銀河フェニックス物語 <恋愛編> 第二話(2) 麻薬王の摘発
レイターとアディブ先輩の出張先で麻薬王が逮捕され銃撃戦が起きていた。
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・<恋愛編>第二話「麻薬王の摘発」まとめ読み版 (1)
「アディブ先輩って、かっこいいよね。レイターは女好きだから、ティリーは二人の出張、妬けるでしょ」
ベルの言葉にざわつく。
「何、バカなこと言ってるのよ」
と口では言いながら、不安がよぎった。
アディブ先輩は、仕事もできて憧れの先輩だ。
そして、レイターにとって、アディブ先輩はほかの不特定多数の女性とはどこか違うのだ。二人の醸し出す雰囲気からは、ボディガードと警護対象者という仕事のつきあい以上のものを感じる。
過去にわたしは、アディブ先輩がレイターの『愛しの君』じゃないかと疑った程だ。
二人は同期入社だった。
わたしの知らないレイターをアディブ先輩は知っている。ベルが言う通りわたしは妬いているのだろうか。
「私、午後の打ち合わせがあるから、先に行くね」
チャムールがそそくさと席を立った。
わたしはその様子が気になった。どこか変だ。
チャムールは今回の麻薬王の摘発を知っていたんじゃないだろうか。ニュースが始まった瞬間に彼女は反応し、その後は、一言もしゃべらなかった。
どう考えても、麻薬王の潜伏先の向かいがうちの取引先だなんて、偶然にしてはおかしすぎる。レギ星だって広いのだ。
ニュースで見た銃撃戦が頭に浮かぶ。
レイターの特命諜報部の任務に、アディブ先輩が巻き込まれたんじゃないだろうか。
実はレイターは、麻薬王を逮捕するためにアジトへ突入したんじゃないだろうか。
危険なことをしていたんじゃないだろうか。と、どんどん妄想が広がり、心配になってきた。
連邦軍将軍家のアーサーさんを彼氏に持つチャムールは、わたしたちに話せない情報を持っているに違いない。
チャムールから話を聞きたいけれど、レイターが軍の特命諜報部員だということはベルにも言えない秘密だ。会社で話すわけにはいかない。
*
その日の午後には、アディブ先輩の出張が麻薬王の摘発で延びたことは、社内に知れ渡った。また『厄病神』のせい、と噂になっていた。
それでもさすがアディブ先輩だ、契約はきっちり完了した。
医大を卒業したというアディブ先輩は頭脳明晰で仕事ができる。容姿端麗で性格もいい。才色兼備とはこのことだ。
落ち着かない。わたしは知っている。レイターは頭のいい、聡明な女性が好きなのだ。
わたしは当てはまらないけれど、前の彼女のフローラさんがそうだった。気持ちが塞ぐ。
*
家に帰ってから急いでチャムールに通信を入れた。
「ねえ、チャムール、教えて。きょうの麻薬王の逮捕に特命諜報部って絡んでるの?」
「さあ、どうなのかしら?」
「チャムールは、知ってるんでしょ」
「知らないわよ。ごめんね、ティリー、私、忙しくて。仕事を持ち帰ってきたから、作業を進めたいの」
何だかチャムールがよそよそしい。
忙しいのは嘘じゃないのだろうけれど、わたしと話がしたくない、っていう雰囲気が伝わってくる。こんなことは初めてだ。
「ごめん、切るね」
チャムールなら絶対レイターの秘密の任務のことを知っている、と思ったのに……
*
そして、予定より二日遅れてフェニックス号は、レギ星の出張から帰ってきた。
夕方、わたしは仕事を早く終えると、社内の駐機場までフェニックス号の迎えに行った。
「まだじゃぞ。彼氏の到着時間より三十分も早いわい」
配船係のメルネさんに笑われた。
でも、レイターが早く帰ってくる気がした。メルネさんが航路モニターをチェックする。
「おっ、レイターの奴、途中で速度違反しおったな。あと五分でフェニックス号は到着するわい」
交通法規は守ってほしいのだけれど、早めに来ておいてよかった。 (3)へ続く
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ティリー「サポートしていただけたらうれしいです」 レイター「船を維持するにゃ、カネがかかるんだよな」 ティリー「フェニックス号のためじゃないです。この世界を維持するためです」 レイター「なんか、すげぇな……」