羽根ひとつ //220302四行小説

 水面に波紋が広がった。行き道に通りかかる池は、この時期になると鴨が夫婦でやってくる。一昨日も昨日もいたから、きっと波紋を作ったのは鴨に違いないとそちらを見やる。
 羽根が一枚、水面に浮いていた。
 鴨はいない。そういえば、どこか今日は池が静かな気がする。生き物の気配が少ないような、何かに脅えてどこかに隠れてしまったような、奇妙な静けさがある。一体何がいるのだろう。池を覗いても底は見えず暗い。深く深くどこまでも続いていそうな黒い水が揺れている。……私は逃げ損なってしまったのでは無かろうか。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?