見出し画像

たぶん、コンプライアンス。

 駅のポスター。

 それも、啓発という目的で貼られるものは、時々、これは違う、炎上のようなことになりやすくなっている気がする。

 見出し写真のポスターは、電車の乗り降りに関して、出口付近に立ち止まって、人の流れを阻害してしまうことを、やめてください、ということを訴えていて、その内容に関しては、とても納得ができる。


踏ん張る人たち

 今は、満員電車に乗る機会があまりなくなったし、コロナ禍以降は、今もなるべく人混みを避けるようにしているから、より満員電車が縁遠くなっているけれど、以前、たくさんの人が乗っている電車の車両の中で、見知らぬ他人なのに怒りを感じるは、こうした出入り口付近に、踏ん張る人たちだった。

 大勢の人が降りようとして、ドアのところに向かっているのに、なぜか、そのそばにいるのに、その流れに逆らうのが自分の使命のように、全身に力をみなぎらせ、つり革をしっかりと握り、そこにその人がいなければ、どう考えても、人の流れがスムーズになるのに、何に対して頑張っているのかと思うことはあった。

 そして、その人に怒りすら向けていたし、同じようにその人の行為に対して嫌な顔を向ける人もいたのに、それでも、継続する動機が分からなかった。

 これだけ混んでいるのだから、いったんは降りて、また乗ればいいのにとは思っていたけれど、もしかしたら、それをやって、また乗ろうとして、乗れなかった経験があるのかも、と思ったりもしたけれど、でも、やっぱり降りてほしい、とは思っていた。

 あの、人の流れに逆らうだけでも、大変だったはずなので、無駄ながんばりにしか見えなかった。

 そして、その時の、踏ん張る人は、私が目撃したのは、中年の男性。スーツを着たビジネスパーソン風の人だった。それだけで、自分のことは棚に上げても、そういう行動をするのは、中年の男性という印象になっている。

多様性

 そうした経験は過去にものになってしまったから、今は、こうした“出入り口付近に立って、人の流れを妨げないでください”という啓発ポスターを見ても、フレッシュな怒りを持つことはできない。

 それでも、少しでもよく見ると、この「迷惑をかけている人たち」には、多様性があるのがわかる。

 私の記憶に近い中年男性。若い女性。中年の女性。さらには若い男性というだけでなく、もしかしたら、違う人種の人かもしれない、と思わせる描写の人物。計4人が、グレーに彩られている。

 年齢も、性別も、もしかしたら国籍も、バリエーションがある。こんなに違う属性の人が一斉に出入り口を塞ぐようなところに立っているのは、もしかしたら珍しいかもしれないけれど、この多様性の表現に、コンプライアンスを感じる。

コンプライアンス

コンプライアンスは、英語の名詞「compliance(従うこと・命令に応じる)」のこと。

転じて、近年私たちがよく耳にする「コンプライアンス」は、企業が「法律や条例だけでなく、社会的規範や企業倫理、社内規定、就業規則などの幅広い規則を守る」という意味で使われています。

(「人事のミカタ」より)

 ここ何年かで、最も早く、広く使われるようになった言葉の一つが「コンプライアンス」で、「コンプラ」と略され、あらゆる場面で使われるようになり、今では、まるで「うるさい風紀委員の注意」のように思っている人も増えているような気がする。

 この駅に貼られたポスターでも、例えば、私のように中年男性が、出入り口を塞いでいた、という印象が強いとしても、その中年男性だけが立ち塞がっていたり、もしくは、近頃の若い者は(今、この言い方は、すごく自主規制されているとも思うが)と言いたい人は、若者が塞いでいる印象が強くなっているだろう。

 でも、もし、その目撃が事実だとしても、その「迷惑をかける人」が、ある属性の人だけで、こういうポスターを制作したとしたら、今は「偏見だ!」と炎上しやすいのだと思う。

 だから、こうして、さまざまな人間を描くところに、コンプライアンスという単語が出ている会議が見えるような気がする。

細部

 そして、ここからは、個人的な偏りのある見方なので、もしかしたら偏見と思われても仕方がないのだけど、この「そこを空けてくれると、乗り降りしやすいんだけど」ポスターの4人の(迷惑をかけている)グレーの人のなかでも、実は少し違いがあるのに気がつく。

 若い男性と、若い女性は、それぞれスマホ、もしくはタブレットらしきものをタッチしていて、そこに気を取られている。中年らしき女性は、疲れているのか目をつぶって立ったままうとうとしている。

 それらに比べると、ビジネスパーソンらしき中年男性だけが、他の何かによって集中力を乱されていないのに、そこが人の流れに邪魔になるのが分かりそうなものなのに、何か信念を持っているように、つり革をしっかりとつかみ、そこに立っているから、実は一番タチが悪いのではないか、と思えてくる。

 同時に、この中年男性の姿は、私自身が、まだ満員電車に乗っていた頃に見た光景を思い出させる。この姿勢から、駅に着いて、一気に人が降りようとしても、何の覚悟が知らないけれど、厳しい表情をして、そこに立っていて、本当に邪魔だと感じていた。

 だから、もしかしたら、このポスターをデザインした人も、同じような経験があるのかもしれない、とも思った。

 単純に考えすぎの可能性も高いですが……。




(他にも、いろいろと書いています↓。よろしかったら、読んでもらえたら、うれしいです)



#SDGsへの向き合い方   #ポスター   #啓発ポスター
#炎上   #多様性 #コンプライアンス   #駅
#マナー   #毎日投稿   #多様性を考える





記事を読んでいただき、ありがとうございました。もし、面白かったり、役に立ったのであれば、サポートをお願いできたら、有り難く思います。より良い文章を書こうとする試みを、続けるための力になります。