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【四行小説について】 だいたい四行の小説。起承転結で四行だが、大幅に前後するから掌編小…

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【四行小説について】 だいたい四行の小説。起承転結で四行だが、大幅に前後するから掌編小説ともいう。季節についての覚え書きと日記もどきみたいなもの。// 一次創作メインの字書き。pixivにいたり、カクヨムにいたり、コタツで丸まってたり、犬をもふってたり。

最近の記事

美味しい関係 // 240204四行小説

 人によってアレルギーがあるように、逆に相性の良い食物というものもあるように思う。朝はパン派、コーヒーを飲むと仕事が捗る、とかそういうもの。  自分にとって妙に相性が良い気がするなと思う果物があり、それは金柑だったりする。食べた次の日はどこか調子がよく肌質もいい。そういう食べ物を多く見付けることが、健康への近道になるのかもしれない。

    • 大豆もあるけど落花生を撒けばいいじゃない // 240203四行小説

       落花生を投げればいいのだと知り合いが言っていた。実家にいるとき、節分で撒いた豆はスリッパに踏まれて粗いきな粉になっていた記憶は確かにある。  合理的ではあるが、それでいいのか? とは思いつつ、食べ物を粗末にしないに越したことはないので、酩酊に任せ枝豆を投げている。

      • 貫入の手 // 240202四行小説

        左手の甲が、ひび割れている。 肌のキメの三角をなぞるように赤い血が滲んでいた。 遠目に見れば釉薬に細かいひびの入った食器にも似ている。 長い時間を掛けて使用してきた故のヒビだと云うならば、こんな手でも愛着が沸く気がした。

        • 灰白に咲く花

           吹き上げるビル風に前髪が靡く。一歩踏み出せば全ては終わる。己の知らない内に、望んでいたのだろう。死という物を。  三ヶ月前、急に職場に行くことが出来なくなった。始めは頭痛に苛まれ、次第に朝起きることが困難になった。適応障害と診断され休職届を出すも、治る兆しは無い。その内に料理さえ出来なくなって、起きられなくなった。 「ここから飛ぶつもり?」  背後には男が立っていた。男の持っている煙草の先には赤く火が点っていて、ビクリと体が跳ねる。 「十分だけ時間くれない?」 「いいけど何

        美味しい関係 // 240204四行小説

          薔薇の少女 // 230524四行小説

           薔薇を踏みしめる音はしなかった。靴の下に残骸の感触があり、足を退かすこともせずに隣家の庭を向くと真顔の少女がこちらを向いていた。  薔薇は隣家の庭の薔薇だった。咲いた花がフェンスを越えてこちらの敷地へと落ちたのだ。  何が言いたい。領土を侵したのはそちらだ。  無言で少女を見ていると、不意に破顔した。にらめっこに負けたときみたいで、花が咲くような笑顔だった。それこそ、薔薇みたいな。 「そんなに敵意むき出しで疲れない?」  ……敵意。  自覚は無かったが、どこか居たたまれない

          薔薇の少女 // 230524四行小説

          白い窓辺 // 230523四行小説

           白い窓辺から見える風景には川があった。その川縁を犬の散歩をする人やジョギングをする人、通勤に行く人など朝の日常が広がっていて、寄せては引いていく波を見るような気持ちでそれを眺めている。  部屋にいる自分とは時間の進みが違っているようで、自分が窓の向こうにいないことが不思議だった。休息を取るべきだと分かってはいても、この風景に気持ちが急いてしまうのは仕方ないと思う。とはいえ何も出来ないことは分かっていたから、諦めを孕んだため息を溢す。

          白い窓辺 // 230523四行小説

          コツコツ // 230522四行小説

          コツコツと何かをすることは苦手だった。 小さなハードルをいくつも越えることで出来ることは次第に増えていく。前に進めば進むほど見える景色も変わってくる。 ふと振り返ったときに、歩んできた軌跡を見れば毎日一歩ずつ進んだだけなのにここまで来たのかと少し驚いた。 苦手だけれども、苦手なりに半歩でも前に行けば出来ることは増えるらしい。 進んだ道のりを思い出しながら、次に見える景色はどんなものだろうかと胸を躍らせた。

          コツコツ // 230522四行小説

          雨女の君 // 230521四行小説

           雨はあまり好きではない。太陽が翳ると自然と気分も落ちるし、湿度が高いと髪が言うことを聞かないから。  君は雨女で、いつもいつもめでたい日にこそ雨を連れてきて、僕は「またかよ」と呆れてしまう。けれども傘の下で君は楽しげに「まただよ」と笑うから、仕方ないかという気にさせられた。  いつもいつも君はめでたい日に雨の中で笑っている。だから、今では雨を見ると何かめでたいことが起こるのでは無いかなんて思うようになって、今日も言うことを聞かない髪を撫で付ける。

