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コロナ禍の高校現場(その1)どんなかんじ?オンラインはどう使う?

本記事は,理科教育 Advent Calendar 2020の7日目の記事です。

お誘いをいただいたのでちょっと書いていきますが,そんなに大したものでもないんです。とりあえずは,私自身の記録というものでもあります。


はじめに

私自身2020年当初まで,鹿児島県の伊佐農林高校に勤務しておりました。

職業系の素敵な学校ですが,専門系科目の単位数が多いため,理科の教員が一人,実験助手の配置は無し,という「理科教育的には」厳しい条件です。実技を伴うものや実験などは農業や家庭科など専門教科にお任せして,主に座学で基礎的なものを授業せざるを得ない状況ではありました。

いろいろやりたいことはあったんですが,一人で実験の準備から片付け,備品や薬品の管理までするのはなかなか大変。併せてほかの校務分掌(担任や進路指導主任などをしていました)があると厳しい。生徒に手伝ってもらうこともありましたが,生徒も農場当番や検定で忙しかったり,専門教科がすきなあまりいわゆる5教科(国社数理英)にはあまり興味がない生徒も多かったり…と,理科だけを見ていると学校が回らなくなるという小規模校の苦悩もありました。でも,学校全体を見ると,本当にいい学校なんですよ。この辺の話はまたどこかで。

というわけで,岐阜県と鹿児島県の教育委員会の交流という形で,2020年4月から岐阜県立可児高等学校へ赴任した私は,理科教育にもう少し主軸を置いてやっていこう。と気持ちを切り替えていたわけです。


コロナが来る

2020年4月から岐阜県立可児高等学校に赴任しました。こんなに大っぴらにしていいのかって?前任校の間から実名顔出しで運用して,あちらこちらに身バレしているので今更問題はありません。

赴任した学校は,岐阜県の可児市で,大学進学などを中心に頑張っている学校です。

しかし4月の入学式以降,自宅学習が続きます。緊急事態宣言もあり,我々教員も在宅勤務をせざるを得なくなります。私は4月に赴任したばかりですから,生徒と顔を合わせたのはわずか数日,数時間!在宅で何ができるか?現状,自宅からのリアルタイム授業配信などは認められていないので,考えるしかありません。


①市販の学習支援の導入

幸い,勤務校では,学習支援のシステムが本年度から導入されていました。Classiです。

教員は,生徒と相談などのやり取りを通してメンター的な役割を果たすことができます。また,教材動画や小テストなども搭載されているので,教員は適宜選択し,配信していくことができます。もうこれで十分じゃないかな。

しかし,考えることは皆一緒です。世間の多くの学校が集中してアクセスすることで,4~5月はほぼほぼパンク状態。まともに生徒も職員もログインできないトラブルが…残念ですし,一つのサービスに頼りすぎるわけにはいかないという問題点も浮き彫りになりました。

あわせて,私は1年生担任ですが,新入生には新しくアカウントと初期パスワードを伝えるという業務が発生しました。電話で!

入学時に,生徒のネット環境などは確認していたようですが,メールアドレスなどを収集しているわけではなく,またアカウントは個人情報とのことで…とはいえ,めちゃめちゃアナログです。電話で,アカウントやパスワードを「大文字でアップルのA,ゼロ,キュー,いや,数字じゃなくてクエスチョンのQ,あ,小文字…」とかやるわけですから,そりゃあもう…この辺は登校時に渡すことができれば一発ですが,オンラインの課題といったところでしょうか。

というわけで,いまいち学習支援として使いにくい状況がありました。


②県がオンライン授業のシステムを導入した

比較的全国的にもオンライン化の取り組みが早い岐阜県では,取り急ぎ「Web会議システム」を利用したオンライン授業の仕組みを構築しました。

シスコのWebexを導入しました。ただし,当初は各学校1回線のみ。各学年で時間帯を割り振って利用しました。しばらくすると3回線に増え,学年ごとに運用できるようになりました。在宅勤務は教員ごとにズラして「在宅2日,出勤1日」の「分散勤務」という形だったので,オンラインの授業は,出勤の日にタイミングを合わせて割り振る感じです。

生徒としては,重たくて動かないClassi,どのように勉強をすればいいかわからない,というところに,リアルタイムで動く教員が画面上で説明などをしてくれるというだけでも,大分安心感があったようです。

問題点もいくつか。まず,「双方向性を活用しにくい」点です。スクリーンショットなどでの個人情報の拡散を危惧してか,運用方針として生徒側のカメラをオフということになりました。3回線で,学年の大人数が参加するとなると仕方ないといえばそうなんですが…ただでさえ顔も見えず,発言の機能はあれども百数十人参加する会議室で発言もしにくく…と,結局一方向の授業になる場合も多かったようです。これでは,オンライン学習の効果はいかがなものかという疑問も残ります。

