春夏日 // 240522四行小説

 友人が、いたく涼しい格好をしている。
 制服の移行期間は六月だから一応それまでは長袖を着なければいけないのだが、家の前で合流した彼は腕を露にしていた。
「クラス委員である自分が率先して半袖を着れば、みんなも着やすくなるかと思って」
 その少し斜め上の使命感に、ちょっと天然なのではないだろうかと思うも彼はいたって真剣な表情をしている。移行期間は校則で決められているから怒られてもおかしくはないのに、彼はみんなのためを思ってそうしたらしい。確かにここ最近は五月だというのに夏日である二十五度を超える日が続いていた。
「五分だけ待ってて」
 俺は一旦家へと戻り、押し入れから夏服を引っ張り出した。友人ひとりを怒らせるわけにはいかない。半袖が二人いれば、話も通りやすくなるのでは無いだろうか。少し湿気た匂いのするそれに袖を通し、晴れ渡った空の下で待つ友人の元へと急いだ。

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