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鑑賞ログ「FLEE」

220922

なんとなく作品は知っていたけれど、後乗りでプロデューサーになったリズ・アーメッドと主人公のアミンの対談の動画をSNSで観て、がぜん興味を持つ。90年代にアフガニスタンを脱出し、ソ連崩壊直後のロシアを経てデンマークに難民としてたどり着いたアミンの物語。

アミンの身元をファジーにするために作品はアニメーションで構成されている。それによって、インタビュー映像の構成では観客の想像に任されることになる、アミンの過去などがよりリアルに示される。個人的にはそれがよかった。父親は不在なものの、アフガニスタン時代のアミンを取り巻く世界はごく普通の世界で、自分が今生きている世界と地続きだと感じることができる。もしそれがアニメという形での映像ではなく、インタビュー映像で示されていたら、リアルに感じることはできなかったと思う。

研究者として有能な彼がなぜ、大切な人との平凡な未来に悩み、それと両立できそうにない人生の成功を目指そうとするのか。その背景には、彼の生い立ちが深く関わっていた。

汚職が蔓延るソ連崩壊直後のロシアに辿り着いた一家は、そこで数年を過ごすことになる。悲しみ、諦め、無力感といった感情に人生が覆われていくという感覚。自分の人生が自分で決められないことの残酷さ。そして短い時間ではあるけれど、アミンが世界のメディアをぶった斬った瞬間、自分が当事者あったことも思い知らされる。
まさに今、ウクライナ、ミャンマー、イランに同じ青春時代を過ごす若者が数多くいることに思い至り、胸が痛んだ。たぶんロシアでも同じだろう。
平和であることとは、自分の未来を自分で選ぶことができるということなんだなと感じる作品だった。

少年時代に故郷を捨て、孤独な彼にとって、よりどころは家族だけ。しかし、彼が生きてきたイスラムの世界には同性愛は存在しない。その狭間での彼の苦悩は、意外な形で解消される。そのシーンがとても良かった。お兄ちゃーん!!!と叫びたくなる。

強調したいのは、思ったよりもずっとライトな作品だったということ。現代世界の縮図のような作品だけれど、明るさがあるのは実際にその人生を歩んできた人間が振り返っているからなんだろうな。彼にとっては、きっと世界という暗い海の中に、ぽつんとボートで漕ぎ出したような日々だったんじゃないだろうか。孤独で暗い海。そんな彼の過酷な人生に、温かい光が灯り続けることを切に願う。

そして、全然関係ないかもしれないけれど、本当に人は見た目ではわからないなと思った。

↓↓リズ・アーメッドとアミンの対談動画


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