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カルビを改めて試してみた。

 焼肉屋に初めて行ったのは、学校を卒業して仕事をするようになってからだ。

 スポーツ新聞の記者になり、すぐに現場に行かせる方針の会社だったので、ゴルフ担当で日本国内のツアーに出かけるようになったのは、入社した4月からだった。

 今振り返れば、新人研修もなく取材に行っていたのだから、ある意味では乱暴なやり方だったかもしれないけれど、個人的にはありがたかった。それは、20世紀の社員研修というのがとても厳しくて、駅前で大きな声で自己紹介をしたり、知らない人に名刺を渡したり、そこまで行かなくても、社員教育のプロと言われるような外部の人がやってきて、社会人のマナーといったことをイスに座って何時間も聞くのは想像するだけで苦痛だったせいだ。

 とにかく、1ヶ月に2試合ほどはゴルフの試合を取材していた。水曜日に出かけて4泊5日で出張をして、月曜日には出社して火曜日に休み、というパターンだった。


ゴルフ記者

 南は沖縄から、北は北海道。

 学生時代は特に旅行に行く人間ではなかったから、仕事をするようになってから、初めて飛行機に乗ったり、あちこちにビジネスホテルに泊まるようになった。

 そして、ゴルフの取材は朝から始まり夕方まで続き、ゴルフの選手にインタビューをして、原稿を手書きで書いて、ファックスで会社に送り、その後にデスクからOKが出れば仕事が終わりだった。

 だから、夜には宿泊しているゴルフ場から近い街に戻って、夕食を食べることはできる。

 新入社員とはいっても、記者は一人で、写真部の人と一緒に取材には行くけれど、ゴルフ場のクラブハウスに設置されたプレスルームで過ごすことが多く、そこには他の会社の自分よりもベテランの記者の方々がいた。

 試合によっても人数が変わってくるが、10人以上はその部屋にいて、最初は知らない人ばかりだったけれど、あいさつをして名刺交換をして、そのうちに知り合いになった。

 同業他社でライバルでもあったのだけど、ゴルフ場は広く、選手たちはいっぺんにプレーを終えるのではなく、次々と上がってくるので、一人だけで全部をカバーするのは不可能で、だから、記者同士が情報を交換することになるので、だんだん距離は近づく。

 最初は他の会社の新入社員はいなかったので、当時は若かった私に対して他の会社のゴルフ記者の方々はとても親切にしてくれた。とても恵まれていたと思う。そうした方々の仕事ぶりを見て、学ぶことも多かった。

 同時に、宿泊しているホテルも一緒にしてもらったりすることもあったし、ゴルフ場から近い街まで他の記者の方々とタクシーも同乗して、仕事が終わってから街に戻って、一緒に食事をすることも多かった。

 ゴルフ記者のベテランの方々は日本全国を回っていて、毎年、同じ会場であれば、同じ街に宿泊することになることもあって、そのせいであちこちの美味しいものに詳しい人も少なくなかった。

 そして、週に2日は焼肉屋に行っていた記憶がある。

焼肉屋

 私にとっては、初めての焼肉屋だった。

 何人もの先輩の記者の方々と一緒にテーブルを囲み、他の方々は慣れているので、次々と注文をする。焼肉屋は行ったことがなかったので、そこに飛び交う固有名詞すらわからなかった。サンチュにナムル。野菜もとらなくちゃ、といったことも覚えたが、同時に、最初に注文されたカルビも覚えたのは20代の自分にとってはとてもおいしかったからだ。それは焼肉は美味しいもの、といった印象とともに記憶に残った。

 焼肉を焼いて、他の記者の方々からは、若いんだからたくさん食べたほうがいい、と言われ、食欲もあったので、調子に乗って食べた。大体は食事の後は、そこから飲みに行ったりもして、関係性を深めるためにもそれも一緒に出かけさせてもらったのだけど、そういう生活が続いたせいか、3ヶ月くらいで10キロほど太ってしまった。

 それでも、焼肉がおいしい、という印象はずっと続いていたが、その後は、大勢で食事をする機会も減っていったし、介護を始めて仕事を辞めてからは、さらに外食の機会自体が激減した。

 そうやって年月が経っていった。

年齢

 歳をとると食欲が減っていく。
 特に油っぽいものは体が受け付けなくなってくる。
 焼肉も、特にカルビはあれだけ好きだったのに、あまり食べられなくなった。

 そんな話は、周囲から、もしくはメディアを通しても聞こえてきた。

 自分も牛丼屋にいったとき、ミニや小盛りを選ぶようになっていた。

 確かに食欲は減っていったかもしれないが、中年になってからいろいろあって体重を減らそうと考えて、カロリーを制限し、筋トレをして2年半かけて20キロを減らしてから、意識してあまり食べなくなっていたので、本当に食べたいものを食べたら、まだいろいろ食べられるのではないか。

 そんなことをひそかに思うようになったのが、つい最近だったのでコロナ禍のために外出をしなくなっていたので、それを試す機会がなかなかなかった。

 だけど、最近は家で食べているのは主に鶏肉や豚肉で、牛肉の棚はスーパーの買い物などに行っても通り過ぎることが多いと、その存在自体を気にかけなくなっていく。

 牛丼屋に行っても、豚肉丼などを選ぶことが多かったし、そういえばカルビの味を忘れそうになっているような気がして、かといって今の経済状態では恥ずかしながら焼肉屋に行くのは厳しそうだし、と思っていたら、牛丼屋でカルビをはっきりと打ち出しているメニューがあったことを思い出して、確かめた。

 松屋のカルビ焼肉定食。

だけど、近所にあるのはすき家で、松屋に行くこと自体がなかなかななかった。

カルビ焼肉定食

 妻と一緒に外出をし、夕方になったので、少し早いけれど夕食を外で食べていく話になり、駅まで歩いていく途中で、それほど強く入りたい店がなかったので駅まで来てしまった。

 それで駅の向こう側に松屋があるし、カルビを試してみたい話は以前からしていたので、それに賛成してもらった。

 店内に入る。

 券売機で少し戸惑う。この前入って別のものを食べた時は、もっと楽だったはずなのにと思いながらも、券売機で買って席で待つ。

 午後5時半頃のせいなのか、客はそれほどいない。

 番号を呼ばれて取りに行く。

 妻は松屋は久しぶりで、お味噌汁がおいしい、といっていて、良かったと思う。

 そのあともカルビ焼肉定食を食べて、おいしいと笑顔だった。「久しぶりにご飯をかっこむ感じを思い出した」と、妻は全部食べた。

 私もおいしかった。

 独特の油の感じはあったけれど、それにしょうゆをかけたりして味をさらに濃くして食べた。肉を食べている感じはあったけれど、少し硬く感じたのは自分がそれだけ歳をとったのか、もしかしたら焼肉屋で食べたら、もっと柔らかいのだろうか、などといろいろと思っていたが、基本的には美味しく感じ、やはり全部食べることができた。

 焼肉屋で食べるようなカルビはまた少し違うのかもしれないけれど、久しぶりに牛肉を食べたせいもあって、かなりおいしく感じた。

 だから、もしかしたら、カルビが食べられなくなったという人は、若い時から継続してずっと食べ続けていることで、途中でやや飽きていることもあるのではないか。私のようにたまにしか食べない人間にとっては、年齢を重ねてもしばらくカルビは大丈夫かもしれない。

 そんなことを松屋で思った。

 次は別の場所でカルビを試したくなるかもしれない。




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