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【四行小説について】 だいたい四行の小説。起承転結で四行だが、大幅に前後するから掌編小…

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【四行小説について】 だいたい四行の小説。起承転結で四行だが、大幅に前後するから掌編小説ともいう。季節についての覚え書きと日記もどきみたいなもの。// 一次創作メインの字書き。pixivにいたり、カクヨムにいたり、コタツで丸まってたり、犬をもふってたり。

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    だいたい四行の小説。起承転結で四行だが、大幅に前後するから掌編小説ともいう。 季節についての覚え書きと日記もどきみたいなもの。

  • 逆噴射小説投稿分

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最近の記事

春夏日 // 240522四行小説

 友人が、いたく涼しい格好をしている。  制服の移行期間は六月だから一応それまでは長袖を着なければいけないのだが、家の前で合流した彼は腕を露にしていた。 「クラス委員である自分が率先して半袖を着れば、みんなも着やすくなるかと思って」  その少し斜め上の使命感に、ちょっと天然なのではないだろうかと思うも彼はいたって真剣な表情をしている。移行期間は校則で決められているから怒られてもおかしくはないのに、彼はみんなのためを思ってそうしたらしい。確かにここ最近は五月だというのに夏日であ

    • 蚕の白は何処から // 24521四行小説

       白い姿が桑葉を食む。蚕はどれだけ緑を食べようとも、姿は絵の具を乗せたような真白のままだった。人間は少し蜜柑を食べただけで手が黄色くなるというのに。  美味しそうに食べている姿を見れば、美味しいのだろうかと気になるもの。味を聞けば口は止めないままに微かに頷いた。  ならばとまだ口を付けていない葉をちぎり、口に入れれば草のような柏のような緑の味が広がった。美味しいとは、言いがたかった。  このまま食べ続ければ僕は一体緑になるのか、それとも白になるのだろうか。

      • 狂わない桜 // 240520四行小説

         青々と繁る桜の木の下で君は懐かしむように仰いだ。目に映るのは、葉ではなく、空でもなく、記憶の人だということを俺は知っている。それはもちろん俺ではない。  この木は秋になると狂い咲きの花を咲かせるのだが、狂い始めていたのはもっとずっと前の、例えば今日のような日からだったのかもしれなかった。

        • 美味しい関係 // 240204四行小説

           人によってアレルギーがあるように、逆に相性の良い食物というものもあるように思う。朝はパン派、コーヒーを飲むと仕事が捗る、とかそういうもの。  自分にとって妙に相性が良い気がするなと思う果物があり、それは金柑だったりする。食べた次の日はどこか調子がよく肌質もいい。そういう食べ物を多く見付けることが、健康への近道になるのかもしれない。

        春夏日 // 240522四行小説

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        記事

          大豆もあるけど落花生を撒けばいいじゃない // 240203四行小説

           落花生を投げればいいのだと知り合いが言っていた。実家にいるとき、節分で撒いた豆はスリッパに踏まれて粗いきな粉になっていた記憶は確かにある。  合理的ではあるが、それでいいのか? とは思いつつ、食べ物を粗末にしないに越したことはないので、酩酊に任せ枝豆を投げている。

          大豆もあるけど落花生を撒けばいいじゃない // 240203四行小説

          貫入の手 // 240202四行小説

          左手の甲が、ひび割れている。 肌のキメの三角をなぞるように赤い血が滲んでいた。 遠目に見れば釉薬に細かいひびの入った食器にも似ている。 長い時間を掛けて使用してきた故のヒビだと云うならば、こんな手でも愛着が沸く気がした。

          貫入の手 // 240202四行小説

          灰白に咲く花

           吹き上げるビル風に前髪が靡く。一歩踏み出せば全ては終わる。己の知らない内に、望んでいたのだろう。死という物を。  三ヶ月前、急に職場に行くことが出来なくなった。始めは頭痛に苛まれ、次第に朝起きることが困難になった。適応障害と診断され休職届を出すも、治る兆しは無い。その内に料理さえ出来なくなって、起きられなくなった。 「ここから飛ぶつもり?」  背後には男が立っていた。男の持っている煙草の先には赤く火が点っていて、ビクリと体が跳ねる。 「十分だけ時間くれない?」 「いいけど何

          灰白に咲く花

          薔薇の少女 // 230524四行小説

           薔薇を踏みしめる音はしなかった。靴の下に残骸の感触があり、足を退かすこともせずに隣家の庭を向くと真顔の少女がこちらを向いていた。  薔薇は隣家の庭の薔薇だった。咲いた花がフェンスを越えてこちらの敷地へと落ちたのだ。  何が言いたい。領土を侵したのはそちらだ。  無言で少女を見ていると、不意に破顔した。にらめっこに負けたときみたいで、花が咲くような笑顔だった。それこそ、薔薇みたいな。 「そんなに敵意むき出しで疲れない?」  ……敵意。  自覚は無かったが、どこか居たたまれない

