銀河フェニックス物語<恋愛編> 第二話(1) 麻薬王の摘発
ティリーとレイターがつきあうことになった<恋愛編>の第二話です
・銀河フェニックス物語 総目次
・<恋愛編>第一話「居酒屋の哲学談義」
不特定多数の女性が大好き、というレイターから
「ティリーさんを特定したんだ。俺の彼女って」なんてことを言われると、顔がにやついてしまうのだけれど、彼は相変わらず女性とみれば誰にでも愛想のいいことを言っている。
いちいち目くじらを立てるのも馬鹿らしい。
でも、時には気になることもある。
*
同期のベルとチャムールと一緒に、三人で社員食堂でランチをとっていた時のことだった。
「たった今入ってきたニュースです。麻薬王のガルキメデスが逮捕されました」
壁にかかっている食堂のテレビが、けたたましいチャイム音とともにニュース速報を伝え始めた。向かいの席のチャムールがチラリとモニターを気にした。
わたしも何の気なしにニュースを見る。
麻薬王のガルキメデス。
星系をまたいで暗躍する麻薬コンツェルンの首領で、逃亡生活をしているという話だった。ようやく逮捕されたんだ。
戦闘服に身を固めた警察官がビルに突入していく。街の中で派手な撃ち合いをしている映像が流れていた。
「麻薬王が潜伏中のところを銀河警察の特殊部隊が突入し、銃撃戦の末、ガルキメデス容疑者の身柄を確保したとのことです。レギ星の現場では多数の死傷者がでているもようです」
え? わたしは驚いてモニターをじっと見つめた。隣のベルも気が付いた。
「ティリー、レギ星って、今レイターがアディブ先輩と出張中じゃん」
ベルの言う通り、レイターは三日前からレギ星へ出かけている。隣の法人営業課のアディブ先輩と一緒に。
「厄病神が発動してるんじゃないの?」
「レイターに連絡入れてみるわ」
わたしは、あわてて腕につけた携帯通信機の画面をタッチした。
麻薬王の逮捕。これって、もしかしたら銀河連邦軍の特命諜報部案件でレイターが関わっているかもしれない。連絡を入れたら迷惑だろうか。いや、そんなことを言っている場合じゃない。
二人が巻き込まれていないか心配だ。
緊張しながら通信音を聞く。
「はぁい、ティリーさんどうしたんでぃ。慌てた顔して」
レイターの陽気な姿がポップアップした受像機に映った。よかった。無事だ。
「レイターは大丈夫なの?」
「あん? 俺がいなくて寂しくなっちゃったかい?」
隣のベルがカメラの前に顔を近づけてフレームインしてきた。
「今さあ、レギ星で麻薬王が逮捕された、ってニュース、こっちでやってんのよ。厄病神がアディブ先輩に迷惑かけてるんじゃないか、って心配してたところ」
「うれしいなあ、ベルさん、俺の心配してくれて」
レイターが笑顔でおちゃらけた。とにかくレイターは女性なら誰にでも調子のいいことを言う。
「アディブ先輩の仕事は大丈夫なの?」
業務連絡のように聞いてみる。
「う~ん、微妙」
「微妙?」
「麻薬王の潜伏先がさあ、アディブさんの取引先企業の向かいのビルで、さっきまで警察がドンパチやってたんだ。だから、午前中の会議が途中で止まっちまって」
「え~っ?! 厄病神の発動じゃん」
ベルが大きな声を出す。
「ま、ガルキメデスが捕まったから、この後、お仕事再開するんだけど、バタバタしてて出張伸びそうなんだ。ティリーさんに会えるのが遅くなっちまうな。レギ星みやげ買ったから、楽しみに待っててくれよ」
「アディブ先輩はどうしてるの?」
通信機から落ち着いた女性の声がした。
「ティリー、心配してくれてありがとう。私なら大丈夫よ」
スーツ姿のアディブ先輩が映った。レイターの隣にいたんだ。
「世紀の大捕り物が見られたし、レイターが守ってくれたから」
先輩の言葉が引っかかる。レイターが守ってくれたって、何かあったのだろうか。
「おっと、アディブさん時間だぜ、じゃあな、ティリーさん。連絡ありがとよ、愛してるぜ」
「ティリー、ごめんなさい。許してちょうだいね」
「は、はい」
許すも何も仕事なのだ。帰りが遅くなるのは仕方がない。通信の映像が切れた。
二人の無事がわかった。
なのに、なぜだろう、気持ちが落ち着かなかった。 (2)へ続く
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