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”キンキ”地方じゃ、だめ?

「Kinki(近畿)」を「Kansai(関西)」と言い換える?


久々の「ことばnote」。先日仕事で、天気に関するニュースの英訳をチェックしていたところ、あることに気がついた。

日本語では、気象庁の発表で「近畿北部」。
なのに、英訳された原稿は、northern Kansai になっている。
そう、"Kinki"じゃなくて、わざわざ"Kansai"に書き換えているのだ。

「あっ、多分あの理由だな」と思い、この原稿を書いたプロの英文ライターさんに聞いたところ、やっぱり、あの理由だった。

「Kinki(近畿)は、英語のkinkyと発音が似ているので、私たちはいつも使わないんです。そもそもKansaiの方が、広く通じますし。」

ところで、kinkyの言葉の意味をご存知だろうか。

あまりここで文字にして書きたくないので(笑)、以下のMerriam-Websterのウェブ辞書で答えを見てみてください。


そう、ここで言う2番目の意味を嫌がってのことだ。

しかし、思う。
まずスペリングの最後の一文字が違うわけだし、考えすぎだろうと。そして、そもそも、そういうことを気にして日本語の正式な名前を変えるという考え方は、いかがなものだろうと。

”キンキ”を嫌い、大学の英語名まで変更?


ただ、この問題、結構大きな問題でもあるらしい。
長年使ってきた英語の名称を変えた組織も存在する。近畿大学だ。

2016年に、これまでの英語名"KINKI University"から、"KINDAI University”に名前を変えると正式に発表したのだ。(以下、発表当時のリリース↓)

ここには、しっかりとその理由が書かれている。

近畿大学のHPより

苦しい胸の内を吐露する広報文


「畿内」という言葉も出して、「近畿」が”由緒ある語句”だとわざわざ書いたうえで、「英語で発音したらkinkyに聞こえる場合も」ある、そして「海外の学生が留学先として本学を選ぶ際の阻害要因となる可能性があった」とまで、言っているのだ。

名称変更への批判が来るのを意識してか、予防線を張りながらも、やっぱりどうしても変えたかった、苦渋の選択という感じが伝わってくる説明文だ。

それにしても、「阻害要因」。そこまでとは!

ここでは、KINKYの意味を”風変わり”と書いているが、そんな程度だったら”阻害要因”までにはならないだろう。「キンキ大学」という言葉は、ネイティブには、「ヘンタイ大学」ぐらいの響きがするというのか? いや、もっと嫌な響なのだろうか。いずれにせよ、それはこの広報文には書きたくなかったことだろう。

いずれにせよ、この”kinky"問題、近大にとっては、相当大問題であって、やっと解決した、ということのようだ。

「逆」の場合は、どうだろう?


ううむ。それにしても、なんか気持ち悪さが残るのは、なぜだろう。

「逆」の場合を考えてみた。つまり、日本語にすると変な響きがする外国語。
その響きが面白くて、深い意味なく面白がったりすることは、確かにある。

真っ先に思い出したのは、子供のころにどこかで知って、その音の響きをギャグにしていた「エロマンガ島」(笑)

南太平洋のイメージ

今、調べたら、Erromangoと綴り、太平洋の島国ヴァヌアツの島。「イロマンゴ島」などと書かれることもあるようだ。

また、外国のスキージャンパーの「ヤンネ・アホネン」は、最初聞いた時は、関西弁的な響きが面白かった。

・・・あっ、こういうものは、不愉快な意味というわけでもないから例としてはよくないかな。

ただ、「日本語だと変な意味みたいだから、名前を変えよう」というような動きは聞いたことがない気がする。

「外国語≒英語」ではない


また、もう一つのポイントは、「外国語≒英語」という意識があることだろうか。

「英語名」とは言うものの、それは、言語としての英語の名前、というわけではなく、「ローマ字名」ということだと思う。漢字圏以外の国の人に読んでもらうための名前。

なので、英語ネイティブだけではなく、あらゆる言語を話す人がそれを使うことがあるわけだが、英語で変な意味になるからと言って、必ずしも他の言語で同じような変な意味になるわけではない。その英語の情報を読んでいる人、聴いている人も英語ネイティブばかりではない。

私が感じた、”なんか気持ちが悪い感じ”、というのは、うまく表現できないが、こういう、英語やそれを母国語とする人たちへの、どこか卑屈な感じ、そして名前まで変えてしまう、というメンタリティーだったのだろうか。

・・・と思ったら、私のカナダ人の友人のエピソードを、今、思い出した!

異文化を知ろうとすること


その友人の奥さんの名前はDeb。
彼ら夫婦が日本に住んでいた時に、奥さんのことを何と呼べばよいかと尋ねたら「みんなDebと呼んでるけど、日本語の発音だとどういう意味か知ってるから、Debbieでいいよ(笑)」と言われたことも思い出した。
Deb・・・ああ、なるほど。

・・・なので、日本も外国も、同じかな(笑)

なんかよく分からないが、「母国語を変えるなんてけしからん」も違うし、気にし過ぎるのも違う気がするが、「外国語だとどうなんだろう」と思いを馳せることそのものは、異文化を知ろうとする姿勢であり、良いことだと思う。

おまけ:近畿と関西の違いは?


最後に、ひとつだけ。
最初の話、「近畿」と「関西」の違いについて、それぞれの定義は・・・

広辞苑を引くと、

近畿:(皇居の所在地に近い国々の意)畿内とその付近の地方
関西:「近江逢坂関以西の地」「現今では東京地方を関東と称するのに対して京阪神地方をいう」など

・・・などと書かれている。その解釈については、専門家にお任せしようと思うが、もうひとつ、わかったのは、

近畿・・・2府(大阪・京都)5県(兵庫・奈良・滋賀・和歌山・三重)
関西・・・2府(大阪・京都)4県(兵庫・奈良・滋賀・和歌山)
・・・とされることが多いようだ、ということ。

ただ、これも、さきほどの天気原稿の関連で言うと、気象庁の「近畿地方」の定義は、実は上記の「2府4県」だそうで・・・

いやあ、もうややこしすぎ。
TPOに応じて、フレキシブルに使い分けてよさそうだ。

Kansai人だが、キンキーではない、AJでした。😄


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最後までお読みいただき、ありがとうございました。
AJ 




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