満月ハロウィン
目の前に広がる光景に、息を呑む。
なんで、こんな、血生臭いハロウィンになったんだ……?
テレビで見るハロウィンに憧れて、今日という日を楽しみに田舎から都会に意気揚々とやってきた。ドラキュラの仮装をして、いざ街へと出るとーー満月の下で人狼が牙を剥いて人間に噛みついていた。しかもそれだけでは飽きたらず、食い尽くすように尚も噛みつき、辛うじて逃げられた者も人狼になっていく。
映画のような光景に呆然としていると、背後でブレーキの音がした。
「お前はまだ人間だな? 見とれるのも無理ねぇよ。最高のハロウィンだもんな。これ程までにハロウィンらしいハロウィンが未だかつてあっただろうか? いや、無い!!」
ヤバい奴がいる。そう確信しながら振り向けば、バイクに乗った若い男が心底愉快げに笑っていた。
「最高? そんなわけ無いだろ……!? あの人狼は一体何なんだ?」
俺の言葉なんて無視して、そいつは首元をひっつかむ。
「なんだよ!!」
「乗りな。お前もあれに混ざりたいってんなら、置いてくけど」
親指でバイクの後ろを示し、乗るように促される。周囲はだんだんと囲まれてきていて、いつこちらに矛先が向いてもおかしくはない状況になっている。
選択肢はない。俺は急いでバイクの後ろに跨がった。
「なぁ、ヘルメットは?」
「無い! まぁ噛まれて狼男になるより、人間のまま事故ってぐちゃる方がましだろ?」
「どっちも嫌だよ! 安全運転でーー」
「黙ってな。舌噛んで死にたくなけりゃな!!」
アクセルが全力で踏み込まれ、慣性に従い後ろに取り残されかけた俺は慌てて名前も知らない男の腰にしがみついた。
続く
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