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【怪談】 祖父母の家

私には、自宅の他に時々行く祖父母の家があります

と言っても祖父母はもう随分前に亡くなっていて、普段は空き家になっているので、時々家族の誰かが空気の入れ替えの為に泊まりに行く感じになっています

最後に行ったのは、確か去年の9月頃だったでしょうか……

たまたま色々と忙しくて、4か月ほど行けていませんでした

そして年が明け、近くまで行く用事があった為、私が泊まりに行くことになりました

ちょうど日本中を大寒波が襲い、とても寒い日でした

久しぶりに祖父母の家を訪れた私は、納戸から古い石油ストーブを出してきて、倉庫に置いてあった灯油を入れ、火を起こしました

家は二階建ての一軒家で、そこそこ広さもあるのでひとりでいると妙に寒々しく感じます

祖父母が住んでいた頃には盆と正月は家族で訪ねていて賑やかだったものですが、今は住む人のない家の中は、閑散として寂しげです

慣れてはいましたが、何故かここ数年は、そう感じることが増えていました

ひとりでテレビを観ながら夕飯を食べ、お風呂に入って居間に戻ってくると、急に睡魔に襲われて眠りに落ちてしまいました

2~3時間は眠っていたでしょうか、ふと目が覚めるともう夜中になっていました

寝室は二階にあるのですが、その晩はあまりにも寒くて上がる気になれませんでした

ストーブを点けているので居間の中は心地よく温まっています

なのでそのまま、ホットカーペットの上に直寝してしまおうと思いました

テレビを消し、適当に毛布をかぶってホットカーペットの上に寝転びました

ですが、そうすると今度は妙に床の固さが気になって体が痛くなり、眠りに落ちることが出来ません

さっきよほど深く眠り込んでしまったのでしょう、変に目が冴えていました

1時間ほどそのまま頑張ってみましたが、どうしても眠れそうにありません

スマホの時計をチェックすると、夜中の3時10分を指していました

やばい……

翌日は別の用事を控えており、長距離ドライブの予定もあったので睡眠を取っておかなければならないと思い、寒さを覚悟の上で二階に上がって寝ることにしました

二階の寝室に入ると、空気は極限まで冷えていました

しかも、去年の9月に来た時のままだったので、ベッドの布団は夏仕様

大急ぎで押し入れから毛布と大きな羽毛布団を引っ張り出し、ベッドの上にかけました

それからすぐベッドに入って布団にくるまったのですが、何せ寒くてなかなか寝つけません

明日の為に、少しでも眠っておかなければ……

そう思いながら目を閉じ、じーっと眠気がくるのを待っていました

ようやく眠気を感じ始め、トロトロと眠りに落ちそうになった、その時でした

一階から階段を、ドドドドドドと上がってくる音がしたような気がしました

でも私はあまり気にはしませんでした 水道管の具合か何かがあるらしく、祖父母の家に来た時は家の壁に響くようなそんな種類の音がすることがよくあったからです

それよりせっかく眠くなってきたんだから、寝なきゃ 寝なきゃ

というのが先に立っていました

ですが その音がしてしばらく経った後 何かいつもと違うものを感じました

そう言えば あの足音、うちの猫の足音みたいだったな

私は思いました 我が家では猫を一匹飼っているのですが、オス猫で体重があるせいか、階段を上り下りする時、けっこう大きな音を立てるのです

猫を連れてこの家を訪れることもあり、その折によく聞いた足音に似ている気がしました

でも、今回は猫は連れてきていません

何だろうな……やっぱいつもの家の音かな


そう思った時でした

これ、違う!

