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書籍あれこれ

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小説と漫画とかについてのあれこれです。
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#ミステリ

【小説】人間冒涜ミステリのすすめ:物理篇

【小説】人間冒涜ミステリのすすめ:物理篇

 筋骨の林と肉血の海辺の隙間より、どうも皆さまごきげんよう。今日も元気に人間を冒涜してますか? 精神を論理に解体し、肉を資材に変換してますか? 2月は果てなき冒涜の季節。機運はこの上なく高まり、2月7日に頂点を迎えました。すなわち、全土3億個の人間冒涜者が待ち望んだ、門前典之の五年ぶりの新刊、『エンデンジャード・トリック』の発売によって。皆さまは当然もう読まれたことでしょう。私はまだ書店と自宅を隔

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【小説】好き好き平面図:斜傾編

【小説】好き好き平面図:斜傾編

 そんなわけで番外編、斜傾編です。扱う作品は言うまでもなく『斜め屋敷の犯罪』ですね。なぜ番外編かというと本作についているのは平面図ではなく立体図だからですね。番外編とは言え、ここまで扱ったタイトルのなかでは最もビッグネーム。『獄門島』と並び、和製推理小説の最高傑作として挙げられることの多い作品のように思います。御手洗潔シリーズの二作目ですっけ? 先日もシリーズの新刊が出たようですが、御手洗と石岡の

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【小説】たまごクラブ・ひよこクラブ・インドクラブ

【小説】たまごクラブ・ひよこクラブ・インドクラブ

 タイトルに大きな意味はありません。そんなわけで『インド倶楽部の謎』を読んでるんですが、相変わらず火村と有栖川がいちゃいちゃしており、相々変わらず「火村は昔、人を殺そうと思ったことがあるから臨床犯罪学者やってるんや~」という五億回くらい聞いた説明が繰り返されており、相々々変わらずの大変楽しくほっと安心する読書であり、『文字渦』の合間に挟むライトカロリー喉腰さっぱりな読み心地はまさにラーメン食ってる

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【小説】世界の終わりの含有量

【小説】世界の終わりの含有量

 メフィストの掌の中で講談社ノベルスをゆりかごにして育った私の魂には、いわゆるあの手の作品の匂いが染みついてしまっており、今でも「あの感じ」を含んだ作品を読むと反射的に血液の濃度が上がり脳がふわっと浮いてしまう心地になるのです。あの手あの感じと具体性に欠けた表現をしているのは、私がそれらをうまく言葉にできないからで、しかしそれに既存の言葉を当てはめるのならば、それはやはり「新青春エンタ」ということ

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【ゲーム】大逆転裁判2クリアしたよ

【ゲーム】大逆転裁判2クリアしたよ

 大逆転裁判2クリアしました。超おもしろかったです。推理ものとしては逆転裁判2に一歩劣る印象がありますが、エンターテイメントな楽しさとしてはシリーズ随一ではないでしょうか。個人的な好みとしては、逆転検事2>大逆転裁判1・2>ゴーストトリック>逆転裁判2>逆転裁判3>逆転検事>逆転裁判って感じです。遊んでてめちゃくちゃ盛り上がる。2タイトル分使って超大作の長編をやろうという心意気にしびれますし、その

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【ゲーム】大逆転裁判クリアしたよ

【ゲーム】大逆転裁判クリアしたよ

 大逆転裁判クリアしました。話、全然終わってねーじゃねーか! 事実上の前編ですねこれは。第四話のエピローグでホームズが「ロンドンへようこそ」とか序章終了みたいな台詞言ってたのを見て、おいおいあと一話しかないのにようこそも何もないだろ……と思ってはいたんですがそういうことか。ナンバリングよりも前編、後編と銘打った方がよかったのでは? なんかお商売的にそれでは売りにくかったんですかね……。以下、各話ご

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【小説】好き好き平面図:屍材編

【小説】好き好き平面図:屍材編

 そんなわけで屍材編です。屍材とは資材の誤記ではないのか? 誤記ではありません。今回の題材は門前典之先生の『建築屍材』という作品なのですから。前々回の『暗黒館の殺人』、前回の『ディスコ探偵水曜日』と比べるとマイナーな作品となりますが、平面図へのこだわりという点に関して、私はこれ以上の作品を知りません。同作者の『屍の命題』は和製バカミス(推理小説的仕掛けのトンデモさが過剰すぎて「バカ」の領域に達して

