銀河フェニックス物語<出会い編> 第二十五話(4) 正しい出張帰りの過ごし方
・第一話のスタート版
・第二十五話(1)(2)(3)
・第二十五話 まとめ読み版
「ご、ごめん」
慌てて手を離そうとしたわたしの手を、レイターが握り返す。
「エースに感謝するぜ」
と笑顔でウインクした。
この人は、わたしに限らず、女の人にはいつもこんな調子だ。『愛しの君』という好きな人がいるくせに。
温かくて大きな手。急に心臓がドキドキしてきた。
レースが緊迫したせいで、心拍数が上がったせいだ。
「厄病神がうつるから手を離してください」
そう言って、レイターの手をふりほどいた。
*
レースは続いていた。
「ああああぁ、バカかよ!」
レイターががっくりと肩を落とした。
「残念だわ」
サブリナもため息を付いた。二人が応援するチーム・スチュワートの船は、コースを大きく外れて棄権となった。
「ふふふふふ」
笑っているのはわたしだけ。
エースは優勝し、無敗の記録を更新した。
「エース・ギリアムは無敵。最高だわ!」
「うるせぇ、うるせぇったらうるせぇ!」
レイターが首を左右に振った。
*
レースが終わると、ジョン先輩がレイターにたずねた。
「なあレイター、ロルダ理論はS1機に使えると思うかい?」
「うーん、現時点じゃ厳しいよな。と、あんたも思ってんだろ」
レイターとジョン先輩は、床にタブレットぺーパーを置いて難しい計算を始めた。
宇宙船お宅と研究者、議論をするのはしょっちゅうだ。
わたしとサブリナはソファーに座り、そんな二人の様子を見ていた。
サブリナがわたしに声をかけた。
「やっぱり、セントクーリエ出身の人は違いますね」
セントクーリエは超難関有名私立校。
ジョン先輩のような研究者のほか、政治家、高級官僚、企業トップといったエリートを生み出す学校で、権威あるキンドレール賞の受賞者を一番多く輩出している。
わたしは納得した。
「ジョン先輩はセントクーリエ出身なのね。頭いいはずだわ」
「レイターさんもですよ」
ん? サブリナは勘違いしている。
耳元でこっそり訂正した。
「レイターは公立ハイスクール中退よ」
「え?」
驚いたサブリナが、話に夢中になっているジョン先輩の服を引っ張った。
「ねえ、ジョン。レイターさんもセントクーリエの一緒の寮にいたんでしょ」
「ああ、そうだよ」
今度は、わたしが驚いた。聞いていた話と違う。
「レイターは、月の公立ハイスクール中退、って言ってたじゃない?」
「あん? そうだぜ」
ジョン先輩が説明した。
「レイターはセントクーリエに入学して、そのあと、公立ハイスクールへ転校したんだよ」
サブリナがわたしに笑顔を見せた。
「納得できましたね」
全然、納得できない。
セントクーリエの入試、と言えばとにかく難しいことで有名で、わたしの地元アンタレスでは合格するだけでニュースになる。
授業についていけなくなって公立学校へ転校、というケースはありそうだ、考えられるのは。
「将軍家のコネで裏口入学・・・」
つぶやくわたしの頭を、レイターが軽くこづいた。
「会社じゃねぇんだ。ちゃんと試験受けて受かったんだよ」
「ええっ?!」
びっくりして声が出せない。
そして、思い出した。
前にレイターがセントクーリエのバスケ部にいた、と話していたことを。
「レイターって、ほんとにセントクーリエのバスケ部にいたの?」
(5)へ続く
・第一話からの連載をまとめたマガジン
・イラスト集のマガジン
ティリー「サポートしていただけたらうれしいです」 レイター「船を維持するにゃ、カネがかかるんだよな」 ティリー「フェニックス号のためじゃないです。この世界を維持するためです」 レイター「なんか、すげぇな……」