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【瀬戸芸2022 秋9/29-】ヴァレーギャラリー,ベネッセハウスミュージアム(直島)

 9/29より、瀬戸芸の秋の部がはじまる。わたしも週末から参加予定だ。夏は悪天候と重なり旅程短縮を余儀なくされたけれど(それでも、嵐予報から一転して晴天、というドラマティックな体験は貴重だった)、今回、週間天気予報には晴天マークが並び、期待している。

 夏に鑑賞した、ヴァレーギャラリー(2022年3月オープン)とベネッセハウスミュージアム(直島)のようすを、急ぎアップしておく。

ヴァレーギャラリー

■アクセス:宮浦港からバスに乗車

 まず、アクセスから。高松方面ほかのフェリーが到着する宮浦港から、フェリー到着に合わせてバスが出ているので、乗車して「ベネッセハウス」まで行くのが早い(運賃100円、現金のみ)。

 10時オープンの施設が多い直島で、ベネッセハウスは開館8:00〜21:00(最終入館20:00)。到着が早い場合は特に、まずベネッセハウスのアートを鑑賞して、徒歩でヴァレーギャラリー、その後は李禹煥(LeeUfan)美術館、地中美術館といった美術館エリア、あるいは逆方向の本村エリア(家プロジェクト)に行くのが効率的だ。

バスから瀬戸内海を望む

■「瀬戸芸デジパス」で鑑賞可

 両施設とも、「瀬戸芸デジパス」ほか作品鑑賞パスポートがあれば無料で鑑賞できる。通常は、ベネッセハウスミュージアムの鑑賞料金(1300円)にヴァレーギャラリーも含まれる。なお、ベネッセハウスはホテルなので、滞在客のアート鑑賞はもちろん無料。

ベネッセハウス

■ヴァレーギャラリー:突然の異世界

 通常は、ベネッセハウスミュージアム→ヴァレーギャラリーの順なのだけど、今年のオープンということから、さきにヴァレーギャラリーを。位置関係としては、ベネッセハウスから少し歩き、李禹煥美術館の手前、という感じだ。

ヴァレーギャラリーは、祠をイメージした小さな建物と周囲の屋外エリアで構成されます。境界や聖域とされる谷間に沿うように建てられた建築は、二重の壁による内部空間が内省的である一方、半屋外に開かれ、光や風など自然エネルギーの動きも直接的に感じ取れます。建築と、周囲の自然や地域の歴史を映し出すこれらの作品が響き合い、改めて自然の豊かさや共生、根源的な祈りの心や再生などについて意識を促します。

ベネッセアートサイト直島「ヴァレーギャラリー」より

 敷地に入ると、目に飛び込んでくるのが、草間彌生のインスタレーション「ナルシスの庭」だ。草間彌生美術館等で、小規模なものは観たことがあったが、自然の中で、大規模なものを鑑賞するのは初めて。

草間彌生「ナルシスの庭」

 小径を進むと、ゆるやかな丘に向けて徐々に上り坂になるあたりに、小沢剛の 「スラグブッダ88」が現れる。

小沢剛 「スラグブッダ88」

 丘の上から見下ろすとこんな感じになり、丘から池に続く連続性が、なんとなく、永遠という言葉を呼び起こしたりする。突然陽が射して「ナルシスの庭」の球体にキラキラと光が反射したりすると、その眺めは壮観だ。

映り込みの妙。球体に吸い込まれつつ、ひたすら増殖している感じ

 しかしこのアートはこれだけでは終わらない。丘の上には、安藤忠雄の9つ目の建築がそびえている。中に入ると、

地中美術館でもおなじみの、この光と影の回廊
暗闇からの解放。宗教的な場を思い浮かべた

 自然光が射し込む安藤忠雄建築の空間に、やはり「ナルシスの庭」が広がる。ここでの球体には、どこか荘厳さが漂うように感じられる。

向かいの小部屋
そして回廊から再び屋外へ
池からの全景

 自然に浸っていたら、観光の気分でいたら、アート作品のことを考えていたら・・・突然異世界に放り込まれて、「永遠」みたいなことを考えざるを得なくなる。

 この空間には、突然に異世界に滑り込んでしまい、訳のわからないうちに問いにさらされる、といった面白さがあった。

■ベネッセハウス ミュージアム:美術館がホテルに(またはその逆)

 わたしは残念ながら宿泊したことがないベネッセハウス ミュージアム。アートと暮らす、暮らしの中にアートがあるとはこういうことなのだろう、と想像しながら見学した。

ベネッセハウス ミュージアムは、「自然・建築・アートの共生」をコンセプトに、美術館とホテルが一体となった施設として1992年に開館しました。瀬戸内海を望む高台に建ち、大きな開口部から島の自然を内部へと導き入れる構造の建物は、安藤忠雄の設計によるものです。 絵画、彫刻、写真、インスタレーションなどの収蔵作品の展示に加え、アーティストたちがその場所のために制作したサイトスペシフィック・ワークが恒久設置されています。アーティストたちは自ら場所を選び、作品を制作しています。作品は展示スペースにとどまらず、館内のいたるところに設置され、施設をとりまく海岸線や林の中にも点在しています。直島の自然に向き合った、または建築に触発された作品など、美術館の内外に点在するサイトスぺシフィック・ワークと合わせて、自然とアートと建築が融合する稀有な場をつくりだしています。

ベネッセアートサイト直島「ベネッセハウス ミュージアム」より 

■有名現代アートをごく自然に鑑賞

 館内には、もともとベネッセのコレクションである、あまりに多くのアートがごく自然に展示されている。そのラインナップも、たとえばコンセプチュアルアートとして有名なブルース・ナウマンの「100生きて死ね」など、現代アートの学習教材のような作品もある。

ブルース・ナウマン「100生きて死ね」1984年
杉本博司「タイム・エクスポーズド」1980-97年
ジョナサン・ボロフスキー「3人のおしゃべりする人」1986年
安田侃「天秘」1996年

■柳幸典「ザ・ワールド・フラッグ・アント・ファーム」と再会

柳幸典「ザ・ワールド・フラッグ・アント・ファーム1990」1990

 個人的には、砂で描いた国旗がチューブでつながり、そこをアリが縦横無尽に動いて巣を作る、柳幸典の「ザ・ワールド・フラッグ・アント・ファーム」に思い入れがある。

 ずいぶん昔に、この作品が森美術館で展示されていたときに衝撃を受け、現代アートの持つ批評性といったことを腹落ちさせた。言葉で説明するよりも速く深く、一瞬で悟らせる、アートの力を思い知った作品でもある。

■自然光の射し込む「異端な美術館」

  これまでの写真からもわかるように、ベネッセハウスの特徴は、あふれる自然光の下での作品鑑賞だ。しかしこれは、美術館としては異端だと、直島の「仕掛け人」でもある秋元雄史氏は、その著書『直島誕生』で語る。

 通常の美術館では、こんなことはまず考えられない。直射日光が差し込むだけで温湿度が変化するため、作品を安定した状況に置くことができない。これは保存上の問題であり、まずこれで嫌われる。それに、外光が直接入ることで光が大きく変化するので、作品の見え方が不安定になる。これも嫌われる。近代美術以前の作品を扱う学芸員や研究者で、これを快く了承する者はおそらくいないだろう。
 ぜひ、その視点で博物館や美術館を見てみてほしい。大きな窓が開口している施設はまずないはずだ(あえてそれを無視する建築家はいるが)。要するに、ベネッセハウスは通常の美術館として見れば”異端”なのである。建築的には成功していても、だ。展示されるのがある傾向の現代アートだからかろうじて成立している。というか成立するポイントを探り当てるのが僕の仕事だった。

秋元雄史『直島誕生』p97-98

 この心地よさは「鑑賞者目線」だからであり、ホテルという居心地のよさを損なわずにアートを配置するには、プロフェッショナルたちの計り知れない苦労があったということだろう。美術館のなかには「作品保護はわかるけど・・・」と、鑑賞者としては残念に思うこともままあるので、こうした配慮、こだわりには敬意と感謝を。

■滞在者の気分で

 滞在者とおぼしき、これから部屋に戻ります、的な、身軽な服装の人も大勢いた。疲れ切って戻った夜に、また、すっきりと目覚めた朝に、視界に上質なアートが入る環境は、それを観て自分がどう感じるかという自己観察にもなって興味深い。

 わたしは「フェリーで島に渡る」というプロセスが好きで、高松港を拠点にしがちなのだけど、一番のフェリーに乗って島に来て、まずベネッセハウスで宿泊者のような気分を味わい、島めぐりの基点とするのもなかなかいいものだった。次回もそうしてみよう。

↓ ※瀬戸芸2022関連記事を、下記にまとめています。





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