(参考 三重大学教育学部研究紀要 第 68巻)

あとは,リアルタイムの動画であるために回線の遅延,ホワイトボードに映写してそれをカメラで写す…というようなやり方の場合は解像度の問題もありました(スライドショー画面共有ならまだ大丈夫。動画共有は厳しい場合も)。

さらには,生徒を複数教科で数時間画面の前に拘束することが,逆に負担になっているという訴えもありました。確かに,生徒のインターネット環境としてはスマホが中心の場合も多く,小さな画面の前でずっと…というのも普通に大変そうです。これは,各授業の時間を20分程度,一日の上限時間数を設けることで解決しました。

とはいえ,一方向ならもう,普通にYouTubeでよくない?となったのが私の場合です。


③オンライン教育ってそもそもそんな簡単にできるのか


本来ならオンライン教育,eラーニングのデザインというのは,少ない教員で一朝一夕でできるものではありません

例えば,オンライン学習・eラーニングの振興を図るAsia e-Learning Network(2005)によると,下記のような専門家があると考えられています。

・インストラクタ 教授活動を担う
・インストラクショナルデザイナ 教育コース開発
・基本インストラクショナルデザイナ 分析、設計、開発、実施、評価できる専門的技能を持つ
・上級インストラクショナルデザイナ より高い立場から複数のコースを統括する業務を担当
・学習支援者  学習者の学習活動を直接的、間接的に支援する人
・コース運用支援者 コース実施全体に対して関与し、システムの運用や、学習活動のデータの管理をする e ラーニング・プロフェッショナル
・コンサルタント 教育に関係する経営戦略策定、ビジネス戦略策定の助言
・コンテンツスペシャリスト インストラクショナルデザイナと協働し、実際に学習コンテンツを開発する e ラーニング・プロフェッショナル
・システム開発者  システムとそのためのアプリケーションソフトを設計・開発する
・システム管理者  システムとそのためのサーバ管理を行う
・チュータ インストラクタおよび学習者を支援する
・マネージャ 進行を指揮・管理する人材
・メンタ 学習内容以外にモチベーションを含む学習者の情意面に対する支援

つまるところ,学校現場で取り急ぎ準備するオンライン教育は人手も時間もなく,「たかがしれれている」と言ってしまえば元も子もないわけですが,現状あまり高いクオリティのものは端から作れないわけです。


④ミヤモトの高校化学基礎

私自身,大分昔からYouTube授業を試験的にやっておりました。もともとは,さらに前任校の甲南高等学校から転勤した際に,そこの生徒らからリクエストがあったのでやってみたものです。当時はカメラもいまいち,回線もいまいちで酷い動画も多いわけですが,細々と役に立っていたようなので置いておきました。これが,まさか7,8年後に役に立つとはね…

新たに,自宅や,出勤しても授業がない時間を利用してYouTube授業動画をとっていきました。Youtubeでの注意点は,著作物(問題など)は使えない点,教科書等を画面に映すことはできない点です。

アリバイ作りといわれれればそれまでですが,現場としては正直何をすればいいのか手探り状態です。やれることはやろう,という心境です。

では実際にどのような動画を作っていったか?というのはまた次回。


⑤自宅学習期間後

分散登校などを経て,おおよそ日常の学校生活が戻ってきています。ただし,オンラインのシステムをこのまま消してはもったいないということもあり,活用もしています。

・集会などはオンライン活用…各教室をオンラインでつないで,わざわざ体育館などに集まらないでも集会ができるようになりました。

・豪雨などで登校停止の場合にオンラインで授業や課題の配信…本年岐阜県ではたびたび豪雨があったため,学習状況の遅れなどをカバーする授業などを実施することができました。

・授業の補足分をストリーミング配信…YouTubeを使っている職員はこういった方法も併用しているようです。

ただし,理科の立場で行けば(すいません,理科の話題をあんまりしていませんが)グループ活動で実験!というのが大変やりにくいご時世です。飛沫,密ですといった状況がどうしても生じます。ここらへんをうまく扱っていかないと…と思いながらも,なかなかいいアイデアがない状況です。


⑥ まとめ

色々ありましたが,オンラインの導入で我々の授業の仕方の見直しも含め,何か流れが変わった肌感覚はあります。ただ,本格的にオンラインを活用していくとなると,学校ごと,教員ごとの教材開発ではどうしても不十分です。教育委員会単位など,もう少し大きい枠組みで開発の主体を用意する必要があるでしょう。

そこまでできて初めて,通信制以外の学校での「オンラインの授業時数へのカウント」「オンライン授業の評価における位置づけ」などを明確にし,たとえば「〇曜日はオンラインの日」とか,「学校へは×日出席していないがオンラインで〇日受講したので△日分の出席とカウントする」などという運用ができるようになると思います。



とりあえず次回は私自身の動画教材について,まとめます。