銀河フェニックス物語 <恋愛編> 第二話(3) 麻薬王の摘発
レギ星からレイターが帰ってくる。ティリーは時間より早く迎えに行った。
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・<恋愛編>第二話「麻薬王の摘発」まとめ読み版 (1)(2)
帰ってきたフェニックス号の前に立つとマザーがドアを開けてくれた。
操縦席、というか居間へ向かう。
話をするアディブ先輩とレイターの姿が見えた。
思わず足を止める。
まただ、レイターが普段見せない真面目な面持ちをしている。
船の話をしている時とも違う。わたしには見せない、アディブ先輩にだけ見せる表情。
せっかく久しぶりにレイターの顔を見たというのに、心が黒いペンキで塗りつぶされていく。
麻薬王、というワードが聞こえた。二人は今回の出張の話をしているだけだ。なのに、わたしったら、ひがんでいるんだ。どうせわたしは聡明じゃない。
「あら、ティリー、レイターのお迎えに来たのね。遅くなってごめんなさい」
アディブ先輩がわたしに気付いた。
「お帰りなさい。ご無事でよかったです」
「う~ん、そうね」
どうしたんだろう。歯切れが悪い。
「じゃ、レイター、いろいろとありがとう。私はお邪魔なようだから、これで失礼するわ」
「お邪魔だなんて、すみません」
わたしの顔に出ていたのだろうか。出ていたのだろうな。どす黒い感情が。
アディブ先輩が船を降りていった。
レイターと会うのは、一週間ぶりだ。もっと長く会っていない気がした。ずっと心配していたのだ。やっと二人きりになれた。
「お帰りなさい。会いたかった」
わたしはレイターに思いっきり抱きついた。
「っつつうう」
レイターが痛そうに顔をしかめた。
「ど、どうしたの?」
わたしはあわてて身体を離した。
「油断した。俺としたことが、この熱烈歓迎は想定してなかった」
「ケガしてるのね? どこをケガしたの?」
「ちっ、せっかく、アディブさんに黙っておいてもらったのに」
アディブ先輩の応対がどことなくぎこちなかったことを思い出す。口止めしたんだ。レイターは、ケガをわたしに隠すつもりだったんだ。
「大丈夫なの?」
「大した事ねぇよ。ちょっとドジって、レーザー弾がかすったんだ」
袖をまくるときれいに右腕に包帯が巻いてあった。これはかすり傷じゃない。わたしったら、この上から力を込めて触ってしまったんだ。
「痛む?」
「平気平気、アディブさんがすぐに手当してくれたから」
アディブ先輩は医師免許を持っている。
レイターの腕に包帯を巻く先輩の姿が頭に浮かぶ。
レイターを治療してくれたのだ。アディブ先輩に感謝しなくてはいけない。
なのに……イライラがさらに募ってきた。
「ティリーさん、何て顔してんだよ。折角の再会だぜ」
「突入したの?」
詰問のような口調になる。
「あん? 突入?」
「麻薬王のアジトに」
「しねぇよ。突入したのは銀河警察さ。ニュースでやってただろ」
「じゃあ、どうしてこんなケガするのよ!」
もう自分が抑えられない。
「目の前でドンパチやってんだ、流れ弾も飛んでくるさ。俺は死んでもアディブさんを守んなきゃなんねぇし」
レイターはアディブ先輩をかばってケガをしたんだ。仕事なのだ。仕方がない。けれど、鼻の奥がツンとして、涙が出てきた。これは、悔し涙だ。
「死んでも守る、なんて言わないで!」
レイターが本当に死んでいたら、わたしはアディブ先輩を恨まずにいられない。
レイターの仕事は死と隣り合わせだ。わかっているのに、わたし以外の女性をかばってレイターがケガしたことが許せない。そして、それを隠そうとしたことも。
いや、わたしがこうやって怒るからレイターは隠すんだ。
わたしは心が狭すぎる。 (4)へ続く
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ティリー「サポートしていただけたらうれしいです」 レイター「船を維持するにゃ、カネがかかるんだよな」 ティリー「フェニックス号のためじゃないです。この世界を維持するためです」 レイター「なんか、すげぇな……」