事件の空間。
そこは、ただ楽しそうな空間だった。
上野公園
新しい年になってから、アートを見たくて、上野に出かけた。
上野駅が改築されてから、改札を出ると、信号もなしに、すぐに上野公園につながるようになった。
とても人がたくさんいて、妻と二人で、ちょっと驚いたりもして、でも、目的の美術館へ向けて歩いた。
途中に公園内の大きな交差点のような場所がある。
そこには、いつも人でいっぱいで入店することができない印象のスターバックスコーヒーがある。
目的地へはそのまままっすぐに進んで、少し右にいく感じなのだけど、その公園内の交差点のような場所は広く、大きく右に曲がると、とても大きい空間の東京国立博物館が遠くに見える。特徴のある造りだから、はっきりとわかる。その手前の空間には、噴水があるけれど、この日は水は見えなかった。
それは、その手前でイベントをやっていたからだ。
牡蠣フェス
大きい看板のようなものが嫌でもはっきり目に入って、そこには「牡蠣フェス」という言葉があって、何をやっているのかは、よくわかった。
そしてそこには、この日が日曜日ということもあるせいか、人がたくさんいた。
多くのブースのようなものが出店しているのは、やや遠くからでもわかり、あちこちで行列があるのも見えて、牡蠣がこんなに興味を持たれていることと、牡蠣でフェスができることがちょっと意外だった。
妻と、そんな話をしたら、「え、でも、牡蠣って、けっこう好きな人がいるんじゃないの」と、当然のような表情をしていたから、その反応の方が一般的なのかもしれない。
遠くから見ても、そこにいる人は楽しそうに見えた。
自分が知らないところで、いろいろなイベントが行われていて、そこに想像以上の人が来ることを目の当たりにした気がした。
イベントを紹介しているサイトを見ると、祭という文字が多く、おいしそうな料理の写真も多用されていて、牡蠣が好きで、その日に時間があったら、つい行ってしまいそうなのはわかる気がした。
それでも、そのとき、私たちは、他に目的もあるし、その時、お腹も空いていなかったので、遠目で見るだけだったけれど、そこにある熱気は伝わってきたと思う。
そこにいる人は楽しそうだった。
食中毒事件
それから1週間以上経った頃、少し忘れかけていたのに、その「牡蠣フェス」に関するニュースを知った。
あの楽しそうな空間で、おそらくは列に並んで、食べた牡蠣で、食中毒が発生していたようだ。私たちが通りかかったのが1月7日のことだったから、そこの場所ですぐに体調がひどくならないとしても、すでに症状が出ていた人もいたはずだし、フェスを主催する側も、もちろん、そうした事件を起こす気はないのに、事件が発生していた。
だから、大げさに言えば、事件の発生している現場を、ちょうどその時間に目撃していたはずなのに、当然だけど、全く気がつかなかった。
なんだか不思議な気持ちがした。
この「牡蠣フェス」が最初におこなわれた2022年の新年は、まだコロナ禍で感染者が拡大している頃で、こうしたフェスのように、人が多いところに行くことは個人的には考えられなかったけれど、それでも訪れる人がいたから、3年も続いていたフェスであることも、事件があって、その報道によって初めて知った。
過去2回は、こうした食中毒事件が起きていないと思われるのだけど、こうして実際に起こってしまったら、とにかく来年は行われないことが決まった。
あの楽しそうな場所は、2025年は、どうなるのだろう、とも思ってしまった。
事件の経過
ただ、事件の経過を、私がニュースで目にしたのは、東京都が、食中毒についての原因を断定したからだけど、実は、その前からも報道されていたことも知った。
TBSでは、すでに1月13日に放送していた。私はそのことも知らなかった。
現代は、何か事件があったとき、特に、こうして不特定多数の人たちを相手にしたイベントであったら、それを「なかったこと」にするのは難しい。昔だったら、食中毒になった、と主催者に連絡をしたら、個別に対応をして、これだけ広く伝わることはなかったかもしれない。
もちろん今回も、衛生管理に問題があったから起こった事件ではあるのだけど、13日の時点では、この牡蠣フェスと食中毒の関連は、公式に認定されていたわけではなかった。
それでも、TBSが放送したのは、主催者側の公式サイトで、すでに「お詫び」がされていたせいかもしれない。
事件への対応
その数日後とはいえ、確かに、このフェスの公式サイトは「お詫びとお知らせ」になっていたのは確認できた。
まだ、原因が公式に特定されていない時期に、こうして自らの過ちを認め、謝罪をし、対応を始めている。
もちろん、食中毒を起こしたことは責められるべきだし、その原因についてはさらに検討が必要なのは当然だが、これまで見聞きしてきた食品関係の事件の中では、かなり迅速な対応と思ってしまった。
そう考えると、関係者のコメントの中で「来年は牡蠣フェスはおこないません」という意志表明も早かったかもしれないが、この中で、「来年は」という表現をしていて、〝今後、全て中止〟とは言っていないことも、かなり慎重な言葉を選んだかもしれない、と思えてくる。
再来年以降のことはどうなるのか分からないとしても、もし、今後、(いつになるか分からないとしても)このフェスを再開するのであれば、今回の食中毒事件の対応次第で可能性が変わってくるのだから、いろいろなことを考え抜いた上での、素早い対応だったのかもしれない、と思ってしまった。
それは、外側から、少しだけ見ていた素人の推測に過ぎず、本当かどうかは、もちろん分からないままだ。
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