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逆噴射小説投稿分

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逆噴射小説投稿作
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記事一覧

灰白に咲く花

 吹き上げるビル風に前髪が靡く。一歩踏み出せば全ては終わる。己の知らない内に、望んでいたのだろう。死という物を。
 三ヶ月前、急に職場に行くことが出来なくなった。始めは頭痛に苛まれ、次第に朝起きることが困難になった。適応障害と診断され休職届を出すも、治る兆しは無い。その内に料理さえ出来なくなって、起きられなくなった。
「ここから飛ぶつもり?」
 背後には男が立っていた。男の持っている煙草の先には赤

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直感探偵

 口にはバツ印に赤いマスキングテープを貼られ、心臓は百円均一の包丁で一突き、太ももに花の模様を彫られた死体が今日も発見された。彫られた花の中心には、本当に花の種が埋め込まれているのだという。埋めて死体を栄養に花を咲かせたいとでも思っているのだろうか。
 このところ連日報道されるのは、世間を賑わせる殺人鬼のことだった。手口が鮮やかで、どこか詩的であることから、言い方は悪いが人気の殺人鬼だ。今のところ

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幽霊跳躍時間齟齬

「お前は本日の死亡時刻より、導き手に任命する。拒否権は無い」
 自分の死体の側に幽霊の自分は座っていて、神の代理人が指をさしてそう告げた。
「導き手? なんで俺が?」
「お前がこの事件の全ての元凶だからだ」
「……は?」
 俺はどちらかと言えば被害者のはずだ。出社した直後に爆発に巻き込まれて死んだのだから。
「お前が寝坊さえしなければ、齟齬は生まれず今回の爆発事故は起きないはずだった」
「いや、そ

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満月ハロウィン

 目の前に広がる光景に、息を呑む。
 なんで、こんな、血生臭いハロウィンになったんだ……?
 テレビで見るハロウィンに憧れて、今日という日を楽しみに田舎から都会に意気揚々とやってきた。ドラキュラの仮装をして、いざ街へと出るとーー満月の下で人狼が牙を剥いて人間に噛みついていた。しかもそれだけでは飽きたらず、食い尽くすように尚も噛みつき、辛うじて逃げられた者も人狼になっていく。
 映画のような光景に呆

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有罪探偵

 嘘など吐いていないのに、なぜこうも蔑ろにされなければならないのか。
「だから言ってるでしょう。俺が殺したって!」
 困ったような顔で、警察官二人が顔を見合わせる。一人が深いため息の後に諭すように言った。
「事情聴取の結果、犯人はあなたじゃないという結論になりました。あなたの言っていることと現場の状況には矛盾が多過ぎます」
 もう何度目かになるか分からない結論を聞かされる。それを自分は認められない

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