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コロナ禍の教育現場(その2)授業動画いろいろ試してみた

この記事は理科教育AdventCalendar 2020 16日目の記事です。

前回は,コロナでこうなったよ,みたいな話でした。

今回は具体的に,どんな動画教材を作ってみたかという話題で行きたいと思います。どちらにせよ,私自身のメモとしての意味合いもありますのでご容赦ください。

① かつて撮影していた授業動画

結構早い時期から,YouTubeでの授業配信に興味を持っていたので,2014年ごろから開設して細々運用していました。当時はカメラもいまいち,回線ももっさり,編集環境もいまいちだったので,そりゃあガタガタだったりなんだリの酷い動画ではありましたが,自身の勉強もかねて撮影していました。

ウン,なかなか…あれですネ…

しかし,この酸化還元反応の動画はまあまあの伸びがありました。YouTube動画はシビアにアクセス状況が把握できるので,どのような分野に視聴者のニーズがあるのかを分析しやすいという利点があります。

また,字幕を作成すると,(面倒ですが)音声のない状況でも見ることができるので便利という声もありました。

今は消滅した機能ですが,「アノテーション」という補足事項等の注釈カードを追加して表示する機能もありました。結構便利だったんですが,今では編集でカバーできるようになったようです。

この頃は,まだ勉強動画というジャンルがあまり多くなく,ブルーオーシャンだなぁーという感触はありましたが,なにせ副業禁止は当然引っかかるので,収益化は全く検討せず,細々やっておりました。

それでも,教育委員会には発見され(多少は私自身生徒含め宣伝していたので)「頑張ってるねフフ」みたいなくぎを刺された形ではありましたが,逆に言えば「勤務時間外に撮影して,趣味の範囲で役に立つ動画を配信する」くらいのことは大きく問題にはならないという風に受け取った私は継続して動画をアップロードしておりました。

② かつての試行錯誤

授業動画は,ちょっと長くなってしまう点(編集環境がなかったというのもありますが),初見の方へのリーチが弱い(とっつきにくい)という点があったため,もう少し親しみやすい動画も検討しました。

実験動画をいくつかとってみました。(これは硫黄の同素体です)ただ,やっぱうまく編集などをかけておかないと若干見にくい感じはあります。

分子模型を使って,分子を作ってみた動画シリーズもやってみました。ここでは糖類の鎖式→環式や,α→βなど,少しわかりにくいものを手で強引にガチャガチャやる動画です。わりかしいいんじゃないかと思いましたが,それほど伸びず…

【書いてまとめ】シリーズです。これは,大長編動画と名付けて,50分近く,喋りながらやっています。なにをやっているんだかね…

こんな感じで,いろんな動画を試行錯誤的にやっておりました。

③ 2020バージョン手元授業動画

そんなこんなでお試しでやっていた時期から数年が過ぎ,コロナがやってきました。前回,オンラインでの教材を作成・評価する際には一般的に分業が必要と述べましたが,先行き不透明の中,使える教材も限られておりました。そこで,とりあえず生徒の自主学習の助けになるよう,かつ撮影時間をできるだけ短くできるように検討したのがこのタイプの動画です。

撮影環境は,机の上に簡易的にスタンドを設置して,Surfaceを置き,あとはペンで書いていっています。YouTubeに動画をアップロードした経験のある方はわかると思うんですが,「視聴者が離脱した時間」というのを見ることができます。これが,私が主に上げている勉強動画ではおよそ5分過ぎたころから離脱者が多いことがわかっていました。そこで,5~10分程度に収める分量で計画して撮影しました。

それでも,実際書くと結構時間がかかります。ここは,編集で早送りしています。

また,解説は別途撮影し,アフレコのような形で合わせています。

制作における利点は「自宅でも作成できる」点です。実際,在宅勤務がかなりあり,その間に教材研究するのもいいんですが,なにも授業ができないもどかしさがあるのも我々教員の性です。しかし,この形式なら自宅でもコソコソと板書の紙を書き,あまりうるさくならないよう自撮りで録音して…とやれば,一日数本の動画を制作することができました。

私自身も,ピクチャインピクチャの形,いわゆるワイプで画面に登場しています。ここは,賛否あるところです。画面の情報量が増えるとか,気が散るといった意見もあります。このへんは,メイヤー(2001)あたりで研究されているようです。

※ Mayer, R. E.(2001). Multimedia Learning. Cambridge University Press.

