#掌編小説
溺死の記憶 //220213四行小説
水の引いた用水路を見て『溺れなくて済む』と安心する。想像の自分は雨が降っている日はいつだって溺れていた。酸素を求めて顔を出し、足で底を探そうと突っ張っても何も当たらず口から水が入っていく。何かを掴もうにも藻の生えた壁面はぬるついて、ぬるつくのに鋭利なところがあり手に傷が付いた。傷の痛みは水の冷たさで感じることは無かったが、だんだんと身体の芯に冷たさが迫ってくる。雨の日に外に出る人はあまりおらず、
もっとみる葉の縁は白 //220210四行小説
椿をぼうっと見ていたら、葉が動いた。一ヶ所だけがざわりと動いて、目を走らせたもののもう何も動いていない。なんだったんだろう……と考え始めたところでもう一度ざわりと動いて正体を突き止めた。緑の体に黒いきらめきは白く縁取られている。枝に止まっていたのはメジロだった。
もうメジロがやってくる季節なのか。確かに梅に止まっているイメージはあるけれど、まだ梅にも早い時期だから少しフライングしてやってきたの
折られた猿の手 //220208四行小説
猿の手を得て願いを叶えようとしたら優しそうな人がやってきた。猿の手全ての指を折り、地面に放って「努力もなしに手に入れたものに価値は無いわ」と聖母のような微笑みで言う。僕はもう使えなくなった猿の手を一生動かない足を引きずって取り戻し、悔しさと絶望に奥歯を噛む。
優しい人は、努力を見せてとバラエティ番組でも見るみたいに僕に言う。応援する自分の尊さを肯定したくてたまらない。他者が寄せる優しさは、いつ
運命的な君との出会い方 //220125四行小説
この青い空から君が落ちてきたら良かったのにと涙を拭う。
そうしたら運命だったと確信出来るはずだった。
運命的な出会いだったなら、もっと何かドラマや映画みたいなことが起きて、どうにかなったような気がするのに。平凡な僕と平凡な君は、ありきたりな日々を過ごして何も起こらずにさよならをする。