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スーサイドメーカーの節度ある晩餐
あらすじ 久留木舞(くるきまい)は深夜のコンビニにタクシーがダイナミックに入店する現場に居合わせた。久留木はその事故よりも、自分の傷の手当てをしてくれた青年――松下白翔(まつしたあきと)に対して言い知れぬ恐怖を抱く。『関わってはいけない』そう思っているのに、松下の押しの強さに負けて、久留木は彼と行動を共にするようになる。
登場人物主人公
久留木舞
年齢:29歳 性別:女性 職業:プロ雀士 趣味:
第一話 ピザトーストと窒息
――『鋼の女王』久留木舞 女流雀王死守!
一文の中に同義語があると損をした気になる。この短い文章の中に『女王』と『雀王』、『女王』と『女流』と、どれだけ女で王であることを示したいのか、苛々してくる。しかしこの煽り文句はこれ以上削ることはできないのだろう。一読で私――久留木舞――のあだ名を『鋼の女王』に定着させなくてはいけないし、この間のリーグ戦の結果も示さなきゃいけないのだから。
その編集
第二話 スパイスと強盗
――四天王が集った! 『第一回ニャン動画雀王』決定戦!
そんなところに入った覚えはないし、そんな動画サイトも知らないし、そんなわけわからない名前の王様にもなりたくもない。
しかし麻雀は他の知的スポーツとは比べ物にならないほど、大会もスポンサーも少ないのが現状だ。少ない舞台の中でなんとか勝ち星をあげて、少しでも知名度を上げて、麻雀以外の仕事をもらえるようにならないと食べていけない。
「はあ
第三話 シュークリームとストーカー 前編
――株式会社バスタルド新薬開発成功を発表。
『製薬会社』は常時様々な新薬を出している。だから新薬の発表なんてニュースで取り扱われることはない。けれどこの『新薬』は別格だった。この薬は『当事者』に待ち望まれていた『救いの光』。『当事者』はみな、その薬によって新しい道を切り開かれた。
しかし同時にその薬は『当事者』ではないものたちからの多くの批判を受けた――『倫理に反する』と――。
――痛
第三話 シュークリームとストーカー 後編
――株式会社バスタルド新薬開発成功を発表。
読者数国内一位のその新聞には、大衆に向けて分かりやすく噛み砕かれた新薬の説明が書かれていた。それでも難解な部分は多い上に、いくつかの部分は逆に噛み砕かれ過ぎて『感情』が入った文章になっていた。
――痛みや苦しみのない人生は喜びもないものではないか?
痛みによって体を動かすことができなくなった人に向けてつくられたその新薬の効果は、眠るしか出来ない
第四話 ちらし寿司と心中 前編
――I saw the best minds of my generation destroyed by madness. (私はこの時代の最高の才能が狂気によって破壊されるのを見た)
私たちは前方についた2つの目で見たことを『正解』と判断する生き物だ。それを浅はかととらえるか、それを愛らしさととらえるかは、上部についた1つの脳みその判断だ。
結局、人間は自分の判断でしか『正解』を見つけら
第四話 ちらし寿司と心中 後編
干しシイタケが戻るのを待っている間に酢飯をつくる。炊き立てのご飯に御酢を混ぜてあおいで冷ますなんて業の料理だなと思いつつ、うちわであおぐ。
これで酢飯はいいが、問題は具材の方だ。
「お弁当だから生もの使えないしなあ」
錦糸卵に焼き鮭に蒸した海老に枝豆、そのぐらいで彩りはいいだろう。いや、きぬさやもあったからそれも入れておこう。
そんなことを考えながら酢飯をうちわであおぐ。
明日は白
最終話 ショートケーキと告解
――もはや死ぬしか道はない。
毎秒、誰かが自分の死について考えている。だから『そんなこと』で思い悩むのは、珍しいことではない。ならば問題なのは、その『珍しくない悩み』を、未だに合理的に解決する手段を構成できていない社会だ。人間は社会を形成することで長期的に生き抜くことを選択した種族なのだから、自殺は社会が解決に取り組まなくてはいけない課題なのだ。
「……どうしたら今も生きていたのか」