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「非日常よりの日常」------「下丸子の家」の「ショーイング」。

 知らないうちに、知らないことが進んでいる。

 地元でもアートプロジェクトがあった。


大田区OPENアトリエ

(「大田区OPENアトリエ」)
https://otaku-open-atelier-2023.jimdosite.com

 「大田区OPENアトリエ」で、地元には自分が知らないだけで、アートの現場がたくさんあった。こうしたイベントがあって、そのために初めて知ることも多くあった。

 そのうちの一つが、この「下丸子の家」だった。

(「大田区OPENアトリエ」連携スペース)
 https://otaku-open-atelier-2023.jimdosite.com/連携スペース 

 こういう名称は、建築家の斬新な建築物につけられることが確か多いと思うのだけど、そうではなくて、空き家をパフォーマンスに使う、ということでの命名のようだった。

 写真では、ツタがからまっている古い家で、そういえば、この「下丸子」は隣町といっていい場所だったのだけど、そういう古い家はすぐに頭に浮かぶ。だけど、地図を見たら、かなり違う場所で、こういうツタがまとわりついているような空き家は、実はたくさんあることに改めて気がつく。

駅からの道

 最初に、こうした場所でダンサーと言われる人がパフォーマンスをするのか、それも空き家で何をするのだろう、といった興味だけで、とにかく見たいと思い、その「ショーイング」を予約をしたが、いろいろあって、申し訳ないのだけどキャンセルをしてしまった。

 それにも関わらず、丁寧な連絡が来たので、とにかく、その場所だけでも見ようとして、土曜日にバタバタして、午後5時までは展示がしていると知り、下丸子の駅から小走りで現地に向かった。

 途中では知っている病院や、少し遠くに郵便局なども見えたものの、道が一本違うだけで、そういえば、視界に入っていたはずだけど、全く歩いたことがなくて、少し考えただけでも、歩いていける範囲であっても、一度も足を踏み入れたことがない道路は、思った以上に多いことがわかる。

 初めていく場所は、そんなことを感じさせてくれるけれど、焦りながら行ったら、その家はあった。

 本当に古い、明らかに空き家とわかる家。

 そして、なんの気配もなく、変だと思ったら、引き戸の玄関の扉に、告知が出ていた。ダンサー本人の体調不良により、延期になったことを知る。家に帰ったら、きちんとそのことについて、キャンセルをした人間にまで連絡が来ていたのに、スマホも携帯も持っていなくて、外出先でその情報を知ることができなかったのは、現時点では、自分が悪いのだと思う。

 ただ、その「下丸子の家」は完全に沈黙を保ったまま、物質として、それも古くなったモノとしてそこにあって、なんの機能もしていない空間が中にあると思って、その気配はちょっとした怖さまであった。

下丸子の家

 そして、予定より1週間後に、再び「ショーイング」を開催することが決まって、その日のほうが都合がいいので、ちょっと楽しみだった。1回目をキャンセルしたときに、予約は人数把握の都合なので、予約がなくても現地に来てください、といった言葉があった。

 だから当日は、2回目なので不安も少なく比較的スムーズに行けた。

 当たり前だけど、引き戸の扉が開いている。

 小学生くらいの子どもたちが走って、出入りしている。もうとっくに夏休みは終わっているのだけど、それだけで、夏休み感が高まった。

 まだ時間があったし、空き家で空調もないから、外で待っていようと思っていたのだけど、促されるままに2階に上がったら、いろいろな人があいさつをしてくれて、誰が今日のダンサーかは分からなかったのだけど、どうやら小柄で笑顔の女性が今日の主役らしいと知った。

遠藤七海 ― 大田区出身、大田区在住。 7歳よりダンスを始め、中高時代に演劇、大学でコンテンポラリー ダンスに出会う。立教大学映像身体学科卒業後は作品制作やダンサー、インストラクターとしての活動の傍ら、舞台制作者として も舞台芸術に携わる。 日常、とりわけ食とアートをテーマに模索中。

(「大田区OPENアトリエ」サイトより)

 そんなプロフィールは読んでいた。
 ここで何をやるのかはわからなかったけれど、「生活をたちあげる」というテーマが魅力的だった。

ショーイング

 まだ少し時間があって、2階の3つの畳の部屋がつながっているが、そこに小学生らしき男子と、女子はまだ動き回っている。大人は、座って、うちわでずっとあおいでいる。なんだか、海の家のような気配さえある。

 個人的には冷房に弱いので、窓から風も入ってくるので、気持ちがいい瞬間まである。

 小学生男子が「ダンス見ないと、スイカ食べれないんだって」と大声で伝えている。確かに、パフォーマンス後に、スイカのことは告知されていたが、そんな声が響く空間は、とても好ましい感じがした。

 観客は、10人と少しくらい。半分は小学生の男女。さらに、大人の多くはその保護者のようで、あとはいわゆる関係者の方たちで、今日だけ参加している、まったくの観客はもしかしたら、私だけかもしれない、と思ったりもする。