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【小説】ミステリ100、2018夏

【小説】ミステリ100、2018夏

 あまりにも暑く思考能力が低下しているので、脳内の整理をすることで避暑を試みる。脳内を整理するには、好きなものを100個選出し自己を単純化するのが一番だ。ゲームはそれほどやっておらず、アニメにも疎いので、ここは映画か漫画か小説ということになる。小説がいいだろう。しかし、小説というくくりでは広すぎるのでミステリに限るものとする。ミステリなのでニンジャスレイヤーは入らな……いや、ニンジャスレイヤーもミ

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【小説】開幕でいきなり人が死なない

【小説】開幕でいきなり人が死なない

 皆さまならば当然、既に先日発売された『碆霊の如き祀るもの』を読み終えたことだと思います。私は恥ずかしながら今朝ようやく読み始めることができました。いや~それにしても相変わらず全然人が死なねえな「のきもの」シリーズは! 単行本で150頁読んでも殺人事件が起きない!なんか主人公がのんびり山歩きをしている……。 そもそも、冒頭120頁で、シリーズキャラクターを一切出さず、四つの怪談をしっとりゆったり語

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【小説】大乱闘!ロンドンミステリオカルトブラザーズ

【小説】大乱闘!ロンドンミステリオカルトブラザーズ

 全てのぼんくら小説好きにアンデッドガール・マーダーファルス2をおすすめしたいという衝動に駆られて、私は今キーボードを叩いています。アンデッドガール・マーダーファルス2とは何か? 小説です。シリーズものなの? はい、タイトルの通り第二作です。どんなシリーズなの?「怪物専門の探偵」率いる三人組が、吸血鬼や人造人間のいる世界で殺人事件の謎を解くという、いわゆる特殊設定ミステリ(現実離れした設定の下で、

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【小説】好き好き平面図:暗黒編

【小説】好き好き平面図:暗黒編

 ミステリには事件の舞台となった建物の平面図をのせるという謎の慣習があるのです(のってないことも多いけど)。一部のミステリファンはその平面図が出ただけで、興奮状態になり恍惚の表情を浮かべる習性を持っており、まあ私の習性なのですが、そんな自分が今まで読んだミステリの中で特に好きな平面図は何かなあと考えたところ四つほど思いついたのでnoteに出力しておこうと思います。第一回の今回は『暗黒館の殺人』とい

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【小説】密室? ああ、そんなのあったよね

【小説】密室? ああ、そんなのあったよね

 前回までのあらすじ。Gシリーズを読み「なんだこのキャラクター商売重点な鼻くそほじりながら書いたみたいなライトミステリは~!森博嗣がポップスに成り下がるなんてこの世の終わりだぜ~!」と嘆いていた愚かなる私は、再読の末そこに秘められた先進性とチャレンジ精神、一作ごとに深化してゆくアンチミステリとしての凄味に気がつき許しを乞うて土下座した。あれから2年。ひょっとしてGシリーズとなんか一緒に出てたやつと

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【小説】おかしなはやすぎる二人

【小説】おかしなはやすぎる二人

 2017年から2018年にかけて岡嶋二人の小説全作をまとめて読むというすばらしく楽しいキャンペーンを自分の中で開催していたのですが、これが大変戦慄する体験となりました。おもしろいとかつまらないとかじゃないんです。いや、大変おもしろいんですけども、サスペンスものとしては日本最高峰と言っていいほどおもしろいんですけども、それを脇に置いてしまうほどにとにかく凄まじいことがありまして、それは異常なほどの

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【小説】ヴァンスのクソ野郎この野郎

【小説】ヴァンスのクソ野郎この野郎

 私はたぶんミステリファンに分類できる人間だと思うのですが、メフィスト賞全盛期の講談社ノベルスの血肉を啜り青春の糧としてきた人間なので海外古典ものはさっぱり読めておらず、ここ数年まあチャレンジしてみるかとクイーンとかカーとか読んでみたりしており、これがまあめちゃくちゃおもしろい。キャラクター小説として超一流だし、現代のスピード感では不可能なリズムには新鮮さがあるし、何より扱われている内容が全く古び

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