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化学への興味関心を高める取り組み色々―オンラインからハンドメイドまで―(R6九州高等学校理科教育研究会沖縄大会)

この記事は、2024年8月1日、2日に開催される「第69回 九州高等学校理科教育研究会沖縄大会」「化学分科会 研究発表」の要旨に相当するものです。

時期の関係で、鹿児島県大会全体会要旨と重なる部分が多々ありますがご容赦ください。

(鹿児島県大会全体会要旨はこちらです)


県大会は義務制の方もいらっしゃるので全般的な話題を、こちらの高校・化学分科会の分はもう少し突っ込んだ部分が述べられればと思います。


1 はじめに

 化学を担当する教員としては化学への興味関心を高めることが大事な役目の一つです。受験指導は勉強すれば誰でもできます。いまや動画やAIも充実しその真似事をしているだけの教員は不要です。やるからには興味関心を高め、自ら学習へ向かうように仕向ける仕掛けが必要です。
 もちろん学校現場での実験(体験)の重要性は長らく叫ばれており、エビデンスのある教材研究も多数ある。今回はあえて少し異なる視点から「アイデアの提供」というイメージで筆者の実践を紹介します。

2 オンライン関係

(1)インターネット上での各種発信

 ブログやSNSを用いて、実名顔出しで理科に関する情報などを発信しています。怪しい匿名よりもユーザーからの信頼も上がります。その分投稿の正確性やリスク・守秘義務については慎重に考慮する必要もあります。法的根拠としては国家公務員の私的SNS利用ガイドラインをベースに運用すると安心です。

特にX(旧Twitter)を多く活用しており、情報収集や化学に関する事項の拡散を行っています。外部の先生方や大学の先生方ほか専門家の方々とも交流できてうまく活用すれば勉強になります。あわせて、鹿児島の魅力の発信なども行っています。

(2)オンデマンド(YouTube)

 授業補足の録画、配信で実施した。十数年前はカメラや編集の性能もよくなく撮って出しでしたが、コロナの時期くらいになると機能も上がって撮影・編集しやすくなりました。学校の授業・生徒の予習復習でも利用。実験やまとめ動画なども色々試してみました。生徒の集中力を考えると、10分程度が限界です。様々な授業動画教材はありますが、「動画に知っている人が出てきたほうが定着する」という研究もあります。自作動画も多少の有効性はあります。

色々な動画を試してみました。

自分以外の動画とも合わせて、動画の視聴を前提にした反転授業のかたちをとることも多く、この場合授業のスピードを上げたり、授業時は協働学習や演習などにあてたりということもできます。

(3)リアルタイム配信授業・実験等

 主にコロナの休校中にスタートした。岐阜では各家庭の通信環境を調査、Wi-Fiルータ貸出等で対応。タブレット+スマホの2画面受講の生徒が多くみられました。オンライン双方向実験なども実施。Web会議で一つは手元の資料や白板の共有、一つは自撮りでログイン。リアルタイムで生徒と画面共有(複数の生徒の画面も見られる)「MetaMoji」(岐阜県はじめ複数の自治体で一括採用)を使用していたので便利でした。現在は無料ツールのClasskickを利用しています。

「オンライン生徒実験」は自宅で用意できるものを使って、生徒と一緒に実験し、レポートを送ってもらうという授業です。

オンライン実験の様子

こちらからは手元と板書をそれぞれ配信、生徒は任意に画面を拡大しながら受講、家にあるもので実験をしてレポート提出、という形です。

① 凝固点降下→アイスづくり
② コロイド→豆腐作り(にがり、塩析)
③ 浅漬け→浸透圧

ちょうどこの3分野について、コロナで休校期間になってしまったこともあり、Web授業・実験を行いました。逆に、まだ対面のほうが実験をしにくい(飛沫対策等)という状況もあったので、結果的にいい作戦でした。



ほかに、オンライン、学校の授業などで使えるのは、リアルタイムで共有できるホワイトボードツールです。


色々なツールをうまく使いたいものです。例えばこのClasskickはリアルタイムで生徒の記入を見ながら進められるのが面白いところです。


Classkickの教員用画面

ロイロノートのようなシステムと異なるのは、「提出」の必要がなく、「今」書いているものがリアルタイムでみえる、いわば机間巡視をやっているような形で使えるという点です。なかなか説明しづらいので、リンク先から使用感を見てみてください。


(4)大学入試問題解答解説を掲載

 もともとはブログサイトで掲載していましたが、使用しにくいので現在はこちらのnoteに移行しています。共通テスト(センター試験)の解説(解答ではない)を予備校よりも先にアップロードするというのがここ10年来の趣味です。今のところ毎年継続できています。(予備校等の解答は早いが、解説までは時間がかかるみたい。)とはいえ昨今はYouTube等を利用して解説をつくるような後継の方々も登場してきたのであと10年くらいで辞めます。

 大学入試問題(二次試験)も難関大を中心にいくつか解説を掲載しています。こちらも、予備校は「解説」まで出さないことが多く、細かな解答方法まで教えてくれないことが多いからです。(あまり詳細に手の内を明かしては商売にならない。)もちろん、東大・京大などはなかなか難しいですが、自分の勉強にもなるのでこちらも何年か継続して実施しています。

各解説などの閲覧数は平均5000程度でばらつきはあるものの、複数合わせて20万程度の閲覧数はあるので多少は皆さんの役に立っているでしょう。


3 ハンドメイド関係

ここからはどちらかといえば作ったものの紹介。ほかにもいろいろ作ってみています。が、紙面の都合上すべては紹介できないです。仮説を立てて実験をして…というのが理想の理科ではありますが、様々な概念をモデル化して理解するというのもまた大事な活動です。


(1)組成式ブロック

ここでは、イオンの価数をブロックの長さに対応させ、組成式の比の関係を理解する教材を作りました。


組成式が作れる


物質名も作れちゃう


イオン式を書いた面、イオン名を書いた面、組成式が書いた面の3面を持っており、正・負のイオンの価数をそろえて組み立てると「組成式」「物質名」が完成する仕組みです。


授業での活用はまだ十分ではないので、今後工夫したいところ。

(2)糖類ペーパークラフト

 高校化学で多少学習しにくい分野が高分子の糖類です。いわゆるブドウ糖など、生物分野にも関わる内容ですが、大きめかつ立体的な分子であるためその形状を含めて学習する場合モデル等を活用することになります。とはいえ、市販のモデルはやや高価であり、持ち運び等にも難があります。また、糖類の表記は教科書等で主に「ハース式」と呼ばれる立体を斜めに見たような表記が用いられます。

https://goldbook.iupac.org/terms/view/H02749.html


組み立てたもの
ハース投影式


代表的なブドウ糖などのこの構造は大学入試においても必須事項です。一方で表記方法にはもう一つ「フィッシャー式」と呼ばれる展開図のような表記方法があり、大学等ではこちらを用いることも多いうえ、昨今では入試問題でも発展的な内容として問われるようになってきています。

たとえば2024東京大入試では「プシコース」が登場しました

そこで、展開図のようなフィッシャー式をハース式に折り曲げて組み立てられるペーパークラフトを開発しました。


ペーパークラフト

この展開状態の形が「フィッシャー投影式」に相当します。

フィッシャー投影式


実際の分子は左右に飛び出した部分が『画面手前』に伸びている構造です。
これを切り取って、左が上、右が下になるように折り曲げて組み立てます。

厚紙などで作ると、安定して飾れます。この立体構造に関する問いも結構あるので、形が分かっているとだいぶ良いです。

生徒を動員してたくさん作ると、高分子(アミロース)も作ることができます。(デンプンがたくさんつながった構造)


デンプンのモデル


さらに、ヒドロキシ基(OH)をメチル化、アセチル化などといった頻出事項もモデル化して再現できるようにしました。こちらも近々公開します。



枝分かれ構造などもよく問われるうえ、なかなか立体の理解が難しいので一度モデルで扱っておくといいです。

(YouTubeにもグルコースだけ解説を上げています)

8/9まで、セブンイレブンでネットプリントできます!
(紙・印刷代必要です)
β-フルクトース6員環 NH4GDXXK
β-フルクトース5員環 UEASY6YS
β-グルコース 2YBH8ZSN
α-グルコース L8M8PHZQ

もしよければどうぞ



4 おわりに

 網羅的に様々な試みを紹介したが、学び方も多様になってきているこの時代、ICTを使っても使わなくても、いろいろなやり方はまだありそう。我々教員もどんどんチャレンジしていきたいものである。少しでも先生方のアイデアのヒントになれば幸いです。