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[ヘラルボニー×成田空港] -新たな言葉と共に,想いを受け継ぐ

 成田空港、LCC利用者にはおなじみの第三旅客ターミナル。

 第二ターミナルからの長い旅を終えて、セキュリティチェックに向かう通路に、そのスペースはある。

 いつもは急いで通り過ぎがちなのだが、この日は少しここで時間を過ごそうと思っていた。


アート×休憩所 @第三旅客ターミナル

 ヘラルボニーとは?

 すでにさまざまなメディアで紹介されているが、主に知的障がいのあるアーティストととライセンス契約を結び、多様な事業を展開しているベンチャー企業。

 事業は成功し、企業とのコラボなども多数手がけている。

「謎の言葉」だった「ヘラルボニー」

 ヘラルボニーの語源は、さまざまなところで語られている。

 同社の創業者はきょうだい(双子)なのだが、彼らには知的障がいを持つ兄がいる。「ヘラルボニー」はそのお兄さんによる、謎の言葉だという。

 わたしはこのエピソードがとても好きだ。

自閉症の兄が書いた「謎の言葉」

――社名の由来は何ですか。

崇弥
 大学時代、「大切なもの」を題材にした作品をつくることになり、実家で兄貴のことを調べていたんです。そのとき、押し入れの中にあった兄貴の子どものころの自由帳に、「ヘラルボニー」という言葉が繰り返し書かれているのを見つけました。母親に聞いても「なんだろうね」という答えで、兄貴に聞いてももちろん「わかんない」。謎の言葉があったことが印象に残っていました。
数年後、会社をつくることになり、「ヘラルボニー」って言葉があったな、とひらめいて発表しました。文登には「ダサいからやめたほうがいい」と反対されましたが、ほかの仲間は賛成してくれたので、押し切ってヘラルボニーという社名にしました。

「最高でかっこいい」知的障害のある人たちのアートが示すウェルビーイングな世界 
ヘラルボニー創業者兄弟に聞く より抜粋

 かなり薄れた記憶のなかで、そういえば、幼い頃に、自分で言葉を作っていた気がする。その意味はモヤモヤとしながら、しかし、あるものなりことなり状況なり、を示していた。きっとそれは、多くの人にある。

「ヘラルボニー」は、その言葉の作り手のなかで、明確で、特別な意味を持っていたのだろう。

 それが、弟たちの手によって意味を付け加えられ、みなが知るところとなった。

そして言葉は受け継がれていく

 既存の言葉では言い表せない、感情のようなものがある。

 それらはふっと浮かんでは、消えていく。でもそれを、だれかが掬い取ってくれるのなら、その言葉は元々の意味にさまざまなものが加えられながら、残っていく。創造主の感情みたいなものも内包しながら。

 アートも、言語では掬い取れない要素を含んでいる。アート作品を鑑賞すると(たまたま作品と波長が合ってしまうと)、それらがダイレクトに自分の中に流れこんでくることもある。

 「ヘラルボニー」という謎の言葉は、多様性をなによりも大切にしたアート集団を意味する、新しい役割を背負った。

 ここが空港の待合だというのも象徴的だ。疲れた身体を休めながら、旅人はふとアートに目をやり、そのシーンは記憶に刻まれる。

 いつか、何かのきっかけでそれらは旅人のなかでつながり、「ヘラルボニー」という言葉とともに静かに拡散していくのだろう。


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