          雨女の君 // 230521四行小説

          窓の金木犀 // 221008四行小説

           金木犀のマスキングテープを買った。秋になり、その匂いが恋しいものの、この地域の木はまだ花を付けていない。北の方ではもう咲いていると聞くから、殊更恋しくなってしまった。だから目についたこのテープを買ってしまったのだった。  世の中は季節を少し先取りするから、実は一ヶ月前に雑貨屋で金木犀のヘアオイルを買っていた。世に金木犀の香りのものはあれどどこか本物とは違って買い控えていたのに、そのオイルは記憶の匂いとまさしく合致したのだ。  もしかしてこの二つがあれば、金木犀を一足先に楽し

          窓の金木犀 // 221008四行小説

          クジラの骨 //221006 四行小説

          「クジラの骨が浮いている」  隣の君が指さした先には、夕暮れの光を受けた雲が暮れつつある空に浮いていた。赤みがかったオレンジと白が斑になった筋雲は確かにクジラの骨のようで、右から左へと空を大きく占めている。  骨の後ろには淡く光る円があり、何の光かと目を凝らせば雲の裏でしめやかに輝く月らしい。 「なら、あれは?」  聞けば、そんなことも分からないのか? とでも言うように目を開き、呆れたように笑いながら言葉を吐いた。 「伴侶のいる証に決まっているだろう」  雲の加減で、丸い光は

          クジラの骨 //221006 四行小説

          羽根ひとつ //220302四行小説

           水面に波紋が広がった。行き道に通りかかる池は、この時期になると鴨が夫婦でやってくる。一昨日も昨日もいたから、きっと波紋を作ったのは鴨に違いないとそちらを見やる。  羽根が一枚、水面に浮いていた。  鴨はいない。そういえば、どこか今日は池が静かな気がする。生き物の気配が少ないような、何かに脅えてどこかに隠れてしまったような、奇妙な静けさがある。一体何がいるのだろう。池を覗いても底は見えず暗い。深く深くどこまでも続いていそうな黒い水が揺れている。……私は逃げ損なってしまったので

          羽根ひとつ //220302四行小説

          花知らず //220228四行小説

           道なりに植えられた桜を見上げていると、隣の君 もつられるように見上げた。蕾が膨らんできていて、春が着々と訪れていることを感じた。確か明日から暖かくなると天気でも言っていた。 「西館に何か咲いてたよ。梅? かな。今の時期なら多分梅!」  君は花についてあまり詳しくない。詳しくないけれど、花が咲いたり匂いがしたりするとどこか嬉しそうだった。詳しくないからといって、好きではない訳ではないだろう。芸術を感性で受け止めるように、季節の移り変わりと花の行く末も知識ではなく肌で感じるもの

          花知らず //220228四行小説

          栞 //220225四行小説

           空いた座席に栞が落ちていた。主要駅を過ぎて車内の人は減っていたから、誰かが置いている訳では無いようだった。  落とし物として届けるべきかどうしようかと思案しつつ、栞を摘まんで観察する。この栞には見覚えがあった。上の方にパンダが描かれている、どこかの出版社の出している栞だ。確か書店で無料で配られていたはず。それだけなら別に届ける必要も無いと思えたはずなのだが、問題はこの栞の配布されていた時期が最近ではなく二十年も前というところだった。  時間の経過を示すように、角は少し縒れて

          栞 //220225四行小説

          植物のバックアップ //220223四行小説

           台所に置いていたベンジャミンが枯れかけてるからバックアップを取った。ベンジャミンとは観葉植物のことだ。コーヒーの木に似て茎は木肌のようで葉は斑入りのポトスに近い。そいつがどうしてか急に葉を落としつつある。水は一昨日あげたはずだし、冬だから虫が付いていることも考えにくい。恐らく根詰まりだろうかと予想を立てつつ、一思いにまだ綺麗な葉が三枚ほど付けた状態で茎を切った。三本ほどそれを作り、適当なコップに水を張り入れる。これで一応バックアップ処理は完了。成功かどうかは未来に乞うご期待

          植物のバックアップ //220223四行小説

          プリムラの呼ぶ春 //220221四行小説

           今冬最後の雪が降る。頭上の雪雲が通り過ぎれば、春がやってくるのだという。うっすらと積もり辺りは白色に染まっているのだが、真冬とは違ってやはりどこか春に近付いていることを感じる。耐寒性のプリムラが紅色に縁取られた黄の花を咲かせていて、遠い空の向こうには確かに春があることを教えている。  プリムラの花を撮ろうとスマートフォンを向けると、花の映った画面に雪が落ちて六花が咲いた。綺麗な結晶は画面の熱ですぐに小さな水滴になってしまったけれど、脳裡に雪の花の形はしっかりと残っている。冬

          プリムラの呼ぶ春 //220221四行小説

          名は遠くへ //220218四行小説

           名前は風に融けていく。この世に生まれ初めて他者から貰う『名前』というものは、切なる願いを籠めたものであるけれども、付けられた当人にとっては束縛にも似ていた。いわば呪い。人に呼ばれる度に願いは重なり降り積もっていく。  自分は今ここにいる。今は自分にも願いがある。ならば、自分の名前は自分で付けるべきではないのだろうか。大人というにはまだ幼いかも知れないが、この願いは大人になっても老人になっても持ち続けている自信がある。強く強く、一人の願いではなく多くに願われれば強くなるのなら

          名は遠くへ //220218四行小説