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イランのヘリコプター墜落が世界経済に与える影響(5)

 2024年に入って日本の名目GDPは、ドイツに抜かれて世界第4位になってしまいました。但し、これはあくまで名目GDPの話であり、実質GDPでは、現時点でも日本はドイツより上で、アメリカ、中国に次ぐ世界第3位に位置しています。 #名目GDP #実質GDP の違いは、名目 #GDP が現在の市場価格で評価され、 #インフレ #デフレ の影響を受けるのに対し、実質GDPは基準年の価格で評価され、インフレやデフレの影響を排除して経済の実質的な成長を示す点にあります。近年の急激な円安も、日本の名目GDPがドイツに劣って見える原因の一つです。

 2022年の日本の人口は1億2510万人で既に #少子高齢化 の影響で人口は減少し始めています。

#ドイツ の人口は8380万人で、 #イラン の人口は8855万人とドイツの人口を若干上回る程度です。この三国の人口ピラミッドを比較すると、日本とドイツの人口ピラミッドは似ていて、両国ともこれから一気に人口が減速することが確実視されています。これは日本とドイツに限らず、他の欧州諸国でも同じ傾向がみられます。

 一方でイランの人口は1960年の約2000万人から、2010年の8000万人越えまで、ほぼ一定のスピードで人口が増加しており、就労可能な人口が多いことが分かります。

Iran Population (LIVE)

イランが日本のGDPを追い抜く可能性はあるか?

 イランと日本の実質GDPを比較すると、以下の通り日本の経済規模はイランの約12.5倍と非常に大きいです。そのため、ほとんどの日本人は、今後20年以内にイランが日本経済を抜くことなどあり得ないと考えているでしょう。ところが、私は20年後には日本のGDPはイランを大きく下回っていると推測しています。

 世界銀行や国際通貨基金(IMF)が米ドルを基準とした世界標準のGDPの尺度を導入したのは1950年以降であり、米ドルを尺度とした経済規模の比較には75年の歴史しかありません。現代流通している紙幣の中で100年以上一貫性を持った通貨がほとんどないことを鑑みると、米ドルが100年以上基軸通貨として機能し続けるかどうかは甚だ疑問です。このことが、近年急速に加速している世界各国の脱ドルの流れや、 #BRICS PAYによる新しい世界経済秩序の再構築の原動力となっています。

 米ドルが今後20年間以上基軸通貨としての地位を保つと考えている国は少数派です。2024年にBRICSに加盟したイラン、サウジアラビア、UAE、エチオピア、エジプト以外にも、多数の国々が次々とBRICSの加盟を希望、あるいは加盟を検討する旨を公表しています。現時点でも既にBRICSのGDPの総額は米国のGDPの総額を上回っています。

 米国のGDPは約25兆ドルなのに対し、2024年時点のBRICSのGDPの総額は28.3兆ドルに達しており、その内訳は、ブラジル:2.1兆ドル、ロシア:1.7兆ドル、インド:3.7兆ドル、中国:18.0兆ドル、南アフリカ:0.4兆ドル、イラン:0.4兆ドル、サウジアラビア:1.0兆ドル、UAE:0.5兆ドル、エチオピア:0.1兆ドル、エジプト:0.4兆ドルとなっています。今後さらにBRICS加盟国が増えるのみならず、これからBRICSに加盟する国々は、今後著しく成長することが見込まれている新興国であることを考慮すると、米ドルが #基軸通貨 の地位を維持することが如何に困難かが分かるでしょう。

日本の実質GDP

 日本は世界第3位の経済大国であり、その実質GDPは約5兆ドル(2023年)です。日本は高度に工業化された国であり、自動車、電子機器、化学製品などの多様な産業を持っています。また、技術革新と国際貿易が経済の主要な推進力となっています。

イランの実質GDP

 イランの実質GDPは約0.4兆ドル(2023年)です。イラン経済は主に石油と天然ガスの輸出に依存していますが、国際制裁や国内の政治的不安定性が経済成長に影響を与えています。イランは経済の多角化を進めようとしているものの、依然としてエネルギーセクターが中心となっています。

イランのGDP

実質GDPの差
日本の実質GDP:約5兆ドル
イランの実質GDP:約0.4兆ドル

 これらの数値から、両国の実質GDPの差は約4.6兆ドルとなります。これは、日本の経済規模がイランの約12.5倍であることを意味します。

比較のポイント
産業構造:日本は多様な産業基盤を持ち、先進的な技術と製造業に強みがあります。ところが、日本のGDPに占めるハイテク産業や製造業の比率は毎年低下しており、2023年の時点でGDPの73%がサービス産業となっています。対照的に、イランは依然としてエネルギー資源に大きく依存しています。イランのエネルギーは、これまでの経済制裁の影響で生産量が比較的少なく、古い設備で採掘していたため生産コストが高かったです。

