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銀河フェニックス物語<出会い編> 第四十話(9) さよならは別れの言葉

エースによるとレイターはもうS1には乗らないという。
銀河フェニックス物語 総目次
第四十話(1)(2)(3)(4)(5)(6)(7)(8

* *

 S1最終戦から一週間が経った。

 スチュワートが自社のファクトリーに足を踏み入れると、レイターがいた。顔を見るのはS1のレース当日以来だ。 

横顔スーツ前目微笑逆

 アラン・ガランと技術的な話をしている。こいつらはほんとに議論が好きだ。

 俺に気づいたレイターが、手を振ってあいさつした。
「スチュワート、お久し。今度、ギーラル社はスポーツ船のハールを作るらしいぜ。アイデア料を払えって魔法使いのケバカーンに請求しといた」

n63ケバカーン@口一文字

 まったくこいつは、自由人というかめちゃくちゃだ。

 S1最終戦のあの日、廃船になったハールの片づけが終わると同時に、こいつは姿を消した。フェニックス号と一緒に。
 祝勝会のために高級店から取り寄せて用意していた料理と酒が、半分無くなっていた。
 俺たちチームのメンバーは、レイターの準優勝とコルバの四位を祝って乾杯したが、レイターは一人で残念会をしたのだろう。
 祝勝会という気分じゃなかったことは想像がつく。

 翌日、レイターは俺には何の挨拶もなしに、クロノスと来シーズンのS1契約交渉を始めた。

交渉

 最終戦が終了した段階で、俺とあいつの契約は切れたから法的な問題はないが、普通は一言かけるだろう。

 この場で驚くことが明らかになった。
 あいつはエースの代打ちとしてS1プライムにプラッタで出場し、優勝していたというのだ。
「クロノスの船はいい。プラッタは最高だ。会社ごとほしい」
 とレイターはほざいた。天下のクロノスを乗っ取る気か。

 あっという間に交渉は決裂。

 わかった。これは茶番だ。
 プラッタの販売機数が見る間にメガマンモスを押さえて首位に立った。

 俺はレイターに話しかけた。
「S1にはもう乗らないのか?」
「ああ、もう充分さ」
 レイターは肩をすくめた。
「もったいないと思わないのか。クロノスのプラッタなら、次は優勝間違いなしだろ」
「そうだな。ま、今回だって、ハールで優勝できたんだけどな」
「どういうことだ?」

 レイターの代わりにアラン・ガランが口を開いた。
「レイター、お前の言うとおりだ、最後の直線で加速を続ければ、エースに勝って優勝できた。その代わり、お前は丸焦げになって死んだ」

アラン・ガラン@2やや口

「今、ここにはいねぇだろな」

「お前は、最初から死ぬことを想定して、ハールとメガマンモスという組み合わせを選択した」
 レイターは否定も肯定もしなかった。アラン・ガランは続けた。

「ゴールのギリギリまで、お前はパラドマ発火を起こして死ぬつもりだった。だが、あと、コンマ五秒のところで思いとどまり、アクセルを踏み込むのをやめた」
「さっすが、老師の見込んだ男はよく見てるねぇ」

老師にやり逆

 そうだったのか。

 最終戦の最後の最後。金色に光るハールはパラドマ発火を起こさなかった。『無敗の貴公子』には紙一重で勝てなかったが、機体が燃えなくて俺はついていると思った。

 あれは、運がよかったのではなく、レイターが制御していたのか。

 俺は、レイターの肩を叩いた。
「優勝はのがしたが、生きていれば何とかなるさ。とにかくお前が死ななくてよかった。さすがのお前も死ぬのは怖いか」
「う~ん、別に怖いとかじゃねぇんだよな。レース中に『あの感覚』がこなかったんだ」
「全知全能という感覚か?」

「ああ。俺、銀河一の操縦士になるって約束してんだ。だから、このS1に懸けてた。『あの感覚』を使いこなして、完璧な銀河一の操縦士になるはずだったんだ」

 レース一週間前の深夜。レイターがここでハールの調整をしながら話していたことを思い出す。こいつは『あの感覚』がつかめないと頭を抱えていた。

悩み小彩度

「結局、あのS1レースで俺は最後の最後まで『あの感覚』にたどり着けなかった。エースに引っ張られて、あと少しで触れるところまで行ったとは思うんだけどな。これじゃあ、まだ駄目って、言われたのさ」

「誰に?」

 俺の問いには答えず、レイターは宙を見つめた。
「だから、もうちょっと、待っててもらうことにした」

レースの途中に レイター大逆

 あれだけレース史に残るバトルをしても、『あの感覚』にはたどり着けないのか。どれだけ究極の高みなのか。俺には想像できん。

 もし、レイターが今回のS1で『あの感覚』を感じていたら、こいつは間違いなく死を選んだのだろう。
 話していてわかる。
 こいつ、病的なまでに死ぬことを恐れていない。

 銀河一の操縦士への執念。『あの感覚』への飽くなき渇望が、こいつに生きるという選択をさせたということだ。
 そして、S1ではもう『あの感覚』をつかめないとわかり、競技レースに対する未練がなくなった。

「お前、これからどうするんだ?」
「どうもしねぇよ。これまで通り、銀河一の操縦士さ。ボディガードのバイトは続けるから必要なら協会通じて申し込んでくれや。じゃな」

 あいつは軽く片手をあげると、俺の前から笑顔で立ち去った。       最終回へ続く

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ティリー「サポートしていただけたらうれしいです」 レイター「船を維持するにゃ、カネがかかるんだよな」 ティリー「フェニックス号のためじゃないです。この世界を維持するためです」 レイター「なんか、すげぇな……」