ギクッとした時には〝それ〟はもう 部屋の中に入ってきていました

何かはわからず 姿も見えないのですが、ただ感覚として確かにそこにいるというのがわかりました

〝それ〟は寝室のドアからまっすぐ入り込んできて、私の足もとから上の方へ上がってきたようでした

右を下にして横向きに寝ていた私の背中の辺り、壁に近い方の羽毛布団がぐ~っと下に押される感覚がわかりました

よく猫が布団に入ってくる時同じような仕草をするのですが、猫にしては太い、人間の手で押してくるようなボリュームがありました

なので私は「あ、これダメだ、イカンやつだ」と思いました

わっ、わっ、わっとパニックになりそうになっていると、〝それ〟は更に近づいてきて

私の羽毛布団を引っ剥がそうとしてきました

布団をめくられそうになる寸前、布団の縁をつかんだ私は必死で何か出来ないか、
自分に出来ることはなかったかと頭を巡らしました

「ぎゃーていぎゃーていはーらーぎゃーてい はらそうぎゃーていぼーじーそわかー」

以前見齧って辛うじて覚えていた般若心経の最後の部分が咄嗟に口から出てきました

最初の内は声が出なくて、それでも出ている体で何度も何度も唱えていたら、何とか声が出るようになりました

今思えば それは「エーテル体の攻防戦」といった感じだったかもしれません

何故ならその時私の体は起き上がっていないにもかかわらず、意識の中で起き上がリ、布団を剥ごうとした〝それ〟に対面した瞬間があったからです

般若心経を唱え始めると、〝それ〟が体の上にのしかかっていた感覚が薄れ、ふっと体が軽くなった気がしました

自分の中のどこかに覚醒したような感じが発し、私のエーテル体は上体を起こして声になった「ぎゃーていぎゃーてい……」を〝それ〟に向けてぶつけました

その時に起こったことは、今でも鮮明に覚えています

〝それ〟は長い髪の女? のような姿をしていました

と言ってもシルエットだけみたいな、曖昧な形ではありましたが

青白い色合いをしていたのが印象的でした

後で調べると、エーテル体は白っぽいブルー色をしているのだそうです

般若心経をぶつけた途端、〝それ〟はバチンと弾けたように輪郭を乱し、徐々に消えていきました

風船に針を刺して割った時のような感じでした

弾けた時、パシッ、と静電気みたいな音が出ていたような気もします

その後私は、布団にくるまったまま目を強く閉じ、後から思い出されてきた二つの真言をずっと唱えていました

おん あぼきゃ べいろしゃのう  おん あぼきゃ べいろしゃのう……

トホカミエミタメ トホカミエミタメ……

どちらもテレビで観たりネットのブログで知ったりしたものでしたが 効果がありました

おん あぼきゃ べいろしゃのう 

は除霊の時に使われていた真言で、

トホカミエミタメ 

は自分と自分の周りを浄化する強力な清め言葉だそうです

唱え続けていると、周囲の空気感が段々普通に戻り、穏やかな感じになっていくのがわかりました

そして夜は白々と明け、朝になったので起きて布団から出てみると 寝室のドアが少しだけ開いているのが見えました

寒い晩だったので隙間風でも入ると嫌だと思い しっかりと閉めたはずだったドアが開いているのを見た時

本当に何かが入ってきたんだという実感が湧いて 朝から気分が悪くなりました

祖父母の家で深夜に突然現れた〝それ〟は一体何だったのか

どうして私の布団の上に乗ってきて、布団を剥がそうとしたのか

結局何もわからないままです

空き家である祖父母の家にしばらく行けていなかった間に〝何か〟が棲みついてしまったということなのでしょうか

残念ながら、それがわかるほどの能力が無いのでこのまま放置せざるを得ません

いたずらに怖がらせてもいけないと思い、家族にも話していないのですが

これからはもっと頻繁に訪ねて 家の空気を入れ替えるようにするくらいが、出来ることなのかなと思っています

今回起きたことについて 自分なりに考えてみました

それは何というか かなり嫌な経験ですね

「怖い」というか、何か、
「〝決して交じり合ってはいけない〟〝よくないもの〟がそこに来てしまっていた」
という感じです

正直、自分が実際に般若心経や真言を唱えて霊的なものを撃退するとは思ってもみませんでした

生まれてこのかた、幽霊を見たこともありませんし、霊感などというものは無いと思っていた私です

高校生の時に少し霊障と呼べそうなものに遭遇したことはありましたが、全くそれ以来の経験でした

こういう怪談投稿をさせていただいている身として、普段から自分の中で幽霊とか心霊現象みたいなものにいつか遭遇してみたいという

何となくの憧れはあったのですが、いざリアルに遭遇してみると、

「二度とゴメンだ」

という気がしますね

霊感の強い人達はしょっちゅうこんなものと対峙しているのかと思うと

頭が下がる思いがします

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