 時間になって、3つの部屋の一番奥、観客からは、最も遠い部屋で立って、そして、遠藤七海は、最近、寝相が悪くて、といった言葉と共に、動き始める。

 とはいっても、横たわって、確かに眠る時の動きのようだけど、当然だけど、その動きの一つ一つにメリハリがあって、ただの悪い寝相ではなくなっている。だから、なんとなく目を離せないでいると、目を覚ました設定に変わる。

 そして、今度は、スマホでラジオ体操の音楽を流しながら、体操を始める。

 ただ、途中から、ラジオ体操の動きのようでもありながら、一般の人間では真似ができないような稼働範囲の広く、バランスも筋力も必要な動きが入ってきて、それは、やっぱり、こんなに日常的な空間でありながら、そこに非日常の空気を感じさせてくれる。

 それほど詳しいわけではないけれど、やはり、それはダンサーの動きだと思う。

 そのあと、立ちながら、再度、先ほどの寝相の悪さを表す動きをしたり、もう一度、動きに対しての指示する言葉をスマホで流しながら、その動きを、やはり横たわりながら再現をしている。

 のちに、自分の寝相を記録した上で、それを元にして、この動きの振り付けをしたらしいことを知ったが、それは、現代美術だと思った。

 そうした動きを続けていて、久しぶりに、こんなに近くでプロの動きを見た気がしていたし、やっぱり日常ではなく、非日常に寄った出来事だと思う。

 大人も子どもも、結構飽きずに見ている感じがした。日常の中で、非日常的なことが行われていて、でも、非日常的すぎないので、それほど緊張感の高さもなく、そういう気配の中で、そこに幸福感が漂っているようで気持ちがよく、なんだか少し眠くなった。

 そのあと、ダンサーは今度は、観客とほぼ同じ部屋に来て、畳に正座をして、そして、あちこちに顔を向けて、いろいろな表情をしている。そうしたとても小さい動きでも、観客の方を向いているせいもあって、こちらの感情に影響が出てくる。

 それは、化粧をしている動作を再現したようだったけれど、例えば落語をしていると捉えられても、といった考えで行われているのも、後で知った。

 これで、パフォーマンスは一区切りだった。

 ただ、あとで考えたのだけど、寝相がダンスになるのであれば、生活のことは何でもダンスになるし、どんなことでもダンスに見立てることができる、ということに気がついた。

生活をたちあげる

 ここから、「空き家に一つ持ってくるとしたら?」という質問が、観客に向けられることになった。

 ただ、その前に、パフォーマーである遠藤が、自分は家にある大きくて背もたれのように使っている大きいクマのぬいぐるみを持ってきたい。そして、その場所まで、この家の平面図を見せながら、印をつける。

 それから、その質問を女性に投げかけた。

 電子ジャー、という答えだったが、その炊き上がりを知らせる音の確認までして、かなり高めの「ピーッ」という音まで再現し、それは、観客の笑い声も起こさせている。そして、その場所も確認する。

 それから、同じ質問を続け、小学生男子は、最初にテレビと、その後にゲームは採用されたが、スマホゲームと言っていた時には、それ以上、ゲームは認められなかったりしたものの、参加者からは、生活に必要なものが挙げられていた。

 扇風機や、冷蔵庫。

 扇風機は、どうやって使いたいか?とも尋ねられ、プロペラに向かって、声を出したいとうリクエストまで遠藤は再現していた。

 そして、どれも設置場所を聞いていて、だんだんモノが増えていくたびに、何もないのに動きで、それを利用する表現を続け、そこにそのモノがあるような「ダンス」のようなパフォーマンスを続け、そこに時折、米が炊き上がる「ピーっ」という音を入れていくから、飽きずに時間が過ぎた。

 ただ、それを繰り返す姿を見ていると、そういえば、生活は繰り返すこと。そして、人の毎日は、自分の生活も含めて、こんなふうにも見えるのだろう、と思ったりもした。

 そして、約40分で、「ショーイング」が終わる。

スイカ

 そこから、スイカの時間になる。

 私は、スイカを切っているそばに寄ったら、小学生男子に、どうぞと渡され、恐縮もしつつもお礼は伝える。そんな感じで、スイカを食べていると、これだけの人数で食べるのは、おいしいし楽しいと思った。

 その中で、今回のことにからんだ話にもなり、このスペースが、これから、どうなるのか?と言ったこともなんとなく知って、いろいろなことが変化していくこともわかった。

 こういう場所ができて、そして、こういう新鮮な経験ができるような場所が、もし、隣町にできるとしたら、やっぱりうれしかった。

 気がついたら、始まってから1時間が過ぎていた。そして、終了した。すでに室内は、暗くなってきている。

 遠藤の話によると、先週、延期になったので、せっかくなので火曜日から5日間、この「下丸子の家」を開けると、今日、来ている小学生たちも自然に集まってきたらしい。

 そんなこともあるんだ。そういうことも含めて、いい時間だった。

 当然だけど、今回のパフォーマー・遠藤七海氏は、これからもいろいろと活動を続けるようだ。

下丸子のカフェhatomeではシェフとして月に1度、スパイスカレー の店コオドリを出店中。
Instagram/Twitter @farW7sea

(「大田区OPENアトリエ」サイトより)





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