「弟」が主人公のお話。正反対の能力を持つ「兄」と時に喧嘩をしつつ、協力し合い、4つの事件を解決していき

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「この本を盗む者は」深緑野分著

「この本を盗む者は」深緑野分著

冒頭数ページからあれよあれよと、「千と千尋の神隠し」の世界に飛び込むような。ある条件をきっかけにして本の世界に迷い込んでしまう展開は、一時流行った異世界転移ジャンルのような雰囲気もある。日常と隣り合わせの不思議なセカイは、何歳になっても読んでいて心躍るものだ。
とにかく本に囲まれる内容なので、読書好きの人や、書き物が好きな方、趣味にしている方が読むと、ぐっとくるものがあるのではないでしょうか。終盤

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「空想の海」深緑野分著

「空想の海」深緑野分著

第一に、深緑さんてなんでも書く方なんだなあと。同じ著者の本を読むのはこれで3冊目、読むごとに驚きが増すと言いますか。ミステリーが軸になる作品が多い印象でありつつ、「空へ昇る」なんかは淡々としながらも、ごりっとしたSF風味だったりします(土塊が空へ昇る現象が起きる世の中について淡々と綴られるお話です)。

「イースター・エッグに惑う春」も謎を追う内容です。学校を舞台にしていることと、そして卵つながり

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「タイム・ウォール」山田陽志郎著 読みました

大筋としてはシンプルだ。タイムスリップして歴史に手を加えることで第二次世界大戦の開戦を回避し、その後亡くなるはずの幾多の人々の命を救うこと。開戦のキーマンとなる、とある歴史的人物に関わる計画だ。そして並行宇宙論が前提であり、新しい歴史は、別の世界線となるという。そんな無謀な作戦、計画通りに遂行出来るかどうかなんて、ドッキドキじゃん! スリル満点であっという間に読み終わった。
先の大戦があってこそ、

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「宇宙怪獣ラモックス」ハインライン著

「宇宙怪獣ラモックス」ハインライン著

宇宙生物と人間が共生している未来、よくある(?)大事件として、ジョンの友達である食いしん坊ラモックスが槍玉に上がってしまうのだが…。
家出少年とラモックスの「エルマーの冒険」的な冒険譚のはずが、話はどんどん宇宙政治的にややこしく、壮大な方向に展開していく。
でかいぞラモックス!かわいいぞラモックス!そして君の正体にびっくりだよラモックス!
大袈裟奥様の証言にウソ発見器がビービー鳴ったり、宇宙人様が

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「消えた五人の小学生」大石真・著

「消えた五人の小学生」大石真・著

 ボロボロのふつうの自転車を乗りこなす小学五年生、光太くん。みんな持ってるジェット自転車が欲しくてたまらない。しかしそこは小学生のプライド、なかなか素直に「ステキだね!うらやましいなあ!」などとは言えず、ツンツンした態度をとってしまう。
 完全に、よくある小学生の日常である。ジャイアン、スネ夫、しずかちゃんのグループと、1人外れてしまったのび太の図だ。ここからどうSFになっていくの? だってドラえ

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「ハンチバック」市川沙央著を読んで感じたこと

「ハンチバック」市川沙央著を読んで感じたこと

 人に薦めたい本かというと、私が普段好んで読んでいる本からするとかなり踏み込んだ内容であるため、気楽に薦められない。でも、少しでも興味を持った人は読んだ方がいいと思うし、感想を知りたい。それほど長くはなく、すぐ読めるし。私は家族と意見交換して、結末の解釈が違っていたから二人揃って読み直すということになった。
 怒りを原動力にして傑作を生み出すというのは、よくあることかもしれない。市川さんの場合は怒

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錆喰いビスコ9巻を読んだ叫び

錆喰いビスコ9巻を読んだ叫び

※ネタバレ配慮ありません、ご了承下さい。

感想え? 錆喰いビスコってこんなに面白かったの?

