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雑多なもの

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#哲学

消えてしまった、存在論ー写真についてー

消えてしまった、存在論ー写真についてー

Ⅰ .消えてしまった

 最近、と言っても一年以内という程度の意味だが、昔から暇な時間さえあると本を読んでいるものだから、時々「どんな本を読んでいるんですか」とか「どういう本が好きなの」と聞かれることがあると、便宜的に「ドイツ文学が好きです」と答えるようにしていたら、それまで以上にドイツ文学やその周辺に関する本を読むようになった。
 もちろん嘘ではない。大学の頃はドイツ語を第二外国語で学んでいたし

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イスラームの寛容さについて

イスラームの寛容さについて

 イスラームと聞くと、その暴力性がしばしば取り沙汰され、危険な宗教だというイメージが付きまとう。それは2001年に起きたアメリカ同時多発テロ以降のハンチントンの「文明の衝突」論に顕著に表れているところだろう。最近でもフランスで表現の自由を謳ってイスラームの使徒たるムハンマドのカリカチュアをツイッターに投稿した男性教諭がムスリムの青年によって刺殺された事件が記憶に新しいだろう。そしてこうしたイスラー

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『チッソは私であった』:文明批判の視点と倫理

『チッソは私であった』:文明批判の視点と倫理

 2020年12月、河出文庫から緒方正人『チッソは私であった:水俣病の思想』が刊行された。もともとは2001年にローカルの出版社である葦書房から刊行されたもので、ながらく絶版だったこともありとても手に入りづらく、この度の河出書房新社からの再販はとてもうれしい知らせだった。

 わたしは大学の社会運動に関する講義で緒方さんを知った。いかに上手に資源を動員して、政治的目的を達するかが主眼になる社会運動

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風景はどこにあるのか?

風景はどこにあるのか?

 風景はどこにあるのだろうか。この問い自体、極めて現代的な意識によって初めて可能になるものだろう。そういう意味ではこの問い自体が既にして答えを内包しており、立論は不適切なことのようにも思われる。しかし私はあえてこの問いを発しよう。世界の美しさのために。
 風景はかつて存在しなかった。風景は近代において初めて発見された、わたしの内面において。そしてついには再び見失われてしまう。それに気づいているかは

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