          薔薇の少女 // 230524四行小説

          白い窓辺 // 230523四行小説

           白い窓辺から見える風景には川があった。その川縁を犬の散歩をする人やジョギングをする人、通勤に行く人など朝の日常が広がっていて、寄せては引いていく波を見るような気持ちでそれを眺めている。  部屋にいる自分とは時間の進みが違っているようで、自分が窓の向こうにいないことが不思議だった。休息を取るべきだと分かってはいても、この風景に気持ちが急いてしまうのは仕方ないと思う。とはいえ何も出来ないことは分かっていたから、諦めを孕んだため息を溢す。

          白い窓辺 // 230523四行小説

          コツコツ // 230522四行小説

          コツコツと何かをすることは苦手だった。 小さなハードルをいくつも越えることで出来ることは次第に増えていく。前に進めば進むほど見える景色も変わってくる。 ふと振り返ったときに、歩んできた軌跡を見れば毎日一歩ずつ進んだだけなのにここまで来たのかと少し驚いた。 苦手だけれども、苦手なりに半歩でも前に行けば出来ることは増えるらしい。 進んだ道のりを思い出しながら、次に見える景色はどんなものだろうかと胸を躍らせた。

          コツコツ // 230522四行小説

          雨女の君 // 230521四行小説

           雨はあまり好きではない。太陽が翳ると自然と気分も落ちるし、湿度が高いと髪が言うことを聞かないから。  君は雨女で、いつもいつもめでたい日にこそ雨を連れてきて、僕は「またかよ」と呆れてしまう。けれども傘の下で君は楽しげに「まただよ」と笑うから、仕方ないかという気にさせられた。  いつもいつも君はめでたい日に雨の中で笑っている。だから、今では雨を見ると何かめでたいことが起こるのでは無いかなんて思うようになって、今日も言うことを聞かない髪を撫で付ける。

          雨女の君 // 230521四行小説

          窓の金木犀 // 221008四行小説

           金木犀のマスキングテープを買った。秋になり、その匂いが恋しいものの、この地域の木はまだ花を付けていない。北の方ではもう咲いていると聞くから、殊更恋しくなってしまった。だから目についたこのテープを買ってしまったのだった。  世の中は季節を少し先取りするから、実は一ヶ月前に雑貨屋で金木犀のヘアオイルを買っていた。世に金木犀の香りのものはあれどどこか本物とは違って買い控えていたのに、そのオイルは記憶の匂いとまさしく合致したのだ。  もしかしてこの二つがあれば、金木犀を一足先に楽し

          窓の金木犀 // 221008四行小説

          クジラの骨 //221006 四行小説

          「クジラの骨が浮いている」  隣の君が指さした先には、夕暮れの光を受けた雲が暮れつつある空に浮いていた。赤みがかったオレンジと白が斑になった筋雲は確かにクジラの骨のようで、右から左へと空を大きく占めている。  骨の後ろには淡く光る円があり、何の光かと目を凝らせば雲の裏でしめやかに輝く月らしい。 「なら、あれは?」  聞けば、そんなことも分からないのか? とでも言うように目を開き、呆れたように笑いながら言葉を吐いた。 「伴侶のいる証に決まっているだろう」  雲の加減で、丸い光は

          クジラの骨 //221006 四行小説

          羽根ひとつ //220302四行小説

           水面に波紋が広がった。行き道に通りかかる池は、この時期になると鴨が夫婦でやってくる。一昨日も昨日もいたから、きっと波紋を作ったのは鴨に違いないとそちらを見やる。  羽根が一枚、水面に浮いていた。  鴨はいない。そういえば、どこか今日は池が静かな気がする。生き物の気配が少ないような、何かに脅えてどこかに隠れてしまったような、奇妙な静けさがある。一体何がいるのだろう。池を覗いても底は見えず暗い。深く深くどこまでも続いていそうな黒い水が揺れている。……私は逃げ損なってしまったので

          羽根ひとつ //220302四行小説

          花知らず //220228四行小説

           道なりに植えられた桜を見上げていると、隣の君 もつられるように見上げた。蕾が膨らんできていて、春が着々と訪れていることを感じた。確か明日から暖かくなると天気でも言っていた。 「西館に何か咲いてたよ。梅? かな。今の時期なら多分梅!」  君は花についてあまり詳しくない。詳しくないけれど、花が咲いたり匂いがしたりするとどこか嬉しそうだった。詳しくないからといって、好きではない訳ではないだろう。芸術を感性で受け止めるように、季節の移り変わりと花の行く末も知識ではなく肌で感じるもの

          花知らず //220228四行小説

          栞 //220225四行小説

           空いた座席に栞が落ちていた。主要駅を過ぎて車内の人は減っていたから、誰かが置いている訳では無いようだった。  落とし物として届けるべきかどうしようかと思案しつつ、栞を摘まんで観察する。この栞には見覚えがあった。上の方にパンダが描かれている、どこかの出版社の出している栞だ。確か書店で無料で配られていたはず。それだけなら別に届ける必要も無いと思えたはずなのだが、問題はこの栞の配布されていた時期が最近ではなく二十年も前というところだった。  時間の経過を示すように、角は少し縒れて

          栞 //220225四行小説