灰白に咲く花
吹き上げるビル風に前髪が靡く。一歩踏み出せば全ては終わる。己の知らない内に、望んでいたのだろう。死という物を。
三ヶ月前、急に職場に行くことが出来なくなった。始めは頭痛に苛まれ、次第に朝起きることが困難になった。適応障害と診断され休職届を出すも、治る兆しは無い。その内に料理さえ出来なくなって、起きられなくなった。
「ここから飛ぶつもり?」
背後には男が立っていた。男の持っている煙草の先には赤く火が点っていて、ビクリと体が跳ねる。
「十分だけ時間くれない?」
「いいけど何を──っ!?」
首筋に痛みが走り、振り返ると男は手に注射器を持っていた。次の瞬間ぐわんと視界が回る。強い頭痛と目眩にその場に蹲る。首筋から上へと何かが這い上がっていく感覚がある。頭に、何かがいる。
「気持ち悪……」
「十分で戻るよ」
横たわる俺の側に、男がしゃがむ。のたうち回る俺には一切何もせずに、ただ腕時計を見ていた。
「はい、十分! 気分はどう?」
十分経つと、確かに気持ち悪さは無くなった。その上──
「俺、 死のうとしてた?」
「してた」
「なんで!?」
今はなぜそんなことをしようとしていたのか分からない。頭の中がクリアになりこの状況の異常さを理解する。
それまでには出来ていたことが、この三ヶ月間は出来なくなっていた。まるで操られていたかのような。
「操られてたんだよ。寄生植物に」
「植物……?」
「寄生されると精神に異常をきたすんだ。そいつは火が苦手でね。煙草の火ももう大丈夫だろ?」
「大丈夫だ」
「除草完了! お疲れさん」
「首に打ったのは薬か何かだったのか……」
「いや、虫」
「虫!?」
「その植物が好きな寄生虫がいてね、食べてもらったよ。大丈夫、悪さはしない」
「気持ちわる……」
想像するだけで気持ちが悪い。今も俺の中を虫が這ってるのか……
「俺は植物を植えた奴を探してるんだ。三ヶ月前にアレロパシーっていうバーに行かなかった?」
【続く】
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