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権力が描く、官製「風刺画」!?

「風刺画」と聞いて、どんな絵を思い浮かべるだろうか。私が人生で初めて意識した風刺画は、やはり、あれ、かなあ。

アメリカ人とイギリス人が、彼らより一回り小さな軍服姿の日本人の背中を押して「お前が行けよ」と。その先には、どっかりと座っているロシア人。彼が焼いている「火中の栗」を拾えと迫られている、あれ。世界史の教科書で誰でも一度は見たことがある超有名なやつだ。

日本に住んだフランス人のビゴーという人物の風刺画で、彼の作品の数々は今も鑑賞されている。

その他には、やはり新聞でかつてよく見た、政治問題で政治家などを痛烈に皮肉った漫画だろうか。

ところで、いつものように、中国メディアの定点観測をしていたら、新華社で、次のような漫画を見つけた。

新華網より
新華網より

どちらも、ウクライナ情勢に絡めて、そもそもNATO(北大西洋条約機構。中国語では一般に、北約=běiyuē)というのは、非道なことをやっている恐ろしい組織なんだと徹底的に糾弾している論説シリーズの記事中の挿絵だ。

1枚目は、血まみれになり、血が滴る刃物を持つ“NATOお化け“の前でニヤニヤと邪悪な顔でピースサインをするアンクルサム。NATOは、アメリカの覇権を護るための軍事的道具だと言う。

2枚目は、これまた血まみれで刃物を振りかざし「何か言いたいことある?」とのたまうNATOお化け。「グループで対抗し合うことに熱狂している変態的思考」のキャプション。NATOは「冷戦時代の遺物」「やりたい放題人権を踏みつける殺人凶器」とまで書かれている。国営通信社、”言いたい放題”だ。

私はここで、このイラストが伝えようとしている内容の是非を論じたいのではない。提起したかったのは、「これは果たして風刺画と言えるのか」ということだ。

みなさんも、これを風刺画だと言われると、違和感がものすごく沸いてこないだろうか。なぜそう感じるのか、色々考えてみた。

① 風刺じゃなくて、単なる悪口?

風刺とは「ピリリ」と効かせるものでは?そして、問題を告発するものであっても、そこに関わる人間の、人間ならではの、どうしようもなさや、みっともなさや情けなさが滲み出てくるような深みがあるものなのでは?

ここで書かかれているのは、単に、自らがライバル視するアメリカへの溢れんばかりの憎しみと悪口、そして罵りに見える。

②なのに、茶化している?

そこまで非道で許せないと伝えたいのならば、なぜ茶化したような画を描くのだろう。こんなことがあっていいのかとまじめに訴えればよいだけではないか。こういう画を描くことで、見た人に対してどういう効果を期待しているのだろう。

③「お上」への風刺は許さず

最近特にこうした米国への憎しみをあらわにしたイラストが、国営メディアでも増えている気がする。米国を死神に例えたイラストが問題になったこともある。

が、残念ながら、今の人民の死活問題である上海ロックダウンにしても、当局や政府、党を皮肉る風刺は描くことができない。外国を罵倒、嘲笑できても、自分達の上の人たちに、たとえユーモアを交えた形であったとて、同じことはできない。(人民のスレスレの絶妙なユーモアは存在するが、風刺画は書けない)

ここからは、単なる妄想だが、ある親分が言う。「俺の子分たちは完璧な俺を批判したり風刺するのは元々ありえないし、仮にあっても絶対に許さないが、俺はめちゃくちゃ悪い他の奴の風刺画を書いたぜ。どうだ、風刺が効いてるだろ?」
---私が子分なら、引き攣った笑みを浮かべるだろうか。

中国語で言う、皮笑肉不笑(pi xiao rou bu xiao =皮膚は笑えど肉が笑わず=愛想笑い)だ。

きっと何かそういう状況下で描かれた画であることに、違和感や不自然さを感じたんだと思う。

④”権力側“が描く風刺画?

そして、やはり、これか。
風刺とは、庶民の側が、普段、権力や金持ちなど力のある人に対して不満に思っていてもなかなか大っぴらに言いにくいことを痛快に皮肉るものなのではないか?理不尽や、偉そうにふるまう人の馬鹿馬鹿しさや、情けなさを描き、庶民の思いを代表し、嫌なことを笑いに変えて痛快に吹き飛ばしてくれるような。

だからか。
権力側が描いた「”官製”風刺画」だったから、違和感を抱いたのだ。

人々が思っていることが自然と絵になったのではなく、人々に思ってほしいことを「お上」が絵にしたから・・・違和感の正体は、きっと、これだ。


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AJ 😀









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