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銀河フェニックス物語<出会い編> 第四十話(8) さよならは別れの言葉

ティリーはレイターと連絡を取るようエース専務から指示された。
銀河フェニックス物語 総目次
第四十話(1)(2)(3)(4)(5)(6)(7

「失礼します」
 エースの部屋を出て、入り口脇にある自分の机に座った。

 これは専務からの業務命令だ。
 わたしはレイターに連絡を取らなくてはならない。

 どうしよう、とにかくフェニックス号に架けるしかない。
 多分レイター本人は出ない。そうしたらホストコンピューターのマザーに頼み込むしかない。

 それにしてもレイターがうちのS1機に乗る? そんなことは無いというのがわたしの直感。
 だけど、契約金次第ではあるかもしれない。

 通信機を前に自分の心が弾んでいるのを感じた。
 フェニックス号の通信番号をタッチする。

「はい、フェニックス号です」
 予想通りだ。レイターではなくマザーが出た。

「ティリーです。レイターと連絡を取りたいのですが」
「レイターとは現在、連絡が取れません」
 マザーが即座に答えた。嘘だ。直感でそう思った。

「そこにいるんでしょ、レイター。居留守使わないで出なさいよ!」

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 気がつくと通信機に向かって大声を出していた。
 これは仕事なのだ。やらなくてはいけないのだ。仕事という大義名分がこれほどうれしいことはなかった。

 これでレイターと話ができる。
「仕事の話なの。どうしてもあなたに伝えたいことがあるのっ」

 わたしはモニターを凝視した。
 たとえレイターがいなかったとしても嫌がらせのようにこのままずっと通信回線を繋ぎっぱなしにしておこう。

 と、画面に人影が映った。
「ったく、俺は『いない』っつってんのに、お袋さん、何でばれたんだ?」

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 出た。
 寝起きといった顔のレイター本人だ。ソファーで寝ていたのか、いつも以上に髪の毛がはねている。
 心の中で思わずガッツポーズをした。やっぱりフェニックス号にいたのだ。

 つい調子に乗って、
「あなたのことは何だってわかるのよ!」
 と言ってしまった。

 レイターがにやりと笑った。
「そんなにティリーさんが、俺のこと愛してくれてたとは」
「ち、違うわ。あなたの悪巧みはお見通しってことよ」

「ま、いいや。大企業役員室の秘書様がビジネスのお話って言うんじゃ無視できねぇからな」
 仕事の話って言わなかったら出てこないつもりだったんだ。腹が立った。
「専務に変わります」

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 つっけんどんにわたしは通信回線をエースに転送した。

 エースとレイターの間で、どういう話がなされているのかわたしにはわからない。
 レイターの顔が見られてほっとした。
 少しだけ話をしたレイターの様子はいつもと変わったところがなかった。
 エースに負けて落ち込んでいるようでも無い。

 よかった。

 でも、もっと話がしたかった。
 レースの感想も伝えたかった。久しぶりにレイターの声を聞けてうれしかったのに、どうしてこうなっちゃうんだろう…。

 レイターとの通信を終えたエースが部屋から出てきた。
「ティリー、広報のコーデリアと詳細を詰めてくれ。後ほど記者会見を開く」
「は、はい」

 どういう結論になったのだろう。エースの顔を見つめた。
「レイターと契約交渉をする」
「え?」
 レイターがうちの船に乗るということ? 何だか信じられない。

 エースがにっこりと笑った。
「ただし、レイターはもうS1には乗らないそうだ」

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「は? 契約交渉を始めるという会見じゃないんですか?」

「そうだよ。レイターは我々に信じられない位バカ高い契約金をふっかけてきた。というか株式の無償譲渡だな。うちの会社が乗っ取られるくらいのね。それを表でやる」
「ということは…」
「当然交渉は決裂する」

 茶番だ。最大手メーカーのうちの会社が払えないものを他社が払えるわけがない。
「この会見で、S1プライムの替え玉もレイターとの過去の対戦も全てオープンにする。どれをとっても面白い記事になる。プラッタへの宣伝効果を考えると使途不明金を払っても安いものだ。今、情報ネットではレイターが乗ったハールやメガマンモスばかりが注目されているからね」

 エースの一言が気になった。
「使途不明金?」
 エースは答えなかったけれどわたしはピンときた。

 レイターが見返りの金銭を要求したということだ。ったくあの人は…。    (9)へ続く

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ティリー「サポートしていただけたらうれしいです」 レイター「船を維持するにゃ、カネがかかるんだよな」 ティリー「フェニックス号のためじゃないです。この世界を維持するためです」 レイター「なんか、すげぇな……」