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銀河フェニックス物語<出会い編> 第四十話(3) さよならは別れの言葉

エースとレイターの二機がもつれ込みながらゴールした。緊急サイレンが響き渡る。
銀河フェニックス物語 総目次
第四十話(1)(2

 ゴールを切ったハールに、消防艇が消火剤を吹きかける。
「レイター!」
 機体が白い泡に包まれていく。

 ピロロロロ……。
 順位の計測中を示す待機音がモニターを通して会場に響いた。

 コントロールタワーの横に設置された着順を掲示する大型ビジョンを見上げる。
 三着以下はすでに名前が掲載されている。上位二つの枠が空欄になっていた。

 これまで常にエースの名前が最上位に掲載されてきた。だから『無敗の貴公子』なのだ。

 更新を示すライトの点滅が速くなる。

n16ティリー横顔む見上げる逆

 ピット中が息を呑んで見つめる。
 いや、銀河中の人が見つめている。

 エースに有終の美を飾って欲しい人。
 エースが破られる瞬間を見たい人。
 人々の興味が『無敗の貴公子』をめぐる勝敗一点に絞られる。

『さあ、判定がでそうです。優勝はどっちだ?』

 誰も動かない、静まり返っている。

 知りたい、知りたくない。

 ピロロロロ……。
   ・
   ・
   ・

 ピーーーーーー。


 結果は出た。



 エース・ギリアム <クロノス> 1時間56分32,45

 一番上に輝いたのは、王者エースの名前。
『優勝は無敗の貴公子です。エース・ギリアム、ついに無敗を守り切りました』

 ヤッタァーー!!!!!
 クロノスのピットは、全員が立ち上がり、立っていた者は飛び上がった。

『二着がチーム・スチュワートの新人、レイターフェニックスです。スチュワートはこれが初めての表彰台です』

 いつも冷静な年配解説者が興奮している。
『すごい、すごい、すごい! すごいレースだ。こんなレースを目の前で見ることができるとは。無敗の貴公子の引退試合は、歴史に残るレースだ。スチュワートの健闘にも拍手を送りたい』

 レイター・フェニックス <スチュワート> 1時間56分32,46

 大型ビジョンにスロー映像が流れる。
 コンマ0.0一秒差でプラッタが先にゴールしていた。

 エースがウイニングランに入った。

正面前向き笑い

 レイターのハールは燃えなかった。
 白いホイップクリームに包まれたお菓子のようになっている。

 わたしは力が抜けて椅子に腰かけた。

 ゆっくりとハールは壊れていった。お菓子が割れるように、ペラペラの機体が、羽が、バラバラに分解し始めた。

 ゴールの場所は急遽変更され、後続の船は次々と第二ゲートへ誘導されていた。
 ゴール横では消火剤にまみれたハールの崩壊が続いている。
 スチュワートのスタッフも危険で近寄れないでいた。

『ハールは一回しかエネルギーチャージしていないから、もう燃料は残っていない。爆発の恐れはないよ』
 と解説者がコメントした。

 モニターに映るハールの残骸を見ながら、ジョン先輩がつぶやいた。
「船の限界を越えてたんだ。レイターはよく、ゴールまで持たせたもんだ」
 あのどこかにレイターがいる。生きている。胸が締め付けられる。

 レイターは、ハールの最後にお別れしている。

ピアノ@レーシングスーツ

 目には見えないけれど伝わってきた。  

 表彰式に準優勝のレイターの姿は無かった。

 船の後片づけが終わらないと言う説明だった。
 レイターの代理で四位に入ったチームメイトのコルバが表彰台に上った。

コルバ逆

『万年六位と呼ばれてきたコルバですが、きょうはいい飛ばしを見せました。今、入ってきた情報によりますと、レイター・フェニックスとは戦闘機乗り時代からの盟友とのことです』

 知らなかった。
 レイターがチーム・スチュワートを応援するわけだ。


 続いて、表彰台の一番高いところに、わたしの推しが立った。
 ついに『無敗の貴公子』はここからおりることなく、その名のまま引退する。

 エースが笑顔で人差し指を立てた右腕を高く掲げた。一番のポーズ。
 歴史に残る大接戦を無敗の貴公子は制したのだ。

n61エース逆@一番笑顔

「みなさん、ありがとう。僕はきょうでS1を引退します」
 エースのあいさつに女性ファンから黄色い声があがった。
 エース、やめないでぇ!
 
「僕を愛したように、S1を愛し続けてください」
 無敗の貴公子はどこまでもかっこよかった。

 わたしの憧れ、わたしの推し。こらえきれず涙があふれた。

 ありがとう。  (4)へ続く

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ティリー「サポートしていただけたらうれしいです」 レイター「船を維持するにゃ、カネがかかるんだよな」 ティリー「フェニックス号のためじゃないです。この世界を維持するためです」 レイター「なんか、すげぇな……」