 …なんか、超絶無礼な書き出しになってしまったのだけれど。それくらい、既刊とはなにかが違う? 鳥肌立ちまくり。作者の気迫というのか? それもそのはず、巻末あとがきでは、次巻で完結と予告されている。ああっ! 終わりに向かってしまうのか!! どうりでっ!! イヤ〜!!
 前巻までは様々なボスキャラと対決しつ

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「びりっかすの神さま」岡田淳著 読みました

「びりっかすの神さま」岡田淳著 読みました

 クラスでびりになろうとすると、こういうことが起きるんだなという。おかしみと、驚き。オチは明確ではないところがカラッとしていて良い。だってこの話にオチをつけるとしたらぜったいにだ。神さまの正体は始くんに関係あるはずで、それはたぶんしんみりするラストになったのだと思う。だから「あー、そうだったのかもね?」くらいに、少し曖昧にしてくれている方が、ああ面白かった!で終われるのだ。

 向上心を持つってこ

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「檸檬先生」珠川こおり著 読みました

「檸檬先生」珠川こおり著 読みました

 ラストは冒頭で示されている、とてもつらい「真っ赤」な話なのだ。バッドエンドが確約されているのに読むのがやめられないのは、少年が持つ共感覚という色彩溢れる世界があまりにも新しい読書体験だったからだ。超新星爆発。
 混沌とした居心地の悪さも、檸檬先生と出会ってからの、時おり訪れる心地良い時間も。微妙な関係の二人がお互いに抱く曖昧な感情までも。文字だけでこんなに色や音を感じることが出来るんだなと。いや

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「マーブル」珠川こおり著 読みました

「マーブル」珠川こおり著 読みました

 主人公の茂果へのイライラが、途中からスッと引っ込んだ。彼氏の朗と喧嘩した場面がきっかけだ。痴話喧嘩ではなく、性的嗜好に関わる繊細な問題についてだった。
 茂果はめんどくさい人間だ。視野が狭くて思い込みが激しいコミュニケーション不器用。こういう人、いるんだよな。でもそれって人間らしさだよね。人間離れしたパーフェクトヒーローやヒロインよりもずっとリアル。彼女がふつうの人間だからこそ周りも優しくて、だ

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「虹のような染色体」夏凪空著 読みました

「虹のような染色体」夏凪空著 読みました

 読み口はライトでも内容はディープで重くないか?
 性別を扱っているのが今っぽい題材だなあと。考えさせられるというよりは、フィクションとしての面白さに夢中になるうちに、性別とはかようにも多様であり得る「のかもしれない」、そんな気持ちにさせられる。「かもしれない」が心地よいんだ。わかろうと思ってわかるようなものでもない、繊細なハナシだと思うから。
 たまたまツイッターで流れてきた感想文から興味を持っ

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短編七芒星 舞城王太郎著 読みました

短編七芒星 舞城王太郎著 読みました

 総じて人間のサイコな部分を扱っているせいで文体も狂気じみている。残酷な内容がサラッと書かれすぎて読み手もスラッと読んでしまう。
 サクッと結末あるのと曖昧な余韻系が半々くらいだったな。いちばん結末がカチッとしていたのは「落下」かな?

 最初の「奏雨」はもしかしてそういうこと?っていう…(私の駄洒落ではなく本編のせい)
「電撃」少々下世話で好き。
「縁起」も良かったけどそのケガそんなあっさり治ら

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戦場のコックたち 深緑野分著 読みました

戦場のコックたち 深緑野分著 読みました

深緑野分氏の
戦場のコックたち
を読了したんだけど

…これどういうこと???
え!?
えええええ

 という感じで、感想書きたいからメモ取りながら読んだのに、もうぜんぶ吹っ飛んでしまった…。
 ミステリーというカテゴリーで読み始めたし、読後もミステリーだよな、という感想は間違い無いけど、中身はごりごりの第二次大戦でしかも米国兵士の視点。そういうものは普段好んで読まないので、フィクションとはいえ、

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