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銀河フェニックス物語<出会い編> 第四十話(6) さよならは別れの言葉

六年前、社内の対戦でレイターが『無敗の貴公子』に勝っていたと記事になっていた。
銀河フェニックス物語 総目次
第四十話(1)(2)(3)(4)(5

「だって、本当の話だし、当時の担当者ならみんな知ってる話じゃない」

忍者ティリー桃大

「でも、箝口令が引かれてるじゃないですか」

 箝口令、という強制力のあるものかどうかはわからないけれど、『無敗の貴公子』のブランドに傷が付くようなことを、表だって話す社員はいない。

「誰がしゃべったか犯人探しが行われると思うんです。専務を裏切っているんですから」
「まあ、社員しか知らない話だからね」
 と口にしたけれど、わたし自身それほど深刻な感じはしなかった。心の中で表に出てよかった、とすら思っていることに気づいた。

「これ、しゃべっちゃったの。ジョンなんです」
「え?」
 サブリナがあわてている理由がわかった。

 ジョン先輩はサブリナの彼氏で、レーシング船の主任研究員だ

n50カラー微笑む

 エースのための船を設計していて『無敗の貴公子』を貶める気持ちなんてさらさらないことはわかっている。

「祝勝会から酔って帰ってきたところに、知り合いの記者がいたんですって。おもしろい話はないかって聞かれて、つい調子に乗ってべらべら喋っちゃったらしくて」

 ジョン先輩らしい。
 先輩は宇宙船の設計で著名な賞を取るほどすごい人なのだけれど、政治的なことにはめっきり疎い。

 一方のサブリナは社内事情に敏感だ。

「わたしがこの記事に気づいて、ジョンに連絡を取ったら、あの人、何かまずかったっけ。なんて言ってるんです」

 ジョン先輩は、レイターと学生時代からの知り合いで仲がいい。

ポーズにやり逆

 レイターがすごい、ってことを誰かに話したいという気持ちがわたしにはよくわかる。

「このままだとジョンが話したってことがすぐにバレて、社内規則十五条の『会社の不利益にあたる行為をしたものは解雇もありうる』が適用されちゃうんじゃないでしょうか」
「解雇? それはないと思うけど…」
 と言いながらも確信はなかった。

「ティリー先輩、何とかうまく取りなして欲しいんです。先輩ならエース専務と直接話ができるし」
「う、うん」
 あいまいに返事をして通信を切った。

 ジョン先輩の行為は情報漏洩にあたるのだろうか? 
 エースになんと声をかけよう。面倒な案件に気分がふさいだ。

 出社すると会社に正式な問い合わせがきていた。
『過去にエース専務とレイター・フェニックスの対戦があったのか。その勝負にレイターが勝ったのか?』

 広報のコーデリア課長が役員室に顔を出して頭を悩ませていた。
「事実を確認中です。とだけ応じていますが」

コーデリア真面目色

 対戦があったのは確かだけれどあくまで非公式のものだ。

 そのバトルではレイターが先にゴールした。けれど、危険暴走行為を取られてエースに勝利判定がでている
 社として答える必要があるのかないのか。答えるのであればどこまで開示するのか。
 二人の副社長を呼んで緊急の話し合いがもたれた。

 サブリナには悪いけれど、すでにわたしが口を挟める状況じゃない。

 エースは動じていなかった。
「まあ、この情報は表に出て困るものじゃない。僕が説明したって構わないぐらいだ。だが、まずい情報もある。それをどうするかだ」
 表に出て困る情報。緊張した空気が室内に走る。

例のS1プライムですな」
 営業畑のアリ副社長が答えた。

 レース形式のS1プライム。暴漢に襲われたエースの代わりに、レイターが替え玉で出場し優勝したのだ。完全なS1規程違反。

 エースが二人にたずねた。
「どのタイミングでオープンにするべきだろうか?」

レースの途中に エース

「オープンにするんですか?」
 アリ副社長は驚いた声を出した。    (7)へ続く

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ティリー「サポートしていただけたらうれしいです」 レイター「船を維持するにゃ、カネがかかるんだよな」 ティリー「フェニックス号のためじゃないです。この世界を維持するためです」 レイター「なんか、すげぇな……」