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2021年7月の記事一覧

モネと蜜月(『睡蓮の池』のポスター)

モネと蜜月(『睡蓮の池』のポスター)



10年前。ぼくは、恋をしていた。暇さえあれば、会いに行っていた。通っていた高校の特別教室棟。その中でももっとも人気のない階段。1階から2階へ上がる途中の踊り場。他には何も貼られていない掲示板。そこが、モネの『睡蓮の池』の居場所だった。ぼくは壁にもたれかかって、ときどき触れたりして、蜜月を楽しんだ。

存在に気付いたのは、いつだっただろう。モネが好きだったぼくは、すぐに虜になった。ポスターとはい

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「そうすれば、なにかが見つかる気がして。」(鍵と錠前)

「そうすれば、なにかが見つかる気がして。」(鍵と錠前)



古い鍵に憧れていた。錆び付いていて、華美なものじゃなくて、実際に使用されていたもの。15年前のRADWIMPSの野田洋次郎のように、紐を通して首にかけておくのもいい。ぼくを、ぼくが知らない場所へ導く鍵。

それは、初めて訪れたアンティークショップにあった。

古い鍵は、たくさんあった。値札には、それぞれヨーロッパの国の名前が付いていた。つまるところ、その国のどこかで使われていたんだ。その中で一

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不在のジュース(Welch'sのガラス瓶)

不在のジュース(Welch'sのガラス瓶)



大学生のとき、岡山へ旅をしたことがある。そのとき、なんとなく立ち寄ったアンティークショップで、なんとなく目に入ったのでお買い上げした瓶。ぼくが初めて手にしたアンティークの品でもある。

見知らぬ場所でも、見知っている場所でも、ひとりぼっち。当時のぼくは、持ち帰ったそれを机の上に飾り、ときどき撫でた。「なんとなく」とはいえ、触れたり抱えたりしていると、なんの変哲もない瓶がいとおしく思えるのだった

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月を飲む(アルミニウムのスプーン)

月を飲む(アルミニウムのスプーン)

5年前だったと思う。名前は忘れてしまったけど、あるアンティークショップにふらりと立ち寄った。それは、隅の方にそっと置かれていた。アルミニウムのスプーン。

(本当にアルミニウムなのかわからないけど、一円玉と同じ材質に見えるので、たぶんそうだと思う。)

一目惚れだった。と同時に、ぼくは使い道まで思い描いていた。あんまりお金は持っていなかったけど、そんなぼくでも買える値段だったから、機会を逃してはい

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