石油やガスの可採年数:新規油田やガス田の発見以外にも、化石燃料価格が高騰すると、高いコストを掛けて採掘可能なため、石油相場によっても可採年数は大幅に変更します。ところが、現時点で可採年数が100年以上の国は、世界でイラン一国しかなく、サウジアラビアのようにこれまで増産し続けなかったことが、今後の化石燃料市場におけるイランの優位性を決定的なものとしています。

再生可能エネルギー資源:イランには化石燃料以外にも、再生可能エネルギー産業が発展するために必須の資源である銅、アルミ、リチウムなどの資源が手つかずの状態で豊富に残っており、伸び代が大きい特徴があります。

国際貿易:日本は主要な輸出国であり、多国間の経済協定を通じてグローバル市場で強い存在感を持っています。イランは国際制裁の影響を受けており、貿易の機会が制約されています。何の経済制裁も受けずに自由貿易を行いながらも凋落し続けている日本と、様々な経済制裁や貿易制裁、技術移転規制を掛けられて成長してきたイランでは、イランの方が圧倒的に不利な条件だったことは間違いありません。これが、BRICSの台頭により、イランの産業、経済、貿易などが自由に行えるようになると、資源国のイランには圧倒的な優位性があります。

政治的安定性:日本は政治的に安定しており、経済政策も安定しています。イランは政治的不安定性や国際制裁の影響があり、経済成長に制約があります。ところが、イランの経済成長を妨害している、 #イスラエル とアメリカが心中するのは時間の問題です。 #国際刑事裁判所 #ICC )の検察官は、2024年5月20日にイスラエル政府首脳に逮捕状を請求しており、国連の会議でも加盟国の大多数が、イスラエルの戦争犯罪を非難しているのに対し、イスラエルを擁護している主要国はアメリカのみです。

備考:GDPの概念と歴史

GDPの概念
GDP(Gross Domestic Product、国内総生産)は、ある国や地域内で一定期間内(通常は1年間)に生産されたすべての財やサービスの市場価値の総額を示す経済指標です。これは、経済活動の規模を測るための主要な指標であり、以下の3つの方法で計算されます。

生産法:すべての最終生産物の価値を合計する。
所得法:労働所得、企業所得、政府の税収などを合計する。
支出法:消費支出、投資支出、政府支出、純輸出(輸出-輸入)を合計する。

GDPの歴史
初期の経済計算
17世紀〜18世紀:経済活動の測定は、主に個別の商業活動や農業生産量に基づいて行われていました。国全体の経済活動を総括的に測定する指標は存在しませんでした。

近代的なGDPの発展
1930年代:世界恐慌の影響で、経済活動の測定方法の必要性が高まりました。アメリカ合衆国では、サイモン・クズネッツ(Simon Kuznets)が国民所得と生産の測定に関する基礎的な研究を行いました。1934年にクズネッツは、アメリカの国民所得の統計を発表し、これが現代のGDPの基礎となりました。

国際的な標準化
1940年代:第二次世界大戦後、国際的な経済再建が進む中で、経済活動の測定方法を標準化する必要が生じました。1944年のブレトン・ウッズ会議では、国際通貨基金(IMF)と世界銀行が設立され、これにより国際的な経済統計の基準が確立されました。

1947年:国連が『国民会計システム(SNA:System of National Accounts)』を導入し、GDPの計算方法が標準化されました。

USDベースでのGDP統計
1950年代以降:世界銀行や国際通貨基金(IMF)が世界各国のGDP統計を米ドルベースで公表し始めました。これにより、異なる国々の経済規模を比較しやすくなりました。

現代のGDP計算
現在、GDPは世界中で標準的な経済指標として用いられており、国際的な比較や経済政策の評価に不可欠な指標となっています。GDPの計算方法や統計は、IMFや世界銀行、各国の統計機関によって定期的に見直され、改善されています。

 GDPの概念は、1930年代に #サイモン・クズネッツ の研究によって確立され、第二次世界大戦後に国際的に標準化されました。1950年代以降、世界銀行やIMFが米ドルベースでのGDP統計を公表し始め、現在では世界中で主要な経済指標として広く利用されています。しかし、米ドルの金兌換性が中止されたニクソンショック以降、米ドルを基にした経済指標は変化しています。2024年中には運用が始まる米ドルを基軸通貨としない #ブロックチェーン 基盤による #仮想通貨 #デジタル決済 プラットフォームのBRICS PAYや、ASEAN諸国の #脱ドル の加速などによって、米ドルが国富を計る尺度でなくなると、GDPによる国富や産業競争力の指標は意味をなさなくなる可能性が極めて大きいと言えます。

つづく…

#武智倫太郎

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