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罪を犯した人にどう関わるか?ー『私の中にいる』黒澤いづみ著・読書記録

この小説は、荒んだ生活を続ける #シングルマザー と虐待を受け続けた娘の二人を中心に話が展開されていきます。

設定が色々と複雑なのでその辺りの説明は省きますが、物語の終盤で、その母親が死んでしまった娘に手紙を書き、そして娘になりきって返事を書くという場面があります。 

『萌果へ』
『私はあなたのことをずっと疎ましいと思っていた。あなたさえいなければ もっと身軽だと思ったことは 何度だってある。けれどそれも考えてみれば 母親からの思いをそのままなぞっていたのではないか という気がしている』
『自分と同じ目にあうべきだと思っていた。そうなるべきだと。私は未熟な子どものままで、やられたらやり返すという考えだけを持っていた。あなたにやり返すのは単なる八つ当たりだと理解してもいなかったと思う』  

『お母さんへ』
『わたしにしたことを人のせいにしないでください』『過去にお母さんがされたことと、わたしがお母さんにされたことは別のことなので同じに考えるのはやめてください』

上述したのは、手紙のやりとりの一部です。

読まれて察しがついたと思いますが、この母親自体もかつては母親やそのパートナーから身体的虐待や性的虐待を繰り返し受けていた子どもでした。

みなさんはこのやりとりをみて、どう感じましたか?

『ひどい仕打ちを我が子にしてきたことを、ひとのせいにするな』と、母親を責めたくなる気持ちが湧いてきた方もいるのでしょうか…?

#虐待の世代間連鎖 は、虐待を受けて育ってきた子ども、愛情を注いでもらえなかった子どもが、大人になって親となったとき、自分の子どもへも同じようにしてしまうというものです。 

わたしはもちろん、子どもへの虐待はなくなって欲しいし、そのために自分ができることがあるならば、やりたいと思っています。 

ただ一方で、ひとは学習する生き物なので、生まれてから愛や信頼を学習できないような状況(ひどい扱いをされ、誰にも守ってもらえないような状況)で育った子どもが大人になって親になった時に、いきなり子どもを慈しむことができるか?と考えると、それはすごく難しいことではないかなと思ってしまいます。

必ずしも実の親からでなくていいから、誰かから気にかけてもらったり、大切にしてもらった経験があることで初めて、ひとは誰かを大切にすることができるのではないかと思うのです。

(もちろん、虐待を受けて育っても、自分の子どもに同じようなことをしない方がいることも重々承知しています。)

ただ私は、虐待をした親も、加害者であると同時に被害者であり、ケアを必要とする人なのだろうと、思わずにはいられないのです。

 

母親と担当心理士の面談の場面で、心理士が母親にこんな言葉を伝えています。

「羽山さん。あなたはこれまで、いろいろな目に遭ってきたんです。そして脅かされてきた。まずそのことを認めてあげなければいけません。ーあなたは耐えてきたんです。自分なりに、必死になって辛い世界を生き抜こうとしてきた。その結果として確かに事件や犠牲はありました。被害者がいて、命を失った人がいる。そのことを『仕方がなかった』とか、軽い言葉で済ませて事件を不問にするのはもちろん間違っています。
けれどまず、羽山さんが今するべきことは、傷ついた心を癒すことなんです。自分の中の怒りや悲しみに目を向けて、それを認めて受容してあげなければ、あなたが先に壊れてしまう」

わたしはこの言葉に、すごく共感するのです。

児童虐待だけじゃなくて、他者や自分自身を傷つけるような行為をするすべての子どもと大人に必要なメッセージのように感じます。

そして、大きな犠牲が出てしまう前に、どうかあなたを気にかけてくれる人と出会えますようにと願わずにはいられません。

  

さいごに

この本は #贖罪 #児童虐待 #児童自立支援施設 #解離性同一性障害 #性同一性障害 など多岐にわたるトピックを含んでおり、読み進めていて混乱したり頭を悩ませるような場面もあるのですが、ストーリーが気になって一気に読み進めました。

特に、作中の〈ひつじ村の裁判〉p.217-221の物語と、それに関する登場人物たちの考察は #社会の在り方 について深く考えさせられます。

また個人的には、心理や対人援助の仕事をしている身として、主人公を取り巻く心理士の方や施設の方たちの関わりにも学ぶところが多々ありました。

常識や正論を押し付けるのではなくて「あなたはどうしたいのか?」を引き出せる支援者、教育者でありたいと、改めて思いました。

 

#読書記録
#黒澤いづみ #私の中にいる #講談社 #2020年
 
#心理職 #教育職 #福祉職 #対人援助職  の方などにも読んで欲しい一冊。。
 
寮長の「自分を変えることではなくて、自分を知ることが第一歩」というセリフにも強く共感。


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