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ウクライナ危機の本質(要約)-ロシア視点-

ヨーロッパに住んでいると、ウクライナ危機は対岸の火事ではなくなる。すでに何ヶ月も前からテレビをつければ、ウクライナ危機のことが中心だった。2月に入ってからは、さらに加熱した。

連日の戦火の光景にいたたまれない気持ちになるが、不安を煽る報道も多く、素人の私は見れば見るほど「何が本当の問題か?」分からなくなる

日本のwebニュースは「第三次世界戦争の始まりか?」「プーチンは独裁者」みたいな言説も多いように感じる。

一方で、西洋でも同様。「プーチンは21世紀に秩序を乱す、狂った人」扱い。やはりこちらも西洋側(一方向)からの論理しか見えない。

受動的にメディアからの情報を受け取り思考停止するのではなく、自分で情報を集めて、問題の本質を探りたいと思った。

そんな中、出会ったのが、シカゴ大学・国際政治の権威、ミアシェイマー教授のレクチャーだ。

的確に歴史と事実を踏まえて、ロシア側(プーチン氏)の思惑がキレイに浮かびあがるものであった。この動画はちなみに2015年に公開された動画であるが、今、教授が言うとおりのことが起きている。

1時間にわたる動画で小難しい内容にも関わらず、再生回数はここ2日間だけでも250万回以上伸び、現時点(3/2)で1,350万回を超えている。人気Youtuber顔負けの数字だ。世界中の人が「なぜ」を知りたがっていることを物語っていると感じる。

このレクチャーでは、今の現状を端的に説明しているだけでなく、米・欧、日本をはじめとする民主主義国では、西側に都合の良い情報が出回り、いかに本質が隠れているかが分かる。

この投稿では、この動画の要点を紹介する。リサーチも加えてできる限りの補足もした。(ミアシェイマー教授は主要な学派の一つ、リアリズム派(=各国間に国力のバランスが取れている場合に 平和が保障されると考える)の第一人者だ。今回の要約はリアリズム派の視点である。)

「意味不明な独裁者」で思考停止するのではなく、今起きていることを自分の言葉で説明できる人が一人でも増えることを望む。

言い訳がましいが、私は政治に特段詳しいわけではない。ただの教授の講義の要約(+α)として読んでいただければ嬉しい。(なお同教授の最近のインタビュー記事も参考にした)

さて本題に移ろう。

「果たして冷戦は再開するのか?第三次世界大戦になるのか?」
「プーチンは狂った独裁者で帝国を作ろうとしているのか?」
「NATO(ほぼアメリカ) vs ロシアなのか?」

結論から言うと、全て"No"のようだ。(プーチン氏が自暴自棄にならない限り、という条件付きだが)

ウクライナ vs ロシア vs NATO の歴史(2008年〜)

ロシア vs ウクライナは、実は、2008年に始まっていた。ロシアによるクリミア侵攻は2014年だから、その6年前からということだ。

2008年に、NATOが、ジョージア(当時グルジア)とウクライナを将来的にNATOに加盟させることを宣言した。

NATOに入ることは、いずれEUに入ることとほぼ同義だ。ロシアはこれに激しく抗議した。すでに多くの旧ソ連の国々がNATOに加盟していたが、この2カ国は最後の砦である。なによりロシアの真横にNATOそしてEUが控えることになるのは、最高位の脅威となる。

よってロシアは行動に出た。あまり知られていないが、2008年にロシアはグルジアに攻め入り、グルジアは降参。NATO加盟は宙ぶらりんのままとなった。

次の標的はウクライナだった。2013年から「ロシア寄り」の政府に対するデモや衝突が始まり、2014年に「親EU派」の政権が誕生する。そして、この新政権は、ウクライナ内のロシア語圏の権利を制限し始めた。(これがロシアの言う"ジェノサイド"の始まりのようだ。)具体的にはロシア語使用の撤廃が決議される。

怒ったロシアは、2014年2月22日にクリミアを併合し始める。(これは私個人の考えだが、今回のウクライナ侵攻が、クリミア併合からちょうど8年後(2022年2月24日)だったということは、何かの偶然ではなさそうだ。)

そしてNATO vs ロシアはいつから始まったか。それは、2014年からだそうだ。それまで「21世紀に大国同士の戦争はない」と考え、ほぼ存在意義がなくなっていたNATOは、クリミア併合で目を覚ました。そこからNATOは、ロシアとの国境近くに兵隊を駐在、軍事演習(牽制)を行うようになった。これがロシアに不必要なプレッシャーを与え、最終的には今回の惨事を引き起こすことになってしまった。

