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おじいちゃんが買ってくれた本 #追憶の先に

図書館で私はある本を探していた。いつか子どもから大人まで、誰かの励みになるような人生に前向きになれるような、そんな絵本を書いてみたいと思っているので、まずはプロの人たちが書いた絵本を探索しに気分で図書館に来た。

ごんぎつね、でんでんむしのかなしみ...
私のお腹くらいまでの高さしかない本棚に、ずらーと綺麗に児童書が並べてある。見たことない絵本でもどれもこれも懐かしく思えて、思わず片っ端から手に取っていく。

ページを一枚一枚めくりながら、文字が大きくイラストや絵に描かれた動物や人の素直な表情に心が踊る。小学生の6年生のとき、八戸にある綺麗な図書館の読み聞かせによく参加していた。それに行くのが大好きで、家から片道30分もかかるのによく両親が連れて行ってくれた。読み聞かせを一回するごとにスタンプがたまっていき、そのことに達成感を得ていた。

大人になった今、絵本を手にすることなんて滅多にないだろう。あんなに楽しみに毎回参加していた読み聞かせだって、今では単なる過去の記憶でしかない。

児童書コーナーが保護者に連れられた多くの子どもたちで賑わう中、私を取り巻く空気感だけ浮いているように感じた。見ず知らずの人のお宅にお邪魔しているような気分とどこか懐かしくも遠い記憶の中にいる居心地に包まれている私は、まるで別の世界に連れ込まれたよう。

すべての児童書をなめるようにぐるっと全体を回った後、ある本に目が留まった。

(青い鳥文庫.....マジックツリーハウスだ。これ、よく読んだなぁ。)

小学1、2年生の頃はまだ仙台にいたのだが、シリーズ本の『マジックツリーハウス』という本が大好きだった。毎回シリーズが出る度に読むのをとても楽しみにしていた。

数十年ぶりにこの本を目の当たりにすると、昔私がどれだけこの本を好きだったか、容易に思い出すことができる。たしか同級生にもこの本が好きな男の子がいて、一緒に途中から読んでいたような。

『マジックツリーハウス』を見て思い出すのはそれだけではない。私は小さい時にこの本を全部おじいちゃんに買ってもらっていた。なぜなら、おじいちゃんは小さい頃から私に「本を読むんだよ」と何度も伝えてきたことがあって、本に親しむことを貴重として大切にしていたからだ。

だから新しいシリーズが出る度に、
「おじいちゃん、マジックツリーハウスの本が欲しいです」と、小さいながら少し遠慮気味にそう話していたのを鮮明に覚えている。

合計で43巻もあるみたいだから、たくさん集めるまでに相当買ってもらっていたと思う。けれど、おじいちゃんは嫌な顔をひとつせず『マジックツリーハウス』の本をずっと私を思って買ってくれた。

児童書コーナーの片隅で、マジックツリーハウスの表紙を見ながらそんなストーリーが脳裏に浮かび、考えながら時間が刻々と流れていった。

大人になって誰かに本一冊買ってもらうとなると、自立しているなら自分で買えるとか、お願いするなら失礼ないように発言をするとか、そんなすました考えになってしまう。今思えば、新しいシリーズの発刊に合わせて毎度毎度買ってくれたおじいちゃんの心がとても温かかいなと心底思う。

小さい時から本を親しむ習慣をつくってくれたのはおじいちゃんのおかげであると思う。おじいちゃんの存在を思い出し、本を読み始める前からストーリーがわたしにはあった。

マジックツリーハウスの本がこうして今でも図書館に並んでいるのは嬉しい。どんな子ども、いやどんな大人がこの本を手にしていくんだろうか。おじいちゃんの真心をしみじみ感じる。そして、おじいちゃんが「本を読むんだよ」と私に伝えてくれたその理由が、今になってようやくわかるような気がした。

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