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こたぬきたぬきち、町へゆく【最終回】(才の祭小説賞応募)
前書き
これだけ読んでも大丈夫。
読んでみて気に入ったらマガジンを開いて、①〜⑥もどうぞ。
クリスマスのラブストーリーを募集しているnote投稿企画「才の祭」に、まさかのシリーズ最終回を応募する。
添付のあらすじを参考に、最終話だけを審査の対象としてください。
ぼくは『こたぬきたぬきち町へゆく』という童話風短編小説を発表するために、今年の初夏からnoteを始めた。
レスポンスがなければ他の投稿サイトで活動するつもりだったが、運良く初期から読んでくれる人たちと繋がった。
この『たぬきち』シリーズは基本一話一分、ワンスクロールで読める設計。
①〜⑦話をマガジンにて公開中。
夏の俳句大会以降、連載は休止していた。
今日まで約半年間、休眠状態であった。
これを再始動させたい。
主人公たぬきちくんを、完結へと導くのだ。
こうして書くきっかけを与えてくれたみなさんに、感謝しています。
さすがに今宵はワンスクロールで終わる長さには収まらないことを、ご了承ください。
こちらが企画の総合案内。
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みんなの聖夜に捧げる
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こたぬきたぬきち、町へゆく
①〜⑥のあらすじ
たぬきちは化けたぬきの子です。生まれてはじめて変化の術に成功して、ちょっとおしゃれな少年に化けました。
山から町へ。
父さんたぬきから教えられた、すごく楽しいところらしい「映画館」を目指します。
芋畑のおばあさんに、バス停までの道を教わり。
バスの運転手さんに、バスでのお金の使い方を教わり。
到着した町では、ヤンキーのお兄さんに映画館まで連れて行ってもらいました。
妖術で葉っぱをお金に変えられることは、このお話を読む人たちだけが知る秘密です。
たぬきちは、通貨偽造が罪に触れることを知っているのか。物語ではまだ分かりません。
色々な人から親切にされながら、色々な人を裏切ってきた、こたぬきたぬきちなのです。
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⑦(最終回)
こたぬきたぬきち、恋をする
たぬきちは、憧れの映画館へ辿り着きました。
入り口の案内パネルは、山で見てきたどんなものよりも、強くかがやいています。その中で、人間や景色やよく分からないものがはげしく動き回りながら、大きな音を出しています。
上映中のタイトルはほとんど英字と漢字。
まだひらがなとカタカナしか読めないたぬきちは、少し悲しい気持ちを味わいました。
でもくじけたりなんかしません。
(ちゃんと聞けば、きっとみんな何でも教えてくれるはずなんだ)
ここへ来るまでに、たぬきちは人間が人間に優しいことをちゃんと学んでいます。
そして正体はどうであれ、今の自分は立派な人間の男の子の姿なのです。
チケット売り場で、堂々と訊ねました。
「このクリスマスの何とかって映画、面白いんですか?」
チケットは、もちろん葉っぱの偽札で買いました。売店で、コーラとポップコーンもゲットです。コーラの紙コップは、かわいいサンタさんのイラスト付きでした。
館内の通路は広々としていますが、人間が多すぎて前へ進むのに一苦労。
せっかく買ったコーラをこぼさないように。ポップコーンも落とさないように。
おっちょこちょいなので、要注意です。
すぐ前には、幸せそうに笑っている親子らしい人たちが手をつないでいました。
ひとりぽっちのたぬきちとしては、ちょっと孤独を感じます。
(変化の術を使えるようになったなら、人間の町にある映画館というところへ行ってみるといい。すごく楽しいところだから)
それがたぬきちのお父さん、ポン太の最後の教えでした。
ポン太はずいぶん前に、たぬきちを置いて旅に出たまま、山に帰ってこないのです。
たぬきちは、恋しいはずのポン太父さんの顔を、もううまく思い出せません。
もともと、物覚えが苦手なところもあり。
ちょっとした孤独も、すぐに忘れます。
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入場すると、圧倒的な大スクリーンが待っていました。座席は山の葉っぱの布団よりも、ふかふかです。
(わーい。とうとうここまでぼくは来たぞ。夢にまでみた、映画がはじまるんだ)
しかししかし。
突如、映画なんかよりもずっとドキドキするハプニングが発生しました。
隣の席に、はっとするほどきれいな女の子がやって来たのです。
人間に変化しているたぬきちの姿と、同じ年頃。
不思議ないい匂いのする女の子です。
思わずポップコーンをひとつ取り落とす、たぬきち。
上映開始を報せるブザー音と同時に、暗くなる場内。
あれほど楽しみにしていた映画より、たぬきちは隣の女の子に興味深々です。
(この子もひとりぽっちみたいだな。なんて言う名前だろう。どんな食べ物が好きなんだろう。どうしてこんなにいい匂いがするんだろう)
スクリーンに、まったく集中できません。
(よし。決めたぞ。この映画が終わって明るくなったら、ぼくはこの子に声をかけよう。もし良かったらこれからちょっとお喋りしませんか。そんな風に言ってみよう)
映画は気が付くと終幕していました。
何が何だかわからないうちに、再び明るくなる場内。あらためて隣を見ると、特別に思える女の子のきらきらした目。
(よおし。話しかけるぞ!話しかけるぞ!)
