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Book Review

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国内外のミステリーなどエンターテイメントを中心に読んでいます。自分の読書記録も兼ねて内容や感想を書き連ねています
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『成瀬は信じた道をいく』

『成瀬は信じた道をいく』

前作『成瀬は天下を取りにいく』を読み終えて、すぐに本屋へ直行した。「成瀬」は中毒になる。もともと、気に入れば同じ作家の作品を読み続けるたちだが、今回は明らかに成瀬の先行きを案ずる保護者のような気分でこの続編を買い求めた。

さて、大学生になった成瀬あかりは相変わらず我が道を進む。大学は京都大学に通っているものの、受験以外では京都のエピソードは出て来ず、物語の中心はあくまで滋賀県、大津、膳所である。

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『成瀬は天下を取りに行く』

『成瀬は天下を取りに行く』

宮島未奈著『成瀬は天下を取りにいく』を読んだ。タイトルからして前々から気になっていた本で、本屋で最初の短編の冒頭を立ち読みして、「買おうかな」と迷っていたが、昨日「本屋大賞受賞!」の帯を見て、ついに購入した。

滋賀県大津市の西武大津店が閉店するというニュースが地域の人たちに波紋を投げかける。西武デパートに思い入れのある地域住民のひとり、中学生の成瀬あかりは同じマンションに住む幼馴染に「島崎、わた

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万城目学 直木賞『八月の御所グラウンド』

万城目学 直木賞『八月の御所グラウンド』

ついに万城目学が直木賞を受賞した。『鹿男あをによし』で初めてノミネートされてから16年半での受賞だ。今回で候補にあがるのが6回目。これまで、賞にもれる度に、残念に思ってきた。実は、私はデビュー作『鴨川ホルモー』以来ほぼ全作品を読み、映画やドラマも全て見てきた筋金入りの「万城目学フリーク」だ。ということで、直木賞受賞の報道を見て、自分のことのように心底嬉しくなった。「やった!」と拳を突き上げたほどだ

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可燃物

可燃物

米澤穂信著、「可燃物」を読んだ。「このミス」、「週刊文春」、「このミステリが読みたい!」のそれぞれ1位の3冠に輝く作品だ。作者の作品を読むのは直木賞受賞作「黒牢城」以来。「黒牢城」の方は歴史ものの長編。それに対し、こちらは警察もので短編、と同じミステリーでも趣向が大きく異なる。ただ、無駄を削ぎ落としたような語り口調は相変わらず。「黒牢城」は長編ながら、とても引き締まったイメージを持っている。短編な

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歌われなかった海賊へ

歌われなかった海賊へ

逢坂冬馬の「歌われなかった海賊へ」を読んだ。「同志少女よ、敵を撃て」を読み、面白かったので期待して読んでみた。「同志少女よ」は題名と書籍の表紙の絵で内容が推察出来たが、今回は全く見当がつかない。「同志少女よ」は第2次大戦のソ連の話だが、今作も同じく大戦中のドイツでの話だ。でも、「海賊」もそうだが「歌われなかった」もすぐには意味が掴みにくい。

この物語はドイツ敗戦間近の小さな町で3人の若者が「エー

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八月の御所グラウンド

八月の御所グラウンド

万城目学著「八月の御所グラウンド」を読んだ。なかなか良かった、というのが感想だ。先日文庫化された「ヒトコブラクダ層戦争」や「あの子とQ」と較べても、その世界観を受け入れるのに要する労力があまりかからない。そして高校生や大学生という主人公が身近で、入っていきやすい。

この作品は「十二月の都大路上下(カケ)る」と「八月の御所グラウンド」の2篇からなる。共に京都を舞台に、前者は女子全国高校駅伝大会、後

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ハンティング・タイム

ハンティング・タイム

ジェフリー・ディーヴァーの「ハンティング・タイム」を読んだ。「懸賞金ハンター」コルター・ショウのシリーズ最新作だ。

今回ショウが探しだすのは、元夫のジョンの追跡を逃れようとする母アリソンと娘ハンナ。ジョンは以前は市警で表彰までされた優秀な刑事だったが、ストレスからアルコールに溺れ、妻のアリソンに暴力をふるって重傷を負わせ、服役となる。その後、模範囚として早期に釈放されるものの、逆恨みから「元妻を

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爆弾

爆弾

呉勝浩著「爆弾」を読んだ。このミス1位(国内作品)に輝く作品だ。最近翻訳ミステリーを2作続けて読んだせいか、物凄く読みやすく感じた。もちろんその海外の2作品は面白かったのだけど、いくら素晴らしい翻訳だとしても文化や地理や自然の違いといった壁は残る。頭の中で情景をイメージするのにひと手間かかると言った方がいいかもしれない。

さてこの作品、酒店でちょっとした騒ぎを起こしたスズキタゴサクを名乗る男が、

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われら闇より天を見る

われら闇より天を見る

クリス・ウィタカー著、鈴木恵訳「われら闇より天を見る」(WE BEGIN AT THE END)を読んだ。「このミス」を始めとする日本のミステリー賞3冠に輝く作品だ。

ストーリーを簡潔にまとめるのは正直難しい。海岸沿いの小さな街ケープ・ヘイブンの警察署長ウォーカーは30年ぶりに出所する幼い頃からの親友ヴィンセントを出迎える。ヴィンセントは15歳で恋人の妹を誤って車で跳ね殺し服役していたが、その最

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ザリガニの鳴くところ

ザリガニの鳴くところ

ディーリア・オーエンズ著、友廣純訳「ザリガニの鳴くところ」を読んだ。2021年本屋大賞翻訳小説部門第1位、昨年11月には映画が公開された作品だ。タイトルがちょっと変わっていて「そもそもザリガニは鳴くのか?」という疑問が湧いてくる。調べてみると、声は出さないが「ジジジ」と音を立てるらしい。原題は”WHERE THE CRAWDADS SING”なので、文字通りの訳だ。

「ザリガニの鳴くところ」とは

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あの子とQ

あの子とQ

万城目学著「彼女とQ」を読んだ。「ヒトコブラクダ層ぜっと」以来の作品となる。

万城目ワールド

「鴨川ホルモー」からほぼ全作品を読んでいるが、万城目学といえば、毎度毎度その独特の世界が楽しい。しばしの間の異世界に浸ることができる。この類の本は、ディテールにこだわって、とことんその世界を作り込んでもらえると、荒唐無稽な話でも、こちらも入って行きやすい。そんな観点から、万城目学の代表作は「鹿男あをに

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本を読んで思い出した映画 〜 「同志少女よ敵を撃て」と「スターリングラード」

本を読んで思い出した映画 〜 「同志少女よ敵を撃て」と「スターリングラード」

アガサクリスティー賞受賞作品「同志少女よ敵を撃て」

逢坂冬馬の「同志少女よ敵を撃て」を読んだ。アガサクリスティー賞受賞作のベストセラーで内容を半分位は想像できてしまう変わったタイトルの作品だ。時は第2次大戦、主人公セラフィマの故郷の村に侵入してきたドイツ軍は略奪を尽くし、村人全員をパルチザン呼ばわりをして虐殺する。たまたま狩猟に出かけていたセラフィマ母娘は帰路その光景を目の当たりにする。物陰から

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