プーチン氏の真の目的

教授によると、プーチン氏の目的は、ウクライナを征服することでも、帝国を作ることでも、NATOと戦争をすることでもない

真の目的はただ一つ。

ウクライナ(とジョージア)がNATOに加盟せず、永久にEUとの間の緩衝国でいてもらうこと、だ。

永遠に緩衝材として(そして露が都合よく利用できる)「中立国」のままでいて欲しいだけであった。ところが、そんな都合の良い論理が通じるわけは無い。ウクライナは、ロシアから独立し、EUの仲間入りをしたい。だから、ロシアはそれを阻止することに全てを賭けることになる。よって、今回の開戦につながってしまった。

ロシアはこう考えていた。ウクライナがNATO(EU)に加盟すれば、西側諸国に実質支配され、国は骨抜きにされる。おまけに、ウクライナとロシアの国境地域でNATOの軍事演習なんぞ行われたら、ロシアにとっては一触即発の危機だ。(ロシアはNATOとの全面戦争をしたいわけではなく、万が一、核を使用したら最後。その代償は甚大なものとなる。)

ならばロシアは、2008年にグルジアにしたことを行うまで。ウクライナがNATO・EUに加盟し、破壊されてしまうくらいなら、先に破壊して、NATO加盟を無かったことにすることにした

プーチン氏が西側諸国を嫌う理由

プーチン氏は欧米に対して、不信感を持っている。西側諸国は、民主主義が「正義」であるかのようにプロモーションして、それ以外の国を悪者扱いする一方で、NATOが介入しこじらた戦争(アフガニスタン・イラク・リビアなど)の正当性は、今でもNATOは説明できない。プーチン氏はそれを鋭く指摘する。(これらの情報は西側に不利な情報のため、あまり大きく報道されていない)

欧米側の都合のいい振る舞いを熟知するプーチン氏は「欧米は信用ならない(が、うまく付き合わなければならない相手)」と考えている。一方、民主主義国である米・欧州は、考え方の異なるロシア(共産主義)を受け入れず、2014年からはプーチン氏への挑発を強めてきた。その溝は大きくなってしまった。

皮肉なのが、NATO戦争の意味を指摘をしたロシアが、今はウクライナで(はたから見れば)NATOと同じことを行なっている・・・

致命的な欧米の判断ミス

教授は2015年の時点で、今回の戦争を抑止する方法を指摘していたが、欧米は最悪のシナリオを歩んでしまった。

ウクライナは、NATO・EUにとって戦略的に重要という訳ではない。資源もなければ、汚職も多い過去があり、NATO・EUに加えるインセンティブは高くないと言う。しかし、2014年から米国・EUが不必要にロシアを警戒し、ウクライナに介入し続け(資金援助など)、おまけにロシア国境付近では軍事演習まで始めてしまった。

教授は、講義の中でこう熱く語る。

"You're putting yourself in a position where you’re willing to risk a possible nuclear war over a piece of real estate Ukraine that is not a vital strategic interest to the US. "
「米・欧の政治家は、自分たちにとって重要な戦略的利益ではないウクライナ(不動産の一つ)のために、ロシアとの核戦争の危険性に自らをさらすようなことを行なっているのです。」

Youtube: Why is Ukraine the West's Fault? Featuring John Mearsheimer

どんな理由かは分からないが、今回の悲劇は、欧米とロシアの政治家たちが一向に噛み合わなかったせいで起きてしまった。

無念。としか言いようがない。

最後に

以上が動画のサマリだ。素人には難しい動画ではあるが、素晴らしいレクチャーのため、興味のある人には是非見てみてもらいたい。

もし私が欧州に住んでいなかったら、今回のウクライナ危機を自分事に本気で考えることはなかっただろう。

教授の考え方を知っただけでも、ニュースの捉え方も変わるのではないだろうか?

今起きている戦争がいち早く終焉を迎えること、そして、世界のリーダーたちが正しい判断をして、核戦争に発展しないことをただただ祈っている。


今日はここまで。

*Youtubeのレクチャーは難解な英語のため、もしかしたら解釈ミスもあるかもしれません。もし誤りや誤解のある表現をしている場合は、随時、追記していくので指摘していただけると嬉しいです。

追記:
ミアシェイマー教授は、リアリズム派であり、今回の要約はリアリズム派からの視点であることを追記した。


(参考)
https://www.nato.int/cps/en/natohq/topics_111767.htm
https://www.nato.int/cps/en/natohq/news_191040.htm
https://www.newyorker.com/news/q-and-a/why-john-mearsheimer-blames-the-us-for-the-crisis-in-ukraine
https://en.wikipedia.org/wiki/Ukraine%E2%80%93NATO_relations

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