「ねえ」
たぬきちは、今日一番おどろきました。
自分が声を出そうとしたのに、彼女から話しかけてきたのです。
人から声をかけられるのは、 これが人生ではじめてのことでした。
「君って、もしかしてたぬきなんじゃないの?」
たぬきちは、コーラを落としました。
𓂃𓂂🍃
「ど·····どうしてわかったの?」
「やっぱり。匂いがたぬきだもの。すぐわかった。ばればれだよ」
たぬきちはショックを隠しきれませんでした。人間に正体がばれたとあっては、もう町に居場所なんかないのです。
化けたぬきは昔から、嫌われものです。
「ぼく、そんなつもりじゃなかったんだよ」
たぬきちは。
たぬきちは、これから警察を呼ばれて、やって来るお巡りさんに手錠をかけられ、留置場へ連行されるのだと思いました。
(お、終わりだ。冷たい牢屋の中に入れられて、もう二度と山へも帰れないんだ。きっと一生ムショ暮しに·····)
「ああ、安心して。私もだから」
「え?」
「私も、たぬきなんだよ」
「うそ?!」
「きみ、変化の術の初心者でしょ。駄目だよ。それは、仕上げにたぬき用の香水を使わなきゃ。すぐ人間にも見抜かれちゃうよ」
「香水なんか持ってない」
「私、みどりっていうの。これから君の香水を買いに行きましょ。近くにたぬきストアがあるの。連れてってあげる」
「ぼく、たぬきち。ねえ、みどり。これって逆ナンっていうやつ?」
「どうでもいいじゃないの。人間じゃあるまいし。それよりたぬきちって名前、すごいね。たぬきらしすぎるよね」
男の子と女の子に化けたたぬきたち、たぬきちとみどりは、こうして二匹仲良く香水を買いにゆくこととなりました。
𓂃𓂂🍃
映画館を出ると、もう夜です。
クリスマスソングが聴こえます。
たぬきストアまでの道途中では、たくさんの恋人たちとすれ違いました。
お店につくと、みどりが本物のお金でたぬきちのための香水を買ってくれました。
たぬきちが「いいよいいよ」と言うのに、みどりは「いいからいいから」と言って、さっさと支払いを済ませてしまいました。
「たぬきち、メリークリスマス」
「やっぱりこういうの、逆ナンっていうんだよ」
「たぬきち、寒いから手をつなごう」
「みどり、もしかしたらさあ。今日ぼくに優しくしてくれた人たちって、実はみんなたぬきだったのかもしれないねえ」
「なはは、あんがいそうかも」
たぬきちはみどりの笑顔をまあるい気持ちでながめながら、(ぼくもこれからは本物のお金を使う化けたぬきになろうかな)と思いました。
(本物のお金で、ぼくからも何か買ってあげられたらいいなあ。ああ。そのためにはどこかでアルバイトでもしなきゃなあ)
まあるい気持ちで色々と考えながら。
たぬきちは生まれてはじめて、自分のからだに香水を「しゅっ」と吹き付けましたとさ。
おしまい🐾
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