この中の,マルチメディアの原理に,「人格化」ということが述べられています。学習者は,機械音声や形式的な言葉・文字だけよりも,「相手」から「語りかける」ようにされることで,「話し相手」としてより理解をしようとする傾向があるということです。

メイヤーの研究については少し古い話題ではあります。方法としては,そのような教育方法で教材を学習する実験群とそのような教育方法をとらずに教材を学習する統制群とで、学習実験を行いました。後に課題解決の理解や記憶を保持テストと転移テストとで測定し、それらの得点を比較して、教育方法の効果を検証したデータを基にしているようです。結果についても,権威のある専門の研究誌に投稿され、専門家による査読を通して掲載された研究の結果のみに基づいて、マルチメディア学習の原理をまとめています。

いうて,すいません,孫引きなんですけどね!あいにく原典あたっていません!また時間があるときに…(´;ω;`)

というわけで,ただの解説動画よりも,妙なおっさんが語り掛けるというスタイルに落ち着きました。視聴者は多くはありませんが,一通り学習の役には立っていたようです。

④ 2020バージョン板書授業動画

とはいえ,なかなか手元撮影と解説撮影というのは二度手間感があります。慎重な解説は可能ですが,結局製作時間がまあまあかさみます。

在宅勤務ではないときを利用して,板書授業も動画撮影してみました。

実際ワイプは窮屈です,出てこられてよかった…

とはいえ,過去に比べ動画編集ソフトの機能や取り回しが良くなっており,色々私自身もできるようになりました。例えば板書している時間のカットや早回し。個人的には,板書の流れがわかるので早回しのほうが意外といいのかなとも思います。

また,授業でやると結構な時間がかかる単元も,板書早回しや最小限絞って動画でやると,半分以下の時間で終わるものもありました。通常の授業は対話を含めながら実施するわけですが,実際はかなり絞ってエッセンスだけを授業するという方法もあるというのは興味深いです。この辺少し研究していきたいところ。

若干,視聴数はこの板書授業のほうが多い様子。私自身が若干道化を演じて(言い方)楽しくしようとしている効果もあるかもしれませんが,確かに某予備校の衛星授業等もやはり講師が画面上で動く形式で,学習内容によるかもしれませんがうまく使い分ける必要がありそうです。

⑤ そのほか試行錯誤してみた

YouTuber的なノリでやってみました。まだ生徒は自宅学習だった期間です。離れた場所でも一緒に勉強できるよ,というもの…(編集が大変でした)

これもYouTuberノリです。開封動画というカテゴリーがありますが,そんなかんじでやってみています。

分子体操!だんだんおかしくなってきました。

立方格子をマシュマロで作ってみようという動画。わかりやすいかはわからない…

化学といえば粒子概念ですから,molの学習を踏まえて,たくさんの数を扱うとはどういうことかというのを知ってもらう動画です。労多くして…という感じはありますが,本当は生徒にもやってほしかった。

ただ,なぜかこれはTikTokでバズリました。140万再生の,8.5万いいねです。TikTokの層は,コメントの様子からするとなかなか化学を勉強していない層や小中学生も多いようですが,「1個の重さをはかって,一合の重さを割ればいいじゃんwwww」「1個に七福神だから,6万人くらいの七福神がいるんだなwwww」みたいな,(一見,そんな話してないよ,と思いそうですが)ちゃんと粒子概念やより効率的な計測の方法についての考察を(図らずも)深めることができた動画になっていたようで,その少年少女たちには多少なり教育効果があったようです。

⑥ というわけで

動画教材を個人で作るというのは正直限界があります。予備校や,教育系企業によるもの,YouTuberや,企業内の教育プログラムなどの動画には到底太刀打ちできません。

ただ,優位に立てるものがあるとすれば,勤務校の生徒にとっては「日ごろ接している教員の授業を振り返ることができる」「あまり接したことがなくても,全く知らない人ではない安心感がある」というのがあります。このあたりをある意味武器にしながら,様々な教育方法を模索していく時代になってきたといえるでしょう。

あ,そう,だから,我々教員は,在宅勤務も,自宅学習の期間もさぼっていたわけじゃないんだからね